0−B
愛子さんから聞いた話はこうだった。
6年前にザムセン国で起こった『魔の刻』のこと。今回、同じような事が起きる可能性が高いこと。
まだ全てが解明されている訳では無いみたいだが、神のルールとして、召喚された勇者の数、もしくは勇者のスキルが関係しているのではないかということ。
勇者召喚は、1年ずつ各国持ち回りで行っているらしい。
今までは、一度に召喚された勇者は多くても5人だった。ただザムセン国は、故意か事故かはわからないが40人を召喚してしまった。
そして、ルールに違反した場合、ペナルティとして国も何かしらの被害を受けるのだろうということ。
ザムセンは勇者召喚の3日後に、国の殆どが無くなったらしい。
ただ、今回も3日後とは限らない。
召喚規模が小さいので、それより前に何かが起きるとは考えにくいが、安心できるまでは厳戒態勢を続けるみたい。
「やっぱり神様っているんですね」って聞いたら、「死んだあとに、記憶も残った自分のまま若返って、違う世界で生きてるなんて、神様しかできないでしょ」って言われて納得した。
「過去には神様が、私達の前に顔を出していたらしいしね」
「それは、神話みたいな創作のものでは無いんですか?」
「なるほど。その可能性もあるけど、この世界に長く居れば居るほど、神様の存在を認めるしか無いような事が起きるからね」
愛子さんが時計を見た。
「さて、あと30分で暗刻が来る。もう一度確認するよ」
もうそんな時間か。私は小さくうなずく。
「お城全体に結界が張ってあって、それとは別にこの部屋にも結界が張ってある。今のねねちゃんには、戦う力は無いから部屋の中心で待機。
ずっと言っているけど、ここは日本じゃない。魔法の国、おとぎ話の国だと思うこと。
普通じゃ考えられない事が起こるからね。それだけは頭に入れておいてね。
何も起きないに越したことはないんだけどね。でももしも今日、何かが起きるならば、全ての魔力の接続が切れて、おそらく停電になる。びっくりしないこと。
この部屋には、ねねちゃんを守るための10人の最強の護衛がいる。
だけどね、下手に手を出さないこと。私達がたとえば死ぬような怪我をしたとしても助けないこと。はっきり言うと邪魔にしかならないわ。
ねねちゃんの隣には、自称異世界最強勇者の私がいるから安心してね」
「はい。皆さんもよろしくお願いします」
「みんな、神には頼らないよ。わたし達で乗り越えるよ」
■
「暗刻、来ます!」
外から女性兵士さんの声が聞こえた。
その直後、言っていた通り、停電になった。何も見えない。
「ライトっ!!」
魔道士さんが明かりの魔法を唱える。部屋全体が明るくなった。
「次っ!!」
私は光の膜に包まれた。その後、部屋が同じく光の膜でコーティングされた。
「警戒継続っ!一応、魔法、スキルは使えるみたいだね。外はどうっ?」
愛子さんはスマホで話し始めた。こっちの世界にもあるんだ。
『城の結界消滅。再展開準備中。残り1分です。他は問題なし』
『城外、四方問題なし。スキル使用可能』
『地下、問題なし。異音無し』
『スキル使用にて、上空警戒中、問題なし』
「現状維持、警戒待機」
心臓の音が愛子さんに聞こえてしまうのではないかと思うくらい、ドキドキしている。
聞いていたものの、一瞬停電になったときは、何が何だか分からなかった。このまま何も無ければと思ったとき、愛子さんのスマホから声が鳴った。
『地下、微振動と異音。魔木の接近と予想』
「城外南、場内に退避。北、東、西は警戒。結界班、詠唱までで展開は待機して。こちらから合図するっ!」
『上空、1キロ先、幅約50メートルの森、蛇行して接近中』
『探知隊、数十の魔物反応を確認。位置、1キロ先』
『通信隊、バリテンダー城からの報告。交戦中。サーベルキャット、ファングドッグ多数』
「足の早い魔物達だね。通信隊、戦闘準備へ。上空は引き続き報告を。」
『上空、森の幅縮小して接近。城まで約30秒』
「速度合わせてるね、全く。みんな聞いたかいっ!厳戒態勢!」
バリテンダー城って、私達がここに来る前に居たお城だ。交戦中って!?みんなは!?
『森、接触します』
『城の結界詠唱完了、再展開準備中』
『城門内、魔物侵入、数30。交戦中。結界展開完了』
「場外、城門へ参戦に向かえ!地下はそのまま警戒待機。異変があれば報告!」
兵士たちの怒号が響く。窓の外が光り、爆発音が聞こえてくる。
これがこの世界なんだと。足が震える。よろめきそうになったとき、愛子さんが「ここは大丈夫よっ」と支えてくれた。
少しして、歓声が聞こえた。
『報告。城内魔物撃破。軽被害2』
『地下、上空、共に変化なし』
『魔物反応、結界内無し』
「警戒は継続。通信隊は持ち場へ。他の城へ報告と確認を」
「まだ何があるかわからないからね。こっちも警戒を続けるよ。
おっと、大丈夫かいっ?」
終わったの?私は、糸が切れたように床にへたり込んだ。愛子さんが私を支えながら、一緒に座り込んだ、その時。
2人の目の前に、黒い何かが居た。
「一旦停止ぃぃぃっ!」
愛子さんが刀を振りかざす黒い騎士のような何かにスキルを飛ばした。
そのまま私を掴んで、後方に飛び退いた。
黒い騎士は動きを止め、その瞬間、霧散した。
私は呆然とその光景を見ていることしかできなかった。
「他に居るっ!?」
黒い騎士の消えた場所から目を離さないまま愛子さんが叫ぶように他の護衛に確認を取る。
「い、1体のみのようですっ!」
□
「危なぁ〜、何よあれ。感知も何もありゃしないわね」
周辺の捜索が終わり、あの黒い騎士含め、危険はないと判断されたようだ。
「な、何だったんですかね?愛子さんがやっつけたんですか?」
私はまだフワフワしている気持ちを落ち着けながら、ため息をつく愛子さんに訪ねた。
「ははっ。あ~ねねちゃん、いい度胸してるわ〜。アレは倒せないわっ。わたしのスキルに即死とか無いからね。
拘束されて諦めたのか、そういうものなのか、何にせよ、はぁ~助かったわ」
その後は、訳のわからないまま愛子さんに連れられて、わからない人に、わからないことを言われ、わからないところで休んだ。
私は、これからどうなるんだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます