閑話 高校生パーティ

「ありがとうございました〜。またお越しください〜」

 


 本日最後のお客さんが店を出た。もうすぐ暗刻になる。店舗兼住宅である入り口の札を裏返す。

 ふぅ〜。今日もまぁまぁの売上だった。魔導国ルーバルに来て1年。常連客もついて商売も軌道に乗ってきた。


 私は吉武沙織。セシリア王国の勇者だ。友人のお見舞い帰りに乗ったバスで事故に遭い、この世界に召喚された。

 その後、友人の香が国の聖女に認定されて、貴族に洗脳させられて酷いことをされそうになっていたところを救出し、4人で話し合って国を逃亡した。

 本当だったらこんな自由は出来ないのだけれど、ねねさんと三矢のおじさんに助けられ、香の魔導学園への入学を条件に、6年間の自由が与えられている。


 私のスキルは「錬土術」。錬金術とは少し違い、金や万能薬などは作れないが、魔石や魔木を原料に、様々な薬を製作する事ができる。

 薬と言っても、薬師が作る回復薬や治療薬には到底及ばない。

 1番の売れ筋は火薬だ。木工師や冒険者が、魔木の伐採、魔物の討伐用に購入してくれる。

 忌避薬なんかも売れている。爆薬は火力が強すぎるので、商品にするにはもうすこし改良が必要だ。



「沙織〜っ!俺って今日も大活躍だったっ!」


 冒険者見習いのうるさいヤツが帰ってきた。最初にただいまを言いなさい。

「もうっ!タツヤは、もうちょっと静かに帰ってこれないのっ!?それで、カオリとシンジローは?」


「あれ?一緒に来たはずなんだけど、俺のほうが先に着いちゃったかな?」


 タツヤは、後先考えず突っ走る傾向がある。傾向じゃないか。昔から手のかかる弟のような、そんなやつだ。


「ウッス、帰った」

 口数の少ない無表情のデカブツはシンジロー。今日の獲物はウサギだったらしい。その袋、どれだけ入ってるの?

「さっちゃんーただいまですぅ。今日の夕食はクリームシチューにするねぇー」

 ほんわかちんまり巨乳ちゃんは、私の親友のカオリ。今日も魔法が暴走してしまったみたいで、シンジローが苦笑いしている。


「二人ともおかえり。今日はどうだった?」


 カオリは、聖魔女という、聖の魔力を持つ回復も・攻撃も出来るちょっと暴走気味になりやすいけど魔法使いだ。今は学園で魔力の制御を頑張っているみたい。


 シンジローは、斬撃師という刀や剣で切った斬撃を飛ばすことができるスキルを持っている。最近は、手刀も飛ばせるようになったんだって。道場で稽古をしながら、今は3人で冒険者をしている。


 ちなみにタツヤのスキルはゴム人間だ。某有名漫画の主人公のようには体は伸びない。

 ただ、斬られてもくっついたり、相手の攻撃を跳ね返したり、高く跳躍したりと、ゴム風船ではなく、スライムっぽいスーパーボールみたいな感じである。



 この国に来た当初は、私もみんなと一緒に冒険者をしていた。積極的にというよりは、冒険者に憧れのあったカオリとタツヤに引きずられてという感じだ。

 

 こう見えても、私も結構戦えるのだ。おじさんと開発した「爆薬の薙刀」がチートだった。

 切るでも突くでもなく、熊だろうが岩亀だろうが、当たった瞬間に局所爆発で穴が開く。

 興味本位で穂先に触れたバカが、爆発と共に彼方へ飛んでいってしまったことがあった。

 

 4人での冒険は楽しかったのだけど、なんだかんだで出費がかさむ。

 なので、実入りのいい商売の方で稼ぐことにした。私は結構、こっちのほうが好きみたい。




「ふぁ~っ!今日も働いたわ〜っ」


「フフっ、さっちゃんオヤジ臭いんですよ」


 カオリとお風呂に入りながら、疲れを癒やす。ここのお風呂は、元勇者が建てた建物ということもあって、浴槽が広い。私のスキルで水もお湯も作り出せるので、異世界様々である。


「夕食の時に、タツヤが『念願のダンジョンが出来るかもしれない』とか言ってたけど、実際はどうなの?」

 この世界の仕組みを知って、ダンジョンが無いことを聞いたとき、少し気持ちが落ちた。異世界=ダンジョンっていうのが定番だと思っていたから。

 ダンジョンがないってことは、奇跡のお宝が産まれないってことだからね。

 カオリが湯船から急に立ち上がり、大きい胸を震わせながらガッツポーズをする。

「さっちゃん、そうなのですよっ!シュラス国の火山にダンジョンが産まれたって、学園でもギルドでも大騒ぎなのですっ!

はわーっ!スライムとかゴブリンとか、香の極大魔法が炸裂するのですよっ!」

 カオリは、こう見えてバトルジャンキーなのだ。限りなく聖女ではないと思う。

 その後も、ダンジョンの話しとか、常連客の侍風のおじさんの話とかで盛り上がった。



「香は、この世界に来れてよかったですよ。体調も良いし、体もこんなに動かせるし。それに、大好きなさっちゃん、たっくん、しんくんも一緒ですし」

「もうっ!この娘はっ!嬉しいこと言ってくれちゃってっ!

 そういえば、最近のシンとはどんな感じなのよっ?ほれほれ、お姉さんに言ってごらん?」


 カオリは、日本では指定難病者だった。1年の半分を病院で過ごす生活をしていた。

 この世界に来てから、健康でしかない体で、魔法が使えて、夢にまで憧れていた冒険が出来る。


 日本では、ゴメンねが口癖で、泣いてばかりだった親友の、コロコロと笑ったり、真っ赤になって怒ったりする、こんな姿が見の前で見ていられるなんて、あの頃では想像もできなかった。



「この世界に呼んでくれた神様に感謝しなきゃねっ」



 

 私達は、この日々がずっと続くことを、信じて疑わなかった。

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