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「ホントにここか?なんだか出そうなんだけどっ!」



 タツヤがオバケにビクつく中、私達は、ニーナさんから知らされた情報を頼りに、地屋敷の下脱出経路口に来ていた。共同墓地である。



 3人とも物憑きが取れたかのようにスッキリした中で、結論に達したのは、「自分たちの行動を制限する魔法をかけられていた」だった。


 どこで魔法をかけられたのか、何がきっかけで解除されたのかはわからないが、これで前に進むことが出来る。



 私達は、国にケンカを売ることになるけど、あの公爵の息子をぶっ飛ばしてカオリを助け出す。

 そして国外脱出して、4人で生きていくことを決めたのだ。


 ただし、いきなり正面から突破するほど馬鹿ではない。頂いた情報は有用に使わなきゃね。



「あったぞ。ここだろう」


 シンジローが、ニーナさんの書付に記された墓を発見した。

 ハインツフルト家の墓で合ってそうだ。なんか古ぼけた石のお墓だけど、管理は行き届いている。


「じゃあ、タツヤとシンジローでこれを動かしてちょうだい」

 墓石の下に階段があって、そこから伸びた通路が屋敷に繋がっているらしい。


「げっ!まぢかっ」


 それにしても、どうやって調べたんだろ。ニーナさんの諜報能力が凄すぎ。

 さて、私は調合済みのアイテムを、ってタツヤ、ギャアギャア騒がないのっ!




 今回使用するのは、『唐辛子爆弾』と『ドスラちゃん』です。


 通路の屋敷側で、ドスラちゃんに唐辛子爆弾を燻してもらいます。



 私って攻撃出来るスキルとかが無いので、この1ヶ月、錬土術を試して色々試行錯誤したんだけど、1番得意なのは、粉末を作成することだったんだよね。

 

 ホントは火薬を錬金して爆弾とか作りたかったのだけどレベルが足りなかったので、痴漢撃退スプレーの粉版を錬金しました。


 このお団子にした唐辛子爆弾は、燃やしたときの煙が同等の効果を発揮する。

 タツヤ達で実験済みなので、効果は問題ない。


 それと、なんとなく出来るかなと思って作ったら出来た、土スライム。略してドスラと呼んでいる。

 動きは遅いけど簡単な命令を聞いてくれる。ただ、1時間程度で土に戻ってしまう。


 初めて錬土術師って聞いたときに、もしかしたらゴーレムとか作れるんじゃないと思っていた。

 ただ、ゴーレムは私のスキルでは強度が足りなかった。残念。

 

 ドスラの錬金材料は、火山の溶岩粉と、生の魔木から抽出した水分。


 魔木って地中深くに流れる火山の溶岩の魔力を養分として吸収している。

 だから魔木はバーンアウト、燃えながら襲ってくるそうだ。


 ホント意味わからないよね。




「沙織っ!とりあえず設置はオッケーだ」


 タツヤが通路内の確認と、ドスラの設置から戻ってきた。


 通路内に見張りなどは居なかったみたい。屋敷のギリギリのところに今回の罠を設置した。通路も途中で埋めてこれたみたい。


 あとは屋敷から煙が出るのを待つだけね。





「あっ‥‥、動けるし、声が出る?」



 右手につけられていた指輪を外す。きっとこれのせいで‥‥。



 香です。結婚して、正式に聖女にさせられてしまうそうです。



 今は公爵様のお屋敷にいるんです。

 

 昨日、公爵様の使いの方が治療院に来て、ご用があるらしくお屋敷へ伺ったの。ニーナさんも一緒に来てくれたんですよ。


 お屋敷では執事の方に、前のように魔力が暴走したら困るということで、この指輪を渡されたのです。


 うぅ、確かに以前、公爵様のお城を壊してしまったから。

 今は制御ができているからもう大丈夫ですよ、と言いたいけど、言えないです‥‥。

 

 指輪を付けてから、記憶が曖昧なんです。自分で体が動かせなくて、声が出せなくて。


 ただ、断片的には覚えていて。

 王様のお城に行って、香がエリック様と婚約することと、聖女としてお披露目されることが決まってしまいました。


 エリック様の言うことに従わないと、さっちゃん達が危ないんですって。

 

 結婚って、おたがいが愛し合ってするものだと思うんです。デートもしていないんですよっ!

 まだ、エリック様のことも詳しく知らないのに。

 

 そんなことを考えていたら、ドアが勢いよく開き、そのエリック様が入ってきたのです。

 普通、ノックぐらいしますよね。女性の部屋なのですから。エリック様は、そういう知識、経験は無いのでしょうか?

 結婚するのであれば、そこらへんは学んでいただかないとです。


「邪魔なメイドは追い出したぞ。時間ばかり取らせやがって」


 そう言ってエリック様は、腰を掛けていたベッドに香を押し倒してきたんですっ!


「きゃあっ!!」


「うがっ!!」

 

 エリック様は、天井にぶつかりました。落ちてきます。でも、良かったです。落ちたところは、ちょうどベッドでしたから。

 うん。布団をかけてあげたら、寝てしまったように見えますね。


 こちらの世界では、ロマンチックな愛の囁き1つも無いのが普通なのでしょうか?


 それに、邪魔なメイドっていうのはニーナさんですよね。追い出したと言ってましたけど、ニーナさん、酷いことされてないでしょうか。


 よくよく考えたら、エリック様って結構失礼な方です。


 ちょっと、こういった男性は好きにはなれそうにないです。


 エリック様、寝ているところ申し訳ないですが、結婚の話は無かったことで、ということでお願いしますね。


 

 昨日はこのお屋敷に泊まったようなので、さっちゃん達が心配しているはずです。


 部屋を出て出口に向かいます。

 途中で数人の兵隊さんやメイドさんにお会いしましたけど、香が会釈したら、皆さん不思議そうな、困った顔をしていました。

 何だったのでしょうか。


 ただ門番さんは別で、とても失礼な方した。

「そこの女。エリック様から外出の話は聞いていない。大人しく屋敷に戻れ」


 ちょっとこれにはムカついたと言うんでしょうか。

 香はそちらのご主人から呼ばれているんですよ。それを、そこの女とは、ちょっと失礼ですよね。

 あの主人にしてこの門番さんありってところですか。


 最近、進くんから当て身っていうのを教えてもらって、香バージョンとして、魔力を当てるというのを覚えたので、練習させてもらいました。



 さて、みんなの家に帰るとしましょう。



「カオリーっ!無事だったのねっ!!」

「香様ーっ!」



 あーっ、さっちゃんとニーナさん。竜くんと進くんも。


 みんなも無事で良かったです。



 ひとしきり無事な喜びを分かち合ったあとで、竜くんが公爵様のお屋敷の方を見て笑いながら、

「おいおいっ!スゲーことになってるけどっ!?」


 香も振り返ったら、それはそれは真っ赤な煙がモクモクとお屋敷を包み込んでいたんです。


「大変っ!火事でしょうか!?」


 消防車を呼ばないとってみんなに言ったんですけど、竜くんも、さっちゃんも、ニーナさんも笑っています。

 進くんが、

「自業自得だ」

 って言うので、きっと大丈夫なのかなって思いました。



「あれは、私達4人のこれから始まる大冒険の狼煙っ!

 カオリ、一緒に行くよっ!」


 竜くんが、「俺のセリフなのにっ!」って笑いながら、伸ばした手に、さっちゃん、進くん、香も手を乗せて、竜くんがいつもの儀式の掛け声を叫びます。



「行くぜっ!!冒険の開始だっ!!」



「「エイっエイっ、オー」」




 香は、みんなと一緒にこの世界に来れて良かったです。

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