0−3

「お前らなー!!この繁殖期の時期に無警戒で水の中に入るバカは居ねえぞっ!!」


 

 俺たちは正座で、ハゲ、いや、スキンヘッドのオッサンに説教を食らっていた。


 このオッサンは、隣国アットランドの冒険者の街、アットサマリーの冒険者ギルド長でサレンダーさん。

 国からの調査業務で、セシリア王国との国境付近の深淵の森の侵食確認をしていたときに、バリカル湖でスネークダイルに襲われている俺たちに遭遇したとのことだ。


 さっきのワニはスネークダイルっていうらしい。この時期は繁殖期らしく、雄が縄張り争いで攻撃的になるそうだ。


 餌として、メスとしての匂いが刺激を与えてしまったようだ。特にフェリは魔物だしなぁ。


 


 調査隊のメンバーさん達が、退治したスネークダイルの素材を剥ぎ取っている。

 表皮や脳、内臓が薬として活用できるらしい。みんな解体の手際がいい。聞くところによると、それぞれ国から依頼を受けている高ランクのパーティだそうだ。


 唯とフェリは、女性陣と一緒に魔物の出現しにくいエリアで身を清めに行った。申し訳ない。俺が結構派手にワニを潰しちゃったから、二人とも返り血まみれだったもんね。



「そんで、お前らはこんなところで何やってたんだ?」

 俺はサレンダーさんに、ここまでの経緯を話した。国は違うが、信用できると感じたからだ。俺も日本では薄毛に悩んで来てたからね。

 ハゲには、良いハゲと悪いハゲがいるのだっ!



「なるほどねぇ。こんな子供でも知ってる知識も無いと思ってたが、そういうことかい」


 ハゲが一人で納得して、俺はどういうことだか全くわからないんだが。


「んで、お前たちはこれからどうするんだ?」


「一応地図は持っているんですが、セシリア王国内の他の街とかも行ったことが無いんですよね。

 魔物に襲撃されて、一緒にいた仲間の勇者や兵士はみな弔いましたし、他の場所に移動した勇者も生きているのかどうか」


 ねねや高校生達、高橋君達はセシリアの王宮へ行ったはずだが、この世界の移動手段やら、基本的な知識がないから何が正解なのかの判断がつかない。

 リスさんやタミィ・サミィさんは王宮勤めだろうから、簡単に会えるとは思えないしな。


 あと知ってる人って言ったら、鑑定師のミレイさんと、と話したところでサレンダーさんが俺の言葉に反応した。


「ミレイって、『仙眼のミレイ』のことだろ。占い師みたいな服装じゃなかったか?あいつはうちのギルド支部の所属だぞ。

 行く宛がないなら、俺らと一緒にアットサマリーの街にキてみるかい?」


 なんとっ!そんな繋がりがっ!ミレイさんには、もう一度会って、俺達のスキルの鑑定をしてもらいたかったんだよな。


 ちょうど唯とフェリが体や服を洗い終わり戻ってきたところだ。

 相談して、どうするか決めたほうが良さそうだな。




 スネークダイルの串焼きをみんなに振る舞っている。


 調査隊のメンバーで『サービスエリア』パーティのサカグさんが、調味料を持っていたのでお借りした。

 なんと醤油もあった。砂糖は食堂から頂いてきたものがあったので、焼き鳥のタレを作って串に挿して焼いた。


 パーティ名を聞いて高速道路のSAを思い出して、屋台の串焼きが食べたくなったというのはナイショにしておく。


 タレの香ばしい香りが食欲をそそられる。

「美味い〜っ!!アンタ、料理上手だなっ!!」


「くぅ~っ、仕事じゃ無かったら酒と一緒につまみたいっ!」


 ワニ肉は、鶏肉に似たタンパクな味わいだった。いい運動して小腹が空いていたのでちょうどよかった。

 ドワーフさんが多いからだろうか、酒の話が男女問わず飛び出してくる。他の物語でもそのようにドワーフは酒が好きなのだろう。


 唯とフェリに、サレンダーさんの話を伝えた。俺は行ってもいいと思っている。この世界で生きていくためにも拠点が必要だろう。金も無いよりあった方がいい。

 そして、ここで助けられたのも、袖振り合うも多生の縁だと思うんだよね。偶然ではなくて、全ては意味があると思っている。


 日本に帰るためにも、この世界の知識と経験が必要だ。冒険者になったほうが手っ取り早いと思っている。



「うんっ!アタシもトモの意見に賛成っ!

 それと、あの国にいるより、他の国に居たほうが、前に進めそうな気がするしっ」

「パパとママといっしょ」


 唯もフェリも賛成のようなので、サレンダーさんにお世話になることを決めた。



 その後は、俺のスキルで解体の手伝いを手伝った。どうせなら肉も持って行きたいので、箱の中に詰めている。

 唯とフェリも、ワニ運びに奮闘している。


「わぁ〜!ここまでキレイに解体出来るスキルなんて、ギルドで重宝されますよっ!」

 素材を採取していた『妖精の薔薇』パーティのハルミさんから称賛を受けた。


 アットランドはドワーフの国と聞いていたが、ハルミさんも、サレンダーさんも人族だ。

 なんとも中途半端な手品スキルを手に入れてしまった俺としては、最高の褒め言葉です。



 解体を手伝ってわかったのだが、どうもこの人体切断マジックは身長制限があるようだ。

 ワニの体長は3m以上あった。その体長のままだと、ボックスには収納が出来ない。尻尾が切れた状態だとボックスに収納が可能だ。


 それと、対象の体長によって出現する箱の大きさが変わることにも気がついた。

 おそらく、『人体』切断マジックなので、人の身長までしか対応できないのだろう。


 俺の知っている限り、確か地球での最高身長は270cmぐらいだったと記憶している。今現在はそれがMAXだと思われる。

 この世界に例えば巨人族とかが居て、俺が箱に入れる人間だと認識出来れば、箱の大きさも変わるのかもしれない。



「あ、あの、トモさん、聞いてます?」


「あー、心配しなくてもいいよっ!トモは考え込むと周りの言葉が入ってこない人だからっ!」



 失敬な。ちょっと考え事をしていただけですけどっ。


 

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