13、ワールドクラッシャー

「‥‥‥ってことでした。本当に唯、ごめんなさい」



「わっ、わっ、ねねちゃん、そこまで謝らなくても。ねねちゃんのせいじゃないよっ!」

 そう、悪いのは逆恨みの真聖女協会だ。


「んで、その協会の生き残りがマルスにあの武器を渡したってか。聖遺物だっけ?」


 過去に神がもたらしたアイテムだと協会は謳っていたっけな。

 今回のレーザー兵器といい、前回の杖といい、完全にオーバーテクノロジーの道具だが、一体どうやって手に入れているのか。


「聖遺物に関しては、協会解体時にはすでに持ち出されていて、セシリアでも把握できていないわ。

 ただ、前回の杖に関しては、破損している状態だけど、研究を進めているの。ただ、何も分からない感じなんだけどね」


 あの雷を呼ぶ杖は、驚いたフェリが真っ二つにしちゃったんだよな。

 まあ、あれは事故みたいなものだった。そう思おう。


「でもっでもっ!協会トップの、名前を忘れちゃったけど、ヒゲのお爺さんが捕まって、解体されたんじゃ無かったのっ?」

 唯が名前を忘れるのもわかる。長すぎて俺もヒゲジイとしか覚えてない。


「そうね。本部は解体されたはずだったのだけど、生き残りが『世界救済会』という団体を作り、新たに活動を始めているわ。

 アルスタールでの活動が国民に浸透しつつあるの。いわゆる新興宗教ね。理念はほぼ同じ、『森が世界を救う』というのを受け継いでいる。


 セシリア国内では、国民意識の違いで表立った活動は鳴りを潜めていたけど、この国では思想が近いのよね。

 明日の国王との謁見でも、おそらく違和感を感じると思うわ」


 ふ~ん。あまり関わらないようにしたいな。せっかくの休暇が、すでに厄介事に巻き込まれているのに、更に首を突っ込みたくないわ。


「それと、マルスはアジト付近で遺体で見つかったわ。唯が軟禁されていた倉庫も捜索済み。タバスは捕獲され、今は取り調べを受けているそうよ」


はっ?


 逃げられていたのっ!?氷漬けにしたつもりだったんだけど。


「さっき王国憲兵から報告があったの。『あちらも派手にやりましたね』って釘をさされちゃったわよっ!私も人のこと言えないんだけどね」


 久々のねねのテヘペロを見た気がする。

 倉庫内の氷はすぐには溶けないらしいので、おいおい捜索されるようだ。

 今回の、『この件』は、捜査が進み次第だろう。



 んじゃ、俺の爆弾を投下しましょうか。



 とりあえず、俺は先程体験した不思議な出来事をみんなに伝えた。



 ねね、ネルミルさん、タミィは、ポカーンと音のなる顔をしている。

 唯だけは、ワクワク顔だ。

 フェリとハクはどうしたって?最初っから夢の中です。今日は大活躍だったからね。


「なにそれっ!スゴイじゃんっ!ちょっと見せて見せてっ!!」

 唯に右手の甲を見せてあげる。小さい花びらの模様が1枚、薄っすら浮き上がっている。

 他のみんなも覗き見してくる。ねね、ちょっと爪を立ててこすらないでね、痛いからそれ。


「はぁ~。トモは変だ変だと思っていたけど、ここまでとは思わなかったわ。

 はぁ~、選ばれちゃったのね〜。はぁ~、案内人ね〜。

 はぁ~、ネルミル、そういう話を聞いたことある?」


 毎回毎回失敬な。ねねさん、ため息つきすぎると、幸せが逃げるよ。


「いえ、お姉さんも結構、いえ相当、もう本当に驚いていますよ。もう、トモ君は、ほんとに、もう、大変ですよっ♪」

 ネルミルさんの語彙力が低下するほどの大事だったようだ。ネルミルさんは牛になったようだ。


「でもさっ!このトモの花びらっ、なんか桜の花びらに似てないっ?8枚揃ったら一周して花になるんだねっ!

 ヤエさんだっけ?八重桜のヤエなんじゃないのかなっ?」


 ほ~、なるほどね。では、他の国で桜を探すのかな?ってか七重桜とか、聞いたことないんですけど。


 唯が「きっと名前がイチエさんとか、ミツエさんとかっ」って言っているが、8人姉妹かな?



「‥‥あの、おそらくなんですけど、間違っていたらごめんなさい。この旅館の『百葉亭』っていう名前の『百葉』と言うのが『八重の花びら』と言う意味だったと思います。

 あと、もし桜の花びらだった場合ですけど、八重桜の花言葉は、『教養』や『理知』なんです」


 これには、みんなから驚嘆の声が上がる。すごいなタミィ!「あのぅ、お花が好きなので‥‥」って恥ずかしそうにしているが、そういう知識は胸張って誇っていいよ。見た目、貼る胸はそんなに無いと思うが。



 4人の女子会議論は白熱した。3人寄ればとはよく言ったものだ。


「‥‥桜の花言葉は、『精神美』や『純血』です」

「あははっ!トモは純血とは程遠いねっ!」

「それでもトモ君の、一人で長考している姿には精神美をお姉さんは感じるわよ♪」

「あれはムッツリなだけでしょ。なんだかんだでおっぱい見てるわよ」


 ほっとけ。代わりに1人の男子会はもう眠くなっていた。

 明日も早いし、もうそろそろいいんじゃないっていう意見は却下された。


 多数決は民主主義じゃないっ!現場で女たちが強いんだっ!



「トモの話から、みんなの意見をまとめると、『すでに終わっているこの世界』で勇者のトモの『想い=日本に帰る』を叶えるためには、これまでの過去を見つめ直して、8つの国で物事をしっかり見極め知識を得るシステムとなっていて、それぞれの案内人に認められると、『この世界が終わる』と」

 うんうん、ねねさん、顔が怖いよ。前にパーティクラッシャーとか言ってゴメンね。俺がワールドクラッシャーだったわ。


「そんでっ、『終わらせたい者』と『終わらせたくない者』がいて、その人たちとバトルするってことかなっ?」

 唯さん、あなたはなんでそんなに戦闘民族なんでしょうか?素敵な笑顔です。


「世界の名前っていうのも気になるわね♪今まであまり気にならなかったのが不思議な感じ。すでに終わっているからトモ君には聞こえない。何かの暗号なのかしら♪」

 ネルミルさんは、だいぶ落ち着きを取り戻した様子。もう諦めた感じかな?


「なんだか、前にトモさんと話をしたゲームのお話しみたいですね」

 うんうん。俺も最近、その話を思い出していたんだ。

 みんなが何の話か聞きたがっていたので、再度話してあげた。俺の持論だけどね。


「ふ~ん、ゲームの世界ねぇ。まぁ何にせよ私達がここで生きてるっていう事に変わりはないからね。

 それに、すでに神様がこの世界を見捨てていたとしたら、住民や転移勇者がスキルの祝福を受けたりするのも止まってしまいそうだけど」


 確かにそうだなぁ。火山の活動や太陽の明暗すら止まってしまいそうだね。


「ヤエさんの言ってた、終わっているっていうのは、何かの比喩なんですかね?ふゎぁ、あっ、ごめんなさい」

 タミィが可愛いアクビをしたので、明日も早いからと、今日はお開きとなった。

 ナイスアクビだ、タミィ!




 本当にこれ以上、面倒くさいこと起こってほしくないな〜と思いながら、俺は風呂に入るのも忘れて、ベッドに沈み込んだ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る