15、魔王の妻

「まずはそうだのぅ。このアルスタールのことについて少し触れようかのぅ」



 アルスタールは、主要な産業をほぼ魔木の伐採、加工のみで成り立ってきた国だ。 

 昔から火山内で鉱石が採取出来ない。技術がないのではなく鉱石自体が無いのだ。

 そして国全体の地力、地下の魔力と温度が高く、通常の作物が育たない。

 この国ならではの特産品のような作物はあるが、国民の消費量が取れるほどではない。

 代わりに魔木内に含まれている魔力量が、他の国のものと比べても桁違いに多い。

 これを伐採、加工、製品化して、他国と取引を行っている。



「魔木は、火山から広がる地下のマグマの魔力成分を吸収して育つ。この国は魔木無しでは語れんのだ」


 なるほどね。温泉が多いのもその地力が高いのが影響してるんだな。

 聞くと、この国ではそれほど深く掘らずとも、どこでも温泉が湧くので、各家庭で温泉を汲んでいるらしい。

 ただし、温泉の成分は汲む場所によって違うというから、なんとも異世界あるあるなのだろう。



「近年、我が国に現れたのが、『真聖女協会』であった。あれは森を神聖化しておるからのぅ、森を敬う我が国の内部や国民に上手く浸透していった。

 最終的には、魔木の伐採制限を口に出すようになっておった。それでは我が国は立ち行かん」


 確かに、深淵の森に取り込まれ殺されるのは本望みたいな精神で、森の聖女しか認めないスタンスだったもんな。

 ねねじゃなくて、雰囲気的には森ガールの香ちゃんが聖女を引き受けていたら、協会も認めていたのだろうか?

 ねねは、ケーキ山盛りガールのイメージが強いので、拉致されるのも仕方がない。


 ねねが睨んでくる。本当に何なの心をピンポイントで読むそのスキル。

 俺がくだらないことを考えているとき、顔が憎たらしく見えるらしい。愛だね。


「国内でも有力な貴族へも入り込んでおり、クーデター寸前まで行きかけた所を糾弾したのがファビオラであり、裏から手を回した『悠久の翼』だったのだ」

 

 有力貴族の不正を暴き、民に説いていった為、没落した貴族と協会からの恨みを買い内紛が起きたらしい。

 国内の混乱を引き起こした悠久の翼を、苦肉の策として国外追放を言い渡したが、トラヴィスに傾倒していたファビオラが猛反対。

 トラヴィスを追って国を出るとまで言いだしたとのこと。


「あの男は、慕われていることをいいことに、ファビオラをだまくらかしおった。心中は殺しても殺し足りんっ! 

 だが表立たぬが救国の英雄だでの。私情で処刑もままならぬ。

 お主のおかげで、ようやくファビオラの熱も冷めたようでな」



 年齢的に、ファザコンならぬ、グランドファザコンだ。

 最後の方は予想通りだった。


 なぜ謁見の場がこういった形式なのかを聞いたところ、過去の勇者が、「魔木の取引を国家として王が率先して推進していかなければ立ち行かなくなるのがわかっているのに、いつまでも上から目線ではダメ」ということから、商談形式になったらしい。

 ただ、あまりにも王の威厳が足りなくなるので、社長室風になったそうだ。

 その過去の勇者さん、日本のサラリーマンだろう。



 謁見を終え、旅館へ戻る前に王都を観光してから帰ろうということで、今はねねと二人で行動している。

 今日は手を恋人繋ぎて散策中だ。

 ただ、俺もそろそろ異世界歴1年、ただのエロい馬鹿ではない。


「‥‥付けられてるな」

「うん。城を出てからずっとね」


 俺たちだけではなく、謁見したみんなが尾行されていると考えていいだろう。今のところ、危害を加える気は無いようだ。


 フェリは、唯とハクが一緒にいる。ネルミルさんはタミィと一緒だ。まぁなんとか大丈夫だろう。


「アルスタール王も、虚実混ぜての話しだったしね。ほんとは嫌だけど、ファビオラ王子に接触するしかないかなぁ」

 あれは嘘が混ざってたのか。食えない爺さんだ。


「ファビオラに会うと、何かマズイのか?再興準備をしているっていうのトラヴィスに会って話を聞いてもいいんじゃないの?」

 トラヴィスは、王子に自分の事を諦めさせた後、王の許しを得てこの王都での義賊ギルドの再興の準備をしているとのことだった。


「トラヴィスの方が厄介よ。アイツは何をされても言わないでしょう。

メリッサもそうね。伊達にトラヴィスの奥さんをやってないわ。

 崩すなら、ファビオラ王子なんだけど、私の女の勘がね。嫌な感じがするのよね」


 メリッサさんも演技だったのかいっ!騙されやすい俺。そのうちぼったくりバーで白金貨とか払わされそうだ。気をつけないと。


「まぁ私が居るから、トモはそのままでいいわよ。根回しは得意でも、腹芸までは無理でしょ、顔にすぐ出るし」


 俺って顔に出るタイプだったようです。営業マンは宴会芸として手品もやるし、ビールっ腹なら腹芸だってやってやるぜ!と意気込んだら、

「そっちの腹芸じゃないわよ」って可愛い笑顔で言われた。


「それとヤエさんの件、あの王も理解してるわね。今だから言うけど、ネルミルもね」


 うん、そんな気はした。ねね、あの時試したよね。昨日の尋常じゃないネルミルさんの狼狽っぷりと言い、先程の一瞬漏れたのは魔力の歪みみたいなものだろうな。顔には全く出さなかったけど。


「とりあえず、泳がす感じか?」

「まあね。まだ花弁1枚だけでは、こっちもなんともならないし、向こうもその程度でしょうからね」


 ねねの言う向こうっていうのは、ヤエちゃんの言う『終わらせたくない者』だよな。

 

「過去に元の世界に帰った勇者が居たって、この世界に来たとき、リスさんが説明していたと思ったけど、そういう記録があったりは、‥‥しないか」


 言って見て、馬鹿らしいことを言ったことに気がついた。

 資料が残るはずがない。何が終わるかはわからないが、この内容を理解する者にとっては、『終わる世界』は、恐怖でしか無いはずだ。


 リスさんも「条件はわかっていないが、帰った『だろう』勇者が存在する」って言っていた気がする。

 転移したばかりの勇者に、希望を与えながら、真実は隠しても嘘は言わない。

 あの時の俺が感じた違和感は、タミィの呪いによるものでもあり、リスさんの微妙なニュアンスの違和感だったのかもしれないな。


 花弁を揃えていた勇者も、過去にはいただろう。ヤエちゃんもそう言っていた。

 ただ、その勇者は元の世界に帰っていない。まだこの世界に居るか、すでに死んでいるか。それも、魔物などに殺されたか、『終わらせたくない者』に殺されたかだろう。


 まぁ、想いが本物なら全てが良い方に向かうってお墨付きを貰ったから、多分、大丈夫じゃないかな。




「トモって、この世界の魔王だよね」



 

 ねねが、俺も考えていたけど、考えないようにしていたことをズバッと切り出してくる。



「やったじゃん。念願の魔王の妻だぜ」

 俺だけでは悔しいので、少しだけおちょくってみた。



「うん。念願叶いそう」





 ねねさんには勝てませんわ。



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