17、タミィデートと神社

「午後からは、み、みんなでボートに乗りましゅっ!」



 服に着替えてお昼ごはんを食べ終わり、タミィが気合の空回りか、かみながら午後の予定を告げた。すでに予約済みらしい。


 俺とネルミルさんは、コーヒーとチーズケーキで舌鼓を打ち、ねねはいつも通り山盛りケーキをすでに平らげでいた。

 フェリ、唯、ハクは、テーブルに突っ伏して寝息を立てている。


 唯とハクは、湖の真ん中にある小島まで泳いで行ったらしい。ハクは飛んでだけど。

 小島には神社があって、ここを訪れる観光客に人気のパワースポットとのことだ。


「3人は寝てるし、私ももう少し違うケーキを食べたいから、トモとタミィで行ってきたら?」

 ねねが食いしん坊発言をぶち込む。ネルミルさんもそれに同意した。


 おいおい、せっかくタミィがおそらく1番の楽しみとして計画していたんだぞ、っとタミィの方を見ると、

「えっ!?えぇとっ‥‥、トモさんもそれでもいいですか?」

 と、ショックを受けているようにも見えない。


 ねねが俺にウインクする。なるほどねと思いながら、タミィと二人でデートに向かうことにした。



「あらあら♪ねねちゃんは良かったのかしら?」

「タミィにもご褒美があっていいんじゃない?頑張ってたしねっ」



 ボートは2人乗りの手漕ぎボートに変更してもらった。


 先にボートに乗り、手を差し伸べてよろけるタミィを座らせる。このタイプの手漕ぎボートは結構乗り慣れているので得意なのだ。

「タミィはボートに乗るのは初めて?」

「‥‥小さい頃に、お父様とお姉ちゃんと乗った覚えがあります。あんまり覚えてないんですけどねっ」


 白芍で領主の娘だと、頻繁には旅行も出来なかったんだろうな。サミィとタミィは双子の末っ子。

 長男長女は色々体験させるんだが、下になるに連れて薄れるわけではないんだが回数は減っていく。

 特に双子の妹のタミィは、自分から主張するタイプでは無さそうだしね。



「さて、目的地はどこにいたしましょうか?お姫様」


「お、お姫様ですかっ!?は、はいっ、あ、あの、さっき思いついたんですけど、唯さんが言っていた小島の神社に、い、行ってみませんか?」


 了解。もうすでに目的地は決まっていたんだろうけどね。

 俺はゆっくりとボートを漕ぎ出す。


 その間、タミィといろんな話をした。子供の頃の話とか、魔導学園での話とか、この旅行の話とか。


 俺たちと一緒に行動するようになるまでは、ずっとサミィとセットになっていたので、今が初めての独り立ちなんだそうだ。

 タミィは、「お姉ちゃんは心配性なので、そろそろ妹離れをしたほうがいいのですっ」と少しむくれ顔で話していた。



 そんな話をしながら20分くらいして、目的地の小島に到着した。

「わぁっ!ワタシ、ここにずっと来たかったんですよっ!」

 さっき思いついた設定は、もう無しでいいのね。言わないけどね。


 大きな赤い鳥居が存在感を与え、質素だけど立派な門と拝殿が見える。

 参道の脇には狐の石像が2体。ここは稲荷神社らしい。


 温泉の湖の真ん中にあるのに、なぜかひんやりした冷気を感じる不思議な空間。周りに生えた木は色が白く、魔木では無さそう。

 なぜかここにいると、日本に戻ってきたかのような感覚に陥りそうになる。



「ここは、葵稲荷神社って言いまして、双葉葵の神様が祀られていると言われているんですっ!」


 タミィの知識が止まらない。もうこれほどまでかというほどの早口で、この神社の成り立ちや歴史、神社の参拝方法、まつわる悲しい物語やらなんやなかんやら。

 俺が相槌を打つ隙もなく、永遠に続くと思われた説明が、タミィの過呼吸でようやく小休止になった。


 今はベンチで膝枕をしてあげながら休暇中だ。タミィも真っ赤になりながら、だいぶ落ち着いてきた。


「ご、ごめんなさい。ワタシだけ盛り上がっちゃって、トモさんにご迷惑かけてしまって‥‥」

「迷惑じゃないよ。とてもためになったし、タミィとここに来れてよかったよ」

 本心を伝えた。今まで神社に来ても手を叩いてお賽銭を入れるぐらいしかしたことが無かったから、タミィの知識には驚かされるばかりだった。


「じゃあ、その恋愛成就の絵馬を一緒に奉納しようか」

「えっ‥‥!いいんですかっ!?」

「あははっ、そのために来たんだろ?一緒に奉納しよう」

「あっ、はいっ!」



 巫女さんに初穂料を納めて絵馬を受け取り2人の名前を書いて指定された霊木に奉納する。

 隣を見ると、タミィが目をつぶって絵馬にお祈りをしている。


 お祈りを終え、何を祈ったかなど話していると、タミィが木の根っこにつまずきそうになったので、タミィの手を握り、手を繋いで帰ることにした。

 タミィは顔を真っ赤にしながら、それでも俺の手をしっかり握り返してくる。周りから見たら親子みたいに見えるんだろうけど、今日は、ねっ。



 神社の入口近くまで戻ってきた。さっきはわからなかったけど、一方の狐の石像の尻尾が8本あるようだ。

「これは八尾狐でして、健康をもたらす使いとされているんですよっ!」

 タミィの調子も戻ってきたようだ。


 さっきの話の中で、双葉葵だから徳川家が関係しているか聞いたら、「徳川ですか?聞いたことがないですね」と言っていた。

 この世界の神社に祀られる神のほとんどが植物の神らしく、それ以外には火の神が有名らしい。


 1番有名なのは九尾の狐だけど、ここは八尾ね。徳川家の将軍の病を治したとされるのが八尾の狐だったはず。

 数字的にヤエちゃんとも何か関係がありそうだけど、今はなんともわからないな。


 おっと失敗失敗。今はタミィとデートの最中。急ぐ必要はないんだから、ゆっくり楽しめばいいんだ。



「帰りにもう一度参拝していいですか?」


 何回もお願いしたら神様も困るんじゃないの?と話したが、タミィは今日のお礼をしたいのだという。


 それならばと、俺もお賽銭を入れて、先程教わった二礼二拍手。


 心のなかで、「今日はありがとうございました」とお礼をする。



 


 俺の意識は、まっ白い部屋に飛ばされた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る