14、スーツの王

「トモはんっ、おはよーさんっ!今日は、ええ天気やなっ!」



 唯がなんちゃって関西弁で起こしてくれた。昨日あの後、温泉に浸かりながら関西弁教室が開催されたらしい。

 

「やっぱり難しいねっ!アタシには使いこなせなそうだよっ!」

 唯のいつもの活発な話し方だと違和感があった様子。すでにいつも通りだ。


 ねねが、なんでヤエは関西弁だったんだろうって言っていたらしい。


 確かにそうだ。俺の周りに関西弁で話す知り合いって居ないから、俺の脳内変換とか、翻訳のミサンガの自動変換っていうのは考えにくい。


 って言うことは、関西弁を誰かに習ったか、元々知っていたか。

 詳しく聞いてないが、30年以上は案内人をしているはずだ。



 う~ん、これは考えても結論は出ない。今度もし会えたら聞いてみるか。



 俺たちは正装を着込んで、王宮にいる。城に近づく所から圧巻だった。城に到着して更に驚く。黒い城である。


 女性陣は白いドレス、俺は薄いグレーのスーツを着せられた意味が理解できた。いつもの黒いタキシードだと浮く、というか溶け込んで沈む。


 アルスタールの王宮は、総魔木造だ。装飾も黒を基調としたものが多い。護衛の鎧も漆黒。魔の刻の黒い人を彷彿とさせる。まさに魔王城である。

 謁見の時間となり、俺たちは先導の黒騎士に付いていく。


「なぁねね、魔王が出てきたりしないよな?」


「ちょっとっ!失礼な事を言ってないで、キビキビ歩くっ」


 ちょっと冗談で聞いただけなのに。



「アルスタール王っ!この度はっ!お時間を取っていただきっ!ゴホッ、ありがとうございますっ!」



 王との距離が遠いっ!50メートルくらい離れてるよね!?

 何その、体育会系の営業マンが、取引先企業を訪問したとき相手の課長に挨拶するような大声セリフは?

 ねねも途中でむせ返ってるし。

 

 昨日の話の中で、違和感を感じると思うと言われていたけど、違和感というか、ツッコミどころ満載なんだけどっ!


 黒騎士に案内されたのは、社長室みたいだけど、馬鹿みたいに広い部屋。俺達も並べられた椅子に座っている。


 面接官みたいに、王、だよねあれ、漆黒のスーツ姿のフサフサ白髪の爺さんがデスクの真ん中で座っている。

 使徒を倒す組織のトップみたいに机に肘を置いてからの手の指を組んで、ねねの挨拶を聞いている。流石にサングラスはかけてない。


 その両側の机にグレーのスーツのおっさんが、こっちは立ってない、座って何かを書いている。書記かな?書記、2人必要かな?


 もちろん警備体制は万全だ。護衛の黒騎士が、オブジェのように室内の壁に沿って並んでいる。


 この会場は『そこまで』黒くない。あくまでも、そこまで。基本は黒い。

 企業の普通の社長室とは、豪華さのレベルが違うが、王の目線の位置が同じでいいのかと疑問に思う。


 ツッコミ間違い探しではないから、もう探すのをやめておこう。



「昨晩のことは聞いておる。ファビオラの件含め、そなたらには迷惑をかけた」

 アルスタール王は、書記に渡されたマイクみたいな道具を使って謝罪に近い言葉をかけてきた。声が天井のスピーカから聞こえてくる。


 そんな道具あるなら、こっちにもくれよっ!と思っていたら、黒い戦闘メイドさんっぽい女性がこちらにも用意をしてくれた。

 そのメイドさんに、ねねが山吹色の布に包んだ手土産を渡した。饅頭かなんかだろうか?金塊とか包んでそうだ。


「こちら、セシリアでの真聖女協会の内部情報を精査した資料です。ご考察ください」


 賄賂でも饅頭でもなかった。アルスタール王は世界救済会排除派ってことか。

 王様とねね、書記ではなく秘書だった2人と、国内の状況について意見を交わしている。



 まー難しい話を。ねねはよくやってるわ。


 隣を見ると、唯は緊張でまだ背筋がピンっとなっていて、隣のフェリは膝にハクを乗せて寝息を立てていた。


 おっ、そろそろ終わりそうかな?



「ご協力ありがとうございます。

 最後にひとつ、『ヤエ』という名前に聞き覚えはありませんか?」



 うをっ!ぶち込んじゃうのね!隣で唯もビクッとした。


 昨日の今日だから、まだ慎重に行くべきじゃないのかと思う俺は、根っからの小心者だ。



 俺は一瞬何かを感じて、タミィとネルミルさんの方を振り向いた。


 そこには、にこやかな笑顔のネルミルさんと、緊張してる唯と同じ格好のタミィがいた。


 奥の壁側には黒騎士が並んでいる。特に何もなかったようだ。

 何だったんだろ?



 王がねねの質問に返答する。


「『ヤエ』か、国内を探せばそのような名の者もいるかと思うが、ワシの近くでは聞き覚えが無いな」

 いきなりの質問だもんね。秘書もわからないそうだ。




「では、国としての顔はここまでという事でいいかのぅ。

 この度は、ワシの娘と馬鹿な男がお主らに迷惑をかけたのぅ。誠に感謝する」


 ねねのセシリア王国としての謁見が終わり、急に王の口調がフランクになった。

 立ち上がり頭まで下げちゃったよ。そして、社長の机から移動して、俺らの近くに別の椅子とテーブルを運ばせ腰を掛けた。



「王っ、下賤のものにそこまでせずとも」


「黙れ。謝罪と恩人への礼儀に、下賤もクソもないだろうて。

 すまん。ファビオラは、子がなかなかできぬ中でワシが歳を取ってからの子でのぅ。聡明なのだが、なにゆえ我儘をさせすぎた。

 ここにおるのは、護衛も含めてワシの信頼できる側近のみだ。


 お主たちには、今回の事の経緯を話そう」




 そう言って、王は今回起きたことについて話し始めた。

 

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