0章 聖女と聖女

0−A

「こちらになります。扉の前で少しお待ち下さい」



 私、宇都宮ねねは、セシリア王城の謁見の間の前にいる。


 今朝、リスさんに呼び出され、国王との謁見を行うことを告げられた。

 すでに、沙織ちゃん達が王都に行っているので、いつかはそうなるだろうとは思っていたが、こんなに急になるとは思ってなかった。


「残ったみんなに挨拶したかったけどな。でも、すぐにこっちに来るよね」


 謁見後は、あのお城に帰るのではなくて、他の所で訓練するらしい。なので少し残念。特に、こっちの生活が楽しくなってきたところだったから。


 一緒に謁見するのは、現場組の高橋君と、桜井君。高橋くんはイケイケな感じで、桜井くんは寡黙なタイプ。

 う~ん、実はどっちのタイプも苦手なんだよね。まぁ、この世界では日本から来た数少ない知り合いなんだし、上手くやってくしかないけどね。



「勇者様、お入りください」


兵士さんに促され、部屋に入る。


 うわぁ、ドラマとか漫画とかで見た感じの場所。奥にいるのが、王様だよね。ちゃんとしないと。


 ここに来る前、メイドさん達に、もみくちゃにされながら、お風呂やら、化粧やら、ドレスを着せられた。

 お風呂なんて、みんなに洗われたから、恥ずかしいのなんの。


 リスさんが先導してくれて、その後をついていく。



「表をあげよ」


 大臣さんに言われ、顔を上げる。あれが王様かぁ。まだ若そう。


「よく来た。異世界の勇者たちよ。そなた達の国とは、勝手は違うだろうが、できる限りの力にはなろう。

 すでに聞いているだろうが、この世界は魔木の脅威にさらされている。

 それぞれの力で、わが国に力を貸してほしい」



 はぁ~、王様から直々に頼まれたよっ!私も頑張らなきゃって気持ちになる。


「1個いいッスか?」


 えぇぇぇぇぇぇぇっ?高橋くんが手を上げてるけどっ!?いいのっ!?

 なんかリスさんが、戸惑ってるけど!!


「よい。申してみろ」


「昨日まで居たハスミさん、こっちに呼んでもらうことは出来るッスか?」


大臣が、王様に進言する。


「わかった。他の者も希望とあれば呼び寄せるとしよう」


 高橋くん、無謀というか後先考えてないというか、ハスミさんって多分お付きのメイドさんだよねっ!?



 王様に、他にはなにかあるか聞かれたけど、普通言えないよ。


 謁見は、こんな感じで終わった。なんか疲れた。当の高橋くんは、桜井さんにグチグチ言われてる。桜井さんの方が先輩なのかな?




「はぁ〜、心臓に悪い時間だったな〜」


 別室でソファーに全体重を預けるように沈み込んだ。

 2人は別の部屋に通されてるみたい。


「さて、これからどうするんだろう?」


 お水を飲みながらゆっくりしていると、背の高い女性が部屋に入ってきた。


「君か、今回の勇者っていうのは」


 スポーティな感じの洋服を着た、黒髪の結構若い女性。とりあえず、挨拶をしておく。

「初めまして。今回、勇者になった宇都宮ねねと言います」


 自己紹介すると、その女性は驚いたような、嬉しそうな顔をして近づいてきた。


「懐かしい〜!!わたし、こっちに来る前、宇都宮に住んでたんだよね。私は、7年前に転移してきた勇者で、殿岡愛子。ヨロシクねっ!」



 愛子さん達と、転移陣でまた違うお城に移動した。ここは第4門内のお城で、バーガー城。絶対に名前つけたのは勇者の人だよね。

 第2門にある王城からは、空飛ぶ車で2時間くらいの所にあるお城らしい。

 って、車もあるのは知らなかった。チグハグに進んだ文化なのを実感する。


「空飛ぶって言っても、地球にもあったホバークラフトみたいな感じたけどね」


 ホバークラフトを詳しく知らないけど、風の魔法で浮く車らしい。


 7年前にこの世界に来た愛子さんは、現在も20歳。勇者は年齢を取らないんだって。すごいわ、異世界。


 愛子さんは、飛び込み自殺に巻き込まれてこの世界に来たそうだ。その時召喚されたのは3人。今回みたいに、大勢で召喚されるのはほとんど無いみたい。


 今は、この国で勇者職として働いているらしい。何でもやるけど何にもやらない職らしい。

 今回は、護衛として私と一緒に行動してくれるらしい。とても頼もしい。


 愛子さんは結構歳上好きみたいで、私に聞いてくる事は、芸能人の結婚・離婚話が多かった。

 私も、全部知ってるわけじゃ無いけど、わかる限り話してあげると、一喜一憂していた。


「今日は疲れただろうから、何もしないでゆっくりしよう」


 愛子さんの方針で、お城の一室で過ごすことになった。

 ただ、私一人に対しての護衛の人が多かった。この部屋だけで、女性の兵士さんが10人いる。なんか落ち着かない。


「うーん、まぁいいか。正直に言っちゃうと、今回召喚された勇者が予想以上に多かったから、『神様』が間引きする可能性が高いんだよね。ナイショなんだけど」


「えっ!?」


 間引きって、草とか野菜を栄養が届くように引き抜くことだよね。えっ?勇者の間引きって?殺されるってこと!?なんでっ!?神様っ!?なんで神様が殺すの!?


「ゴメンねっ、驚かせちゃって。ねねちゃんは、優秀なスキルを持っているから、優先的に保護することになったんだ。

 でも大丈夫。ここにいる護衛のみんなは、特に優秀だし、私も結構スゴイからね」


「他の、沙織ちゃんとか、北さんと唯ちゃんと、あと『三津‥山田』さんとかは大丈夫なんですかっ!?」


 スキルが良かったから優先的にって。みんなを守ってくれないの!?トモや、北さんのスキルは、手品師とか調理師、確かに強そうじゃ無いけど。


 私は、愛子さんに詰め寄っていた。


「沙織ちゃんは、高校生の4人ね。沙織ちゃん達は大丈夫よ。他の所で、ねねちゃんと同じように特別に保護されているから。

 北さんと唯ちゃん、三矢さんも同じね。別の所で順番に保護されるわ」



 愛子さんの正面に、話の途中、文字が現れた。


『殿岡愛子 心(微小) 時間(微小)』


「‥‥‥‥‥‥‥」


 私のスキルが初めて発動した。文字はすぐ消えた。

 愛子さんはいい人だ。そして私の事を調べているし頭に入ってる。プロなので表情には全く出さないかったが、完全には非情になれない。そして、私に対して安心させるように。



ああ、納得した。

 私達だけなんだ。沙織ちゃん達は大丈夫みたいだけど、トモ達は‥‥‥


 なんとか出来ないんですかって言いたかった。

 でも、きっと『間引き』なんだ‥‥。でも‥‥‥。


「そうですか。良かったです」

私は、微笑みながら涙を流していた。



「あれま。とちっちゃったかな?ゴメンね。正直に言うと、最優先での保護指令が出ているのって、君たち7名だけなんだ。

 ただ、北さん、唯ちゃん、三矢さん‥‥?あぁ。他の人達も、最優先ではないとはいえ、今日から、まぁ向こうで言う警備体制を増やしているから安心してね」



「‥‥三矢であってます」


「良かった。もう、感の鋭いねねちゃんには全部正直に言ったほうが、守り切る確率が上がると思ってね。

 ここからは、任務として言います。私の仕事は、宇都宮ねね、貴女を死なせない事です」


「はい、よろしくお願いいたします」


「他のみんなのこと、信じようね」


「はいっ」


 愛子さんは、軽く抱きしめられた。なんだか安心した。



「でも、この世界に来たときの人間関係にドライなねねちゃんの性格なら、これで行けると思っていたんだけど、なんか心境変わったでしょ?」


 そんなところまで把握してるんだ。ミレイさんのスキル、凄いんだなぁ。


 確かに、日本ではここまで楽しいことは無かった。複数の女の子同士ではしゃぐ事も無かったし、トモと話してると安心した。

 みんなに、トモに会いたいな‥‥




愛子は、ひとり懸念する。



「‥‥予想はしていたけど、思っていた以上に、呪力が弱まりが早いわ。少し調整が必要かな」





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