0−4

「ここがアットランドの国、アットサマリーの街か」



 俺たちはサレンダーさん達と一緒に、ドワーフの国アットランドに入った。

 そして、この異世界にに到着して初めての街に入った。


「ヤバっ!なんだかファンタジーって感じだねっ!!わぁっ!建物全部がカワイイっ!全部木造なんだねっ!ねぇ、あの人ってエルフの人かなっ!?」

 唯のテンションが変になっている。だけど気持ちは十分わかる。俺もワクワクが止まらないから。


 

 生活や行商をしている人が行き交って、活気のある街だった。人口もある程度いるんだろう。屋台のようなお店が立ち並んでいる。

 兵士みたいな人もいれば、ザ・冒険者といった皮の鎧に腰に剣をぶら下げる男性。ビキニアーマーを着たウサギ獣人の女性に、杖と帽子のザ・魔法使いの老人。


 興味を挙げたらきりがない。完全にオノボリサンとなっている俺たちに、サレンダーさんが呆れながら声をかける。


「初めてってのはわかるが、そんな調子じゃ目立ってかなわん。ほら、こっちだ」


 俺と唯は今、日本から来たときの服、俺はフリースのトレーナーとジーパンでデカい黒い箱を軽々と担いでいるし、唯は現場誘導員の作業着という、この世界の住人からしたら確かに目立つ格好をしていた。

 恥ずかしくなりながら、フェリの手を引いて俺の影に隠れる唯と一緒に、コソコソとサレンダーさん達の後をついて冒険者ギルドに入った。



 ギルドの中は、俺のイメージ通りのザ・冒険者ギルドだった。

 奥に受付のカウンターがあり、壁にはおそらく依頼が貼られるであろう掲示板がデカデカと貼ってある。

 このテーブルや椅子は、冒険者のパーティが待ち合わせたり、打ち合わせをしたりするときに使うのだろう。

 隣の建物には、魔物の解体スペースとかがあるのかもしれない。



「お前たちはこっちだ。アリシアー、サカグ達の対応してくれ。俺はこいつらと用がある。2階は誰か使ってるか?」

 サレンダーさんが呼んだ受付のアリシアがこちらに笑顔を向けてくれる。

 ウェーブのかかったセミロングで、ピシッとした制服に身を包んだかわいい系の美人受付嬢だわ。痛っ。


「ちょっとっ!鼻の下伸びてるよっ!」

 唯に背中を肘打ちされた。


「ふふっ、新しい方たちですね。アリシアです。よろしくお願いいたしますね。

 マスター、2階は空いてますよ。ただ上から報告書の催促が来てますので、早めに切り上げてくださいね」

 アリシアさんは仕事の出来る女性だった。おそらく大人気ギルド職員だな。

「あー、わかったよ。ほら、お前らはついて来い」



 サレンダーさんについていき、2階の部屋に入った。接客室みたいな感じなのだろうか。テーブルを挟んでサレンダーさんと向かい合い、ソファーに腰を掛けた。


 アリシアさんではない受付の方かな?お茶とお茶菓子を持ってきてくれた。軽く会釈をする。

 フェリがお菓子を食べたそうに、ジット一点を見つめている。

 サレンダーさんもそれに気がついたのか、フェリにお菓子の乗った皿を寄せてくれた。

「食べていいぜ嬢ちゃん。

さて、道中もある程度の話を聞いたが、もう一度確認させてもらうぞ」



 俺たちは、召喚されてからの今までの話を包み隠さず話をした。

 

「なるほどな。んで、この世界に対する反逆心なんかは無いと見ていいんだな。


 セシリア王国が、そのミサンガで洗脳したっていうのは、おそらくだが呪いの一種だろうな。どの国も同じようなことはやってる。

 まぁ、解除しちまっているから言っちまうが、勇者召喚ってのは、いわば一方的な拉致や誘拐みたいなもんだ。お前たちの都合なんか考えてやしないからな。

 いきなりそんなことをされてみろ。もしもだ、お前たちには無かったようだが、一瞬でその場の者たちを殺せる力があったり、凶悪な悪魔を呼んでしまった場合、都合が悪いのは、勝手に呼び寄せたこちら側だからな。

 保険のために着けさせるのが当たり前だ。

 一応、国だって馬鹿じゃ無いから、ある程度の当たりをつけてからの召喚だろうけどな。

 ただ、セシリアが誤算だったのは、人数が多かったことだ。勇者召喚はどの国でも行われている。探せばどの国でも先輩勇者が見つかるだろう。

 勇者召喚で呼ばれるのは、一回の召喚で多くて5人程度だ。 

 召喚されたときのセシリアの兵士の数なんかを覚えているか?おそらく、17人を制御するだけの兵士数では無かったはずだ。

 万が一の場合は、召喚と同時に殺さなければならない。

 最初の話に戻るが、この世界や国に楯突くと言うならば、俺がお前たちを殺さなければならない。

 それは無いということでいいんだな」


 サレンダーさんの微かな殺気が感じられる。ただ、嫌な殺気ではない。


「俺たちは反逆心どころか、不満もそこまでは持ってない。

 完全に無いかと言われたら、勝手に召喚されて仲間たちが殺され、唯も心が壊れそうになったし、死にかけもしたので、不満といえば不満なのかもしれないが、向こうの世界で死んだと言うのも、洗脳が解けたあとも納得してるんだ。しょうがないというのか。

 もうこの状況を楽しむというのも変な話なんだが、一生懸命生きる事に気持ちをシフトしている。

 目標としては、日本に帰ることが出来れば、いや、帰りたいとと思っているし、そのためにサレンダーさん、あなたの持っているこの世界の知識と経験を、俺たちに分けてもらえればと考えている」

 俺は、サレンダーさんの目を見て、今の思いを伝えた。隣で唯も頷いてくれている。



 サレンダーさんは笑っていた。

「俺もな、このギルドである程度の人間を見てきたからな。お前たちが裏を持ってる奴らだとは思っちゃいねえ。試すようで悪かったな。

 それにな、バリカル湖での一件から見させてもらったが、お前らのスキルを使われたら俺のほうが生きていられねえわ。

 いいぜ。お前たちがまぁ半人前になるぐらいまでは力を貸してやろう」

 サレンダーさんはそう言って、右手を差し出してきた。


 俺も右手を出して握手をしようとしたところ、サレンダーさんに胸を殴られた。


「バカか。全部を信じるな。俺が『右手で触った物を殺せるスキル』なんかを持っていたら、お前は今死んでいたぞ。

 すべてを疑え。そして考えろ。ここで生きている奴らは、そういう奴らだ」


 確かにそうだった。日本に帰るためには、日本の日常を忘れないと、この世界で生き抜かないと、唯もフェリも護れない。

 甘ちゃんな自分と、今叩かれた胸が痛い。


「まぁ説教はこれから嫌でも聞くようになるから覚悟しとけ」

 ハゲたオッサンのニカッとドヤ顔がこんなに眩しいとはっ!決して、スキンヘッドで光が反射しているからではない。一部だけだ。



 でもどうして、ここまで他国の他人で異世界勇者の俺たちの世話を焼いてくれるのだろうか?

 それも、目立ちたくないという願望も理解してくれている。


 確かに恩を売っておけば、俺たちは恩で返すだろう。ただ、セシリアから逃げ出したような形になっている俺達だ。

 国に突き出せば、犯罪をしたわけではないから懸賞金はかかっていないだろうけど、ギルドの支部長としての成果にもなるだろう。

 俺たちをこの国に誘い込んだメリットは少ない。逆にデメリットのほうが多いよな。


「かーっ、そんなこと考えてんのか。お前も俺もやりたい事をやる。それでいいんだよ。

 まあひとつ教えてやるが、以前にもお前らみたいな奴らがいてな。

 俺が気に入ったんだよ。そいつらも、お前らもな。

 恩で返すんなら、ここで1番の冒険者にでもなってみろや。俺が楽できるわ」



 

 俺の中で少しだけ、この世界が好きになった瞬間だった。



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