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「なぁ沙織。俺の体さぁ、伸びないんだけど、どう思う?」
タツヤが意味不明な事を聞いてくる。
「年齢が止まるって言ってたから、身長も止まるんじゃないの?」
タツヤの身長は平均より低い。でも私より少し高いから160位だと思う。シンジローが180位あるから、確かに二人で並ぶとチビスケだもんね。
「竜くん、私より大きいからだいじょうぶですよ」
「ああ、気にすることは無い」
「ちげーよっ!ゴム人間だよっ!俺のスキルのっ!」
私は吉武沙織。幼なじみの森田竜也、佐竹香、轟進次郎と一緒にこの世界に召喚された勇者だ。
今まで居た所から別のところに連れてこられて、警備の兵士による厳戒態勢の中で窮屈に過ごしている。
異世界に転移して次の日の朝、カオリが昨日みんなの前で話していた綺麗な女性に呼ばれて、4人で場所を変えることになった。
身の安全のためってことで別々に居たほうが良いってことね。
ん?みんなで一緒の方が安全では無いの?
んで、到着したのはハインツフルトとかいう公爵のお屋敷。これが貴族かというほどの豪邸で、豪邸ではないか、いわば洋風のお城だった。
お城では、メイドや執事がピシッっと並んでいて、公爵様とその息子さんが出迎えてくれた。公爵様は、着ている服はザ・貴族なんだけど、歳のいってる普通のおじさん
見た目は優しそうな人たちなんだけど、そういう人たちって何か裏があったりするのよね。
と思ったんだけど、実際もとてもいい人達で、出てくる食事が美味しいのなんの。
この世界に来た時に顔を合わせているらしいんだけど、全く覚えてないんだよね。
そして、生涯忘れることが出来ないだろう、あの事件が起きた。
『タツヤ首チョンパ事件』アーンド、『カオリ城ドッカン事件』である。
名探偵カオリが、ここからは事件の全容をお話しよう。
それは、そう。事件はホールで起きた。
よくわからないんだけど、私達は安全のためってことで西洋鎧を着せられて、兵隊が一杯居る広いダンスホールみたいなところに連れて行かれた。
みんなでロボットみたいにガシャガシャ歩きながらね。
ちなみに、シンジローだけは、日本の鎧兜にしてもらっていた。そっちのほうがしっくり来るんだって。
ホールでは公爵様が指揮を取っている。私達はホールの扉から遠い端っこで椅子に座って待機中だ。
「さおちゃん、なんだか始まりそうですねっ!」
隣のカオリがワクワクしている。実は私もワクワクしてる。二人とも意外とこういうの好きだもんね。部屋が同じだから、夜中に「ステータスオープンっ!」とか「ホーリーサンダーっ!」とかコッソリ唱えているのを聞いてるし。
でもね、サンダーは被害が大きいから辞めたほうがいいと思うんだよね。
タツヤなんて、鎧を着てからずっとオロオロしてる。シンジローを見習ってドーンと構えてればいいのに。あ、シンジロー座りながら寝てるわ。
突然ホールの明かりが消え、みんながどよめいた。停電だったのは一瞬で、すぐに明かりが戻った。
カオリが「始まったっ!?」って言って嬉しそうに立ち上がってる。
それからしばらく待機させられたんだけど、特に何もなく、そろそろお腹が空いてきた時、タツヤがガシャっと鎧の音を立てて急に立ち上がり、私に、こう言ったのよ。
「ヤベッ、トイレ行きたくなったわ」
頭だけ、私の膝の上で。
一瞬、何が起こったのか分からなかった。
横ではタツヤの体だけが立っていて、膝の上では、タツヤの頭が、「あれっ?」って言って。
「タツヤ?」
「沙織ぃ!!」
シンジローが私の前に立っていて、黒い影の剣を刀で受けていた。
護衛の人に、腕を掴まれて引っ張られて。
その瞬間、辺り全体が眩しく輝いて。
目を開けたら、外だったのよ。
■
「ゴメンナサイっ!ゴメンナサイっ!」
今は、カオリが公爵様や王宮から来てる人たちに謝っている。
真犯人はカオリだった。タツヤが斬られたのを見て魔力が暴走し、とてつもない魔法が発動したようだった。
公爵様のお城のお屋敷には、私達の護衛や使用人など200人位の人達がいて、そのお屋敷は木端微塵に吹っ飛んだ。なのに、全員がかすり傷ひとつ無く無事だった。
どんな魔法を使ったのよほんと。
そのタツヤはというと、
「いや~眩しかったよな〜。ってか俺ってスゴくね?」
私の隣で、自分の頭を脇に抱えたまま笑っている。
知ってる、それ。デュラハンだよね。タツヤが斬られて、首を持たされた時の私の色んな感情を返して欲しい。
こんな惨状でも、公爵様は終始ご機嫌だった。ずっと大声で笑っていたもん。
お城の方は、公爵様の別荘だったらしくお咎め無しで済んだ。そして、誰一人死なずに済んだ事、そしてカオリの魔法の物凄さに興奮していた。
金持ちは違うなと思ったのと同時に、弁償しろって言われたらと思うとゾッとする。
タツヤの首の方は、治療師の人の回復魔法やポーションなどいろいろ試したのだけど、くっつくに至らず。
シンジローが言った、断面を溶かせばつくんじゃないかの一言が決め手となり、無事合体したのであった。
「アチィっ!ちょっとっ!ちょっと、断面が熱いんだけどってねぇって!」
斬られた痛みはないくせに、火の熱さは感じるらしい。
ゴムの焼けた臭いが周辺に漂っていた。
「なんか俺の思ってたゴム人間と違うんだけど」
タツヤが理想と現実の狭間に落胆していた。
「竜くんって、『ゴム人間』だから、ゴムゴムじゃないから、伸びないのではないですか」
カオリの一言に妙に納得していたタツヤ。
「でもさ、少しづつ伸ばす練習していったら、いつかはゴムゴムになれるんじゃね?」
夢を諦めないその考えはたいしたものだよ。
多分ブチッと千切れて、またあぶられる運命だと思うけど。
めでたし、めでたし。
それからというものタツヤが、
「俺の身長、ちょっと縮んだんじゃない?」ってずっと言っているけど、変わらないから。
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