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 昨夜の黒い騎士の報告のため、王宮の執務室に呼ばれた。今日、愛子さんは居ない。警備の兵士に案内され、調査官を待っている。



「あーっ!ねねちゃんだっ!良かったぁ〜!」


 私は聞き覚えのある声に呼ばれ、振り返ると元気な沙織ちゃんとしょんぼり気味の香ちゃんがこちらに歩んできた。

 後ろには確か竜也君と轟君だったかな、高校生の男の子達も部屋に入ってきた。


「沙織ちゃんも、香ちゃんも、良かった、無事だったのねっ!」

 女同士喜びを分かち合う。竜也君と轟君にも声をかけた。


「ねねさーん聞いてもらえますっ!?俺スゲーんすよっ!死んだっ!と思ったんすけど、復活っ!って感じで

「ちょっとタツヤっ!近いし意味わかんないのよっ!ねねちゃんが引いてるじゃないっ!」

 竜也くんが興奮して、鼻息荒く迫ってきたところを沙織ちゃんが間に割って入ってくれた。



 話を聞いたところ、昨日、私と同じように兵士の人たち護られながら黒い影に遭遇したらしい。

 4体の黒い影が突如現れ、いきなり竜也君が首を斬られたそうだ。


 ショックを受けた香ちゃんの魔法が突如暴走し、黒い影や魔物、周りの護衛含め、城ごと吹き飛ばしたらしい。

 その後、香ちゃんがまたまたやらかして、広範囲の回復魔法を発現させて怪我人を治療してしまい、『聖女』に認定させられそうだという、あまりのトンデモ内容に乾いた笑いしか出なかった。


 それで生きてる竜也君もスゴイけど、香ちゃんのほうがスゴイすぎないか?


「うぅっ、私は聖女なんかになりたくないのに‥‥」

 落ち込む香ちゃんは、数日前の食事会で話してたとき、日本では病弱だったからこの世界で大冒険をしたいって意気込んでいたもんね。




 報告とは名ばかりで、調査官と名乗った男性から私達の今後の方針を簡単に指示された。『扱われ方』という感じだった。

 

 2週間は今と同じように護衛対象とされ王宮内で過ごしながら、同時に各自のスキルを発現させるための訓練をしていく。それぞれにあった専門家が派遣されるようだ。

 その後は王宮で、愛子さんと同じように勇者職としての仕事を覚えていくらしい。

 

 私達と同じく召喚された他の勇者の状況を聞いてみたところ、明日の朝一番にここに呼ばれる予定みたいなので、時間があったら会いに来てみようと思っている。


 昨日あんなことがあったせいなのか、私達だけ急に連れ出されたからかもしれないが、1日離れただけなのにみんなに会えるのが楽しみでしょうがない。


 トモは眠そうにしてるんだろうな。私が抜けちゃったから北さんと唯ちゃんが一緒に行動しているだろうし。コティさん‥‥は、とりあえず軽くあしらってやるか。

 


 私達は護衛に囲まれながら、転移陣のある部屋へと歩いている。王宮から離れた場所に宿泊施設が用意されていた。明日の訓練は、研修施設で座学が行われる。

 

「あー。せっかく勉強から開放されたと思ってたのになー」

 竜也君がが口をとがらせて


「私は‥‥一緒に、勉強出来るの嬉しいな」

 病弱だった香ちゃんは、みんなと一緒に授業などに出れなかったみたいだからね。


 高校生グループは、公爵様の所に宿泊らしい。香ちゃんは、みんなから「また破壊するなよ」って釘を差されてるけど、大丈夫だよね。


 

「ねねちゃん、じゃあまた明日ねっ」

 沙織ちゃん達と別れて、護衛の方たちと部屋に戻る。

 高校生達の仲の良さを目の当たりにして、ちょっぴり寂しさもある。


 まあ明日にはみんなが呼ばれるって言っていたし、独りでいるのも今日限りかもしれない。

 ちょっぴり楽しみにしながら、部屋に戻っていった。




 翌朝、朝食を取ったあと昨日の執務室に向かった。

 扉をノックして中に入ると、一緒にお城に来た高橋くんと桜井くんが、女性を連れて席に座っていた。


「チッス。宇都宮さんも無事みたいッスね!」

 高橋くんと挨拶をする。いつもより元気が無いみたい。やはり二人も黒い兵士に襲われたらしい。

 もう一人の女性も、私の顔を見て会釈をしてきた。

 あー、もしかしたらあの時話していたハスミさんだよね?

 もう一緒に行動してるのか〜。


 他のみんなはまだ居ないみたい。もしかしたら何か聞いているかもしれないと思って3人に聞いてみた。


「今日はまだ3人だけ?あのお城に残った他の人たちもここに呼ばれてるって聞いていたんだけど」


 私が聞くと、3人は顔を見合わせ少し落ち込んだ感じで桜井くんが話しだした。



「宇都宮さん、‥‥まだ聞いてないんですね。

 

 気をしっかり持ってくださいね。今日ここに呼ばれたのは、僕たちだけです。


 僕たちの、職場の仲間たちも、彩芽ちゃんも、その他の人たちも、


 あの城で、死にました」












え?










「宇都宮さんっ!!」









 私の記憶は、そこで途切れた。




 

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