0−13

 さて、何から説明すればいいだろうか。



 まんまと騙された俺なのか、騙す女ねねか、緊張しっぱなしでカチコチの唯か、笑う王様か、俺の後ろで怯えるフェリか、フェリを怯えさせる賢者様か。



 まずは、ねねが王宮で勤めることになったところからにしよう。


 呪いも消え、体調が戻り、セシリア王国との『しがらみ』も無くなったねねだったが、それでも王国に務めることを選んだ。


「私のスキルって病人や怪我人を鑑定して治療に繋げられるよね。逆に言うと、患者さんが一杯居たほうが私の成長につながると思うの。

 まぁセシリア王国には思うところはあるけど、それほど怒ってはいないしね。

 それにこの1か月でみんなに差をつけられちゃったから、追い付くよう頑張らなくっちゃ」

 ねねは目標を見つけ、前に進み出すことが出来たようだ。

 ねねのスキルは冒険者などに向いているスキルではないからね。


「あのねっ!ねねちゃんはね、誰かが王国に近い所にいたほうが情報が集めやすいだろうってっ!

 トモが誘ってくれたことも感謝してたんだよっ!あっ、これはナイショだった」

 そういえばねねと唯がなにか話してたっけか。


 まぁ遠い距離でもないから、たまには顔を出してやるかと思っていた次の日に再開したわけだが。



 一緒に召喚された高校生達が行方不明ということで、ねねから俺たちに捜索の協力を求められた。


 と言っても、俺もあの四人とは顔を合わせたぐらいだし、捜索に向いているスキルや魔法があるわけではない。


 それにあの四人も勇者なんだし、国の方でなんとかしてもらったほうがいいんじゃないのかと思うが。

 俺たちではなく、もっと適任の専門家に頼んだほうがいいだろう。


「ちょっとっトモっ!アタシ達の可愛い後輩が行方不明なんだよっ!

 もうちょっと無いのっ?親心?みたいなやつっ?」


 唯、なんかいつもより強めだな。そうは言ってもね。

 確かに娘と同世代だけど、それを言ったら全ての知り合いの子どもたちに親心を持たないといけなくなるよ。



 唯の圧に負けて、何か役に立つならと俺が折れた先に、サミィの転移術で連れてこられたのはセシリア王国の王城だった。



 転移先にいたのは、この国の大臣のハンズ・クロウティーさん。

「おや、この度はご無事のようで何よりでしたね。

 まさか他国に渡っているとは思いもしませんでしたが」


 いきなりの大物の登場に、ここで俺たちが、いや、俺がねねと唯に一杯食わされたことに気がつく。


「でも、でもねっ!早めに王国と和解しておいたほうがいいと思ったんだよっ!」

 唯が泣きそうな顔で訴えてくる。


 わかった、わかったから。おそらくねねの入れ知恵なのだろうが、確かにこのままっていう訳には行かないだろうからな。

 唯の頭をポンっとして、大臣に向かって挨拶をする。


「この度、セシリア王国に報告もせず他国へ渡ったことは、礼儀に欠けた行動だったと理解はしている。

 ただ、俺たちを洗脳していたのはいただけない。

 まぁそちらにはそちらの都合があるのだろうが、この世界に勝手に呼んでおいて、国に従うよう仕向けたいわば駒扱いだもんな。

 ねねの上司になってもらった訳だからあまり多くは言わないけれど、俺たちは自由にやるので、そう思ってくれ」


 ケンカを売るわけではないので、まぁここらへんが落とし所だろう。

 どうせ俺たちの居場所はすでに調べはついていただろうし、その中で泳がせていたんだろう。


 ハンズ大臣は、俺の嫌味には何も言わずに頷いて部屋の外に出ていった。


「ほら、ついていくわよ。今度はアルバード様との謁見だからね」


 まじかい。あー面倒くさー。




 俺たちは謁見の間で待たされている。こういうのって普通、王は先に玉座に座っているものじゃないの?

 それに王との謁見なのに、俺たちみんな普段着だけど問題ないの?

 ねねは制服とか支給されていないの?


「アルバード様はそういうの気にしない方だから大丈夫よ」


 ねねが言うのなら大丈夫なのだろうけど、「うむ、苦しゅうない」とか言われてもどう返事をしていいかわからんぞ。


 唯は緊張でカチコチしている。別になにかされるわけではないんだからそこまで緊張することないだろうに。

「だ、だって王様だよっ!」


 王座の後ろのカーテンが揺らめいた。奥に扉があるらしい。入ってきたのは王様だろうか。

 そんなところに通路があったら、暗殺者とかが知ったら王の命が危ないと思うのだが。


「やあ、待たせたな。楽にしていいぞ」


 王様らしからぬ、右手を上げての軽い挨拶。そして若いっ!白髪のヒゲ爺さんを想像していたのだが、今の俺と同じ20代って言っても遜色ないのに、威厳みたいな荘厳なオーラは感じられる。王の魔力なのだろうか。


 突然、隣りにいたフェリが飛びついてきた。王のオーラに気圧されたのかと思いきや、フェリの隣りにしゃがみこんだ銀髪ロングさんがいた。

 いつの間にっ!?


「‥‥これがサーベルキャットとは思えないわね。不思議ね。

 魔力は、人間のものと同じ。姿は獣人なのね。魔物の力、うまく受け継いでいる。不思議ね。

 これは貴方のスキルなのね。どういうスキルなのかしら。うん、わからないわね。不思議ね」


 銀髪さんは女性だった。髪から飛び出した耳からしてエルフさんかな?

 こら、勝手にフェリを撫でない。フェリの尻尾がビリビリしてるから。



「セシルバンクル、それくらいにしてやれ。話が進まん」


 王が止めてくれたので、話が進みそうだ。ほら、セシルバンクルさん、呼んでるよ。ほら、ほら戻れよ。 

 こら、このエルフっ!フェリの尻尾を掴むんじゃない。


 セシルバンクルさんを押しのけようと手を伸ばすと、一瞬で王の隣に移動していた。


 何その魔法っ!超便利じゃんっ!


 ハンズ大臣がひとつ咳払いをして、俺達に声を上げる。


「アルバード王、賢者セシルバンクルである。

 王からのお言葉である。静粛にせよ」


 エルフ様は賢者様だそうだ。全く、めんどくせえ賢者様だわ。


「異国からの勇者よ。ここの王、アルバードだ。

 まずは謝罪しよう。多くの犠牲が出た。そなたらも難儀であったと聞いている。すまなかった」


 流石に面食らった。いきなり頭を下げるとは。

 大臣と同じく、一言二言文句を言ってやろうと思っていたが。


「三矢と言います。先月の魔の刻では、確かに召喚されたばかりの多くの仲間が失われました。

 ただ、あの城で私達を警護していただいた護衛や兵士の皆さんも、勇猛果敢に、魔物に立ち向かっていただきました。

 その皆さんのおかげで、俺たちは生き延びれたと確信しています。

 国民や国土にも、魔木による尋常ならざる被害が出たと聞いています。

 痛み分け、となるかはわかりませんが、未来を見据えるためにも、ここらで双方遺恨なくできればと思いますが、どうでしょうか」


 俺たちもそこまで恨みも無いしね。

 ねねがここで務めていく枷にならないよう、貸しも借りも作らず終わらせたいところ。



 王はニヤリと笑いながら、

「そうか。俺の謝罪はそのまま受け取って構わん」


 まあしょうがないか。謝罪もホントはいらないのだが、王の方も引っ込める気も無さそうだ。



 後で、借りがあるから、とか言われないことを願おう。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る