12、終わる世界の案内人

 宿に戻ると、ねねたちはまだ戻ってきていなかった。

 襲撃者を撃退したってことは、警備隊との引き渡しや調書に時間がかかっているのかな?



 唯たちは温泉に行った。「すごく触られたんだよっ!ホントっキモかったしっ!」と言ってたが、スキル発動してたんだろ。それとこれとは別らしい。

 ねねが帰ってきたら、鑑定してもらったほうがいいかもなぁ。大丈夫だろうけど、洗脳が完全に解けているのか確認しておきたいし。


 あとは、氷漬けのマルスと、縛りっぱなしのタバス、襲ってきた3人の死体を報告しないと。

 氷はすぐに溶けそうにないレベルだったから。襲ってきたのは向こうだし、みんなが揃ったら相談しよう。



 そんな考えを巡らせながら、疲れからかソファーに座り込むみ、俺はウトウトしていた。



 あれ、いつの間に卓球台の所に?



 さっきソファーで考え事をしていた所までは覚えているんだけど、ここまで歩いてきた覚えがないっ!


 とりあえず首元を触る。首輪が着いている訳ではなかった。


「あー、あー、テスト、テスト」

 声は出る。操られている訳ではなかった。


「参った。夢遊病にでもなったか?」

 とりあえず、部屋の方に戻ると、


「ゴッ」

透明な壁にぶつかった。


「やばいっ!」

 人体切断マジックボックスを出現させる。しかし、発動しない。


 どこかのマンガで見たような、空間ごと移転させられるタイプの能力を想像した。汗が垂れる。


 あたりを見渡すが、誰もいない。気がつけば雑音すら聞こえない。

 透明な壁を触る。目で奥が見えるのに、ここから先が進めない。卓球の部屋に閉じ込められているようだ。


 意を決して、声を上げる。


「誰か〜、いませんか〜?」


「はい〜、ちょい待ってな〜」

 返事が返ってきた!関西弁なイントネーションの女性だ。


 どこから?と思っていたら、いつの間にか、卓球台の横にある長椅子に脚を組んで座っている。浴衣姿の風呂上がり美人さんだった。



「あんた、迷い込んだんかいな?」

 タバコの煙を器用に輪っかにしながら訪ねてくるお姉さん。

 もうこうなったら、食らわば皿まで。夢だろうが魔法だろうが、とことんやってやんよ!


「そうですね。さっきまで、部屋で寝てたんですが、気がついたらここにいまして。あっ、それと俺にもタバコ1本もらえませんか?美人のお姉さん」


 お姉さんは、一瞬呆気にとられた後、笑い出した。


「あははははっ。かんにんなっ。ここに来る人ってみな、うちのこと見て警戒しよるか、きょどるかどっちかなんねんで。

 あんたみたいなまったりはんは、滅多におらへんで」


 お姉さんは、ほれっ、っとタバコケースとマッチをポイっと投げて渡してきた。

 お礼を言って、一服させてもらう。



「はぁ~。こう見えて結構歳行ってるんで。あ、俺、三矢友宏って言います。お姉さん、お名前は?」


 タバコマッチを手渡しで返した。お姉さんはニヤッと笑って、豊満な胸が強調された浴衣の内側にしまい込む。

エロい姉さんだ。


「うちはヤエや。覚えといてな、みっちゃん♪」

 いきなりあだ名呼びっ!唯が最初こんなだったのを思い出した。

 違和感なく会話出来ているのは、雰囲気が唯に似てるんだな。



 ヤエさんにここの場所のことなど話を聞いた。

 ここは隠り世と言われる場所らしい。俗に言うあの世とのことだ。

 俺は死んでしまったのか、というわけではないらしい。時々、迷い込む人がいるようだ。前は30年くらい前らしい。

 ヤエちゃんの年齢は詮索しない。もう超越した何かだと思う。

「いけずやなぁ〜」って返事がヤエちゃんから帰ってくる。もう心を読めるよね。

 ここからはそのうち帰れるとのことだ。

 そのうちがどれくらいかはわからないが、俺も急いでないので、ゆっくりしていくことにした。

 とりあえず、お茶をもらおうか。



「あははははっ。ほんとけったいなお人やわ。ほんに死んでもうても知らへんで」


 ヤエちゃんが、ぽんっと手を叩くと、卓球台の上に熱々のお茶請けとお茶が2つ現れた。便利な力だな〜。手品より手品っぽい。


「変わってるってよく言われるよ。もう慣れたけどね。ヤエちゃんもだいぶ変わってると思うけど」

 ズズズっとお茶を頂く。美味い。いい茶葉使ってるな。



「ふ〜ん、なるほど、アンタがねぇ」

 なんか見透かされた、納得した笑顔をされた。変わり者同士ってやつか。


「ヤエちゃんは、いわゆる神様ってやつではないの?」

 このお茶請け、生八ツ橋みたいだな。なかなかいける。


「神様とはちゃうなぁ。っちゅうか、その神様の前でのみっちゃんの態度はおかしい思うけどな」

 ヤエちゃんも、お茶請けを食べながら教えてくれる。


「まぁうちはこの国の『案内人』ってやっちゃな。この『   』の。

 みっちゃんがここに来たんは偶然ちゃう。必然やったようやな。

 みっちゃんは外のお人やん?そんで結構な強い想いを持ってんで。そないな人の想いを叶えるために、うちら案内人がおるねん」



 ん?一部聞こへん。あ、感染った。うちらか。他にもヤエちゃんみたいな人が7人いるって事だな。


「あははっ、みっちゃんは勘がええなぁ。うち含めて案内人は8人おんねん。

 聞こえへん?あぁ『   』やな。ごめんな。もう終わってもうてるさかい、多分聞こえへんのやな。

 そうやな、言い換えたらこの世界の名前ちゅうやっちゃ。 

 わかるやろ?何とかボールとちゃうけど。8人分揃えたら、この世界が終わんねん」



へっ!?


終わる!?


 サラッとものすごい重要な話を聞いてる気がする。


 ヤエちゃんは優しい笑顔で続ける。

「言ったやろ、もうこの世界は終わってんねん。そやけど、気にすることはあらへんで。

 これがあんたらの言葉で『システム』っていうやつやな。

 思い返して見るとええ。今までどないなことがあったか。それがこの『   』のルールや。

 みっちゃんは不本意やろうけど、選ばれてもうてん。それこそ神様ちゅうやつなんやろな。

 せやけど気いつけるんやで。『終わらしたい者』がおれば、『終わらしたない者』がおる。

 みっちゃんの想いがほんまもんやったら、全てがええ方に向かうさかい。 

 みっちゃんなら大丈夫やで。しっかりがんばり〜や」



 まぁ、俺もやりたいことをやる決意したばっかりだし、もう楽しんで行くしかないよね。



「ここに居るよ。トモって、ハッキリ寝言言うんだね」


 目の前にねねがいた。俺はソファーに座っていた。寝汗びっしょりって言うこともない。むしろ少し休めてスッキリしている。



「‥‥いきなり戻るんだ」


「ん?ごめんね、相当大変だったでしょ。今回の件は、私が狙われていたみたい。唯は大丈夫だった?」


 その時ドアが開き、唯とフェリ、ハクが戻ってきた。

「あ~、ねねちゃんっ!おかえりっ!そっちも大変だったねっ!」


 女子同士で盛り上がり始めた。ハクが眠そうに俺の方に飛んできて膝の上に膝に止まった。


 ハクを撫でながら、右手の甲に、1枚の花びらの模様が浮かんでいることに気がついた。


「はぁ、夢ではないか。どうするかね。でも俺が日本に戻るっていうことは変わらないからな〜」




 このときは、そんな単純にしか考えていなかった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る