12、終わる世界の案内人
宿に戻ると、ねねたちはまだ戻ってきていなかった。
襲撃者を撃退したってことは、警備隊との引き渡しや調書に時間がかかっているのかな?
唯たちは温泉に行った。「すごく触られたんだよっ!ホントっキモかったしっ!」と言ってたが、スキル発動してたんだろ。それとこれとは別らしい。
ねねが帰ってきたら、鑑定してもらったほうがいいかもなぁ。大丈夫だろうけど、洗脳が完全に解けているのか確認しておきたいし。
あとは、氷漬けのマルスと、縛りっぱなしのタバス、襲ってきた3人の死体を報告しないと。
氷はすぐに溶けそうにないレベルだったから。襲ってきたのは向こうだし、みんなが揃ったら相談しよう。
そんな考えを巡らせながら、疲れからかソファーに座り込むみ、俺はウトウトしていた。
■
あれ、いつの間に卓球台の所に?
さっきソファーで考え事をしていた所までは覚えているんだけど、ここまで歩いてきた覚えがないっ!
とりあえず首元を触る。首輪が着いている訳ではなかった。
「あー、あー、テスト、テスト」
声は出る。操られている訳ではなかった。
「参った。夢遊病にでもなったか?」
とりあえず、部屋の方に戻ると、
「ゴッ」
透明な壁にぶつかった。
「やばいっ!」
人体切断マジックボックスを出現させる。しかし、発動しない。
どこかのマンガで見たような、空間ごと移転させられるタイプの能力を想像した。汗が垂れる。
あたりを見渡すが、誰もいない。気がつけば雑音すら聞こえない。
透明な壁を触る。目で奥が見えるのに、ここから先が進めない。卓球の部屋に閉じ込められているようだ。
意を決して、声を上げる。
「誰か〜、いませんか〜?」
「はい〜、ちょい待ってな〜」
返事が返ってきた!関西弁なイントネーションの女性だ。
どこから?と思っていたら、いつの間にか、卓球台の横にある長椅子に脚を組んで座っている。浴衣姿の風呂上がり美人さんだった。
「あんた、迷い込んだんかいな?」
タバコの煙を器用に輪っかにしながら訪ねてくるお姉さん。
もうこうなったら、食らわば皿まで。夢だろうが魔法だろうが、とことんやってやんよ!
「そうですね。さっきまで、部屋で寝てたんですが、気がついたらここにいまして。あっ、それと俺にもタバコ1本もらえませんか?美人のお姉さん」
お姉さんは、一瞬呆気にとられた後、笑い出した。
「あははははっ。かんにんなっ。ここに来る人ってみな、うちのこと見て警戒しよるか、きょどるかどっちかなんねんで。
あんたみたいなまったりはんは、滅多におらへんで」
お姉さんは、ほれっ、っとタバコケースとマッチをポイっと投げて渡してきた。
お礼を言って、一服させてもらう。
「はぁ~。こう見えて結構歳行ってるんで。あ、俺、三矢友宏って言います。お姉さん、お名前は?」
タバコマッチを手渡しで返した。お姉さんはニヤッと笑って、豊満な胸が強調された浴衣の内側にしまい込む。
エロい姉さんだ。
「うちはヤエや。覚えといてな、みっちゃん♪」
いきなりあだ名呼びっ!唯が最初こんなだったのを思い出した。
違和感なく会話出来ているのは、雰囲気が唯に似てるんだな。
ヤエさんにここの場所のことなど話を聞いた。
ここは隠り世と言われる場所らしい。俗に言うあの世とのことだ。
俺は死んでしまったのか、というわけではないらしい。時々、迷い込む人がいるようだ。前は30年くらい前らしい。
ヤエちゃんの年齢は詮索しない。もう超越した何かだと思う。
「いけずやなぁ〜」って返事がヤエちゃんから帰ってくる。もう心を読めるよね。
ここからはそのうち帰れるとのことだ。
そのうちがどれくらいかはわからないが、俺も急いでないので、ゆっくりしていくことにした。
とりあえず、お茶をもらおうか。
「あははははっ。ほんとけったいなお人やわ。ほんに死んでもうても知らへんで」
ヤエちゃんが、ぽんっと手を叩くと、卓球台の上に熱々のお茶請けとお茶が2つ現れた。便利な力だな〜。手品より手品っぽい。
「変わってるってよく言われるよ。もう慣れたけどね。ヤエちゃんもだいぶ変わってると思うけど」
ズズズっとお茶を頂く。美味い。いい茶葉使ってるな。
「ふ〜ん、なるほど、アンタがねぇ」
なんか見透かされた、納得した笑顔をされた。変わり者同士ってやつか。
「ヤエちゃんは、いわゆる神様ってやつではないの?」
このお茶請け、生八ツ橋みたいだな。なかなかいける。
「神様とはちゃうなぁ。っちゅうか、その神様の前でのみっちゃんの態度はおかしい思うけどな」
ヤエちゃんも、お茶請けを食べながら教えてくれる。
「まぁうちはこの国の『案内人』ってやっちゃな。この『 』の。
みっちゃんがここに来たんは偶然ちゃう。必然やったようやな。
みっちゃんは外のお人やん?そんで結構な強い想いを持ってんで。そないな人の想いを叶えるために、うちら案内人がおるねん」
ん?一部聞こへん。あ、感染った。うちらか。他にもヤエちゃんみたいな人が7人いるって事だな。
「あははっ、みっちゃんは勘がええなぁ。うち含めて案内人は8人おんねん。
聞こえへん?あぁ『 』やな。ごめんな。もう終わってもうてるさかい、多分聞こえへんのやな。
そうやな、言い換えたらこの世界の名前ちゅうやっちゃ。
わかるやろ?何とかボールとちゃうけど。8人分揃えたら、この世界が終わんねん」
へっ!?
終わる!?
サラッとものすごい重要な話を聞いてる気がする。
ヤエちゃんは優しい笑顔で続ける。
「言ったやろ、もうこの世界は終わってんねん。そやけど、気にすることはあらへんで。
これがあんたらの言葉で『システム』っていうやつやな。
思い返して見るとええ。今までどないなことがあったか。それがこの『 』のルールや。
みっちゃんは不本意やろうけど、選ばれてもうてん。それこそ神様ちゅうやつなんやろな。
せやけど気いつけるんやで。『終わらしたい者』がおれば、『終わらしたない者』がおる。
みっちゃんの想いがほんまもんやったら、全てがええ方に向かうさかい。
みっちゃんなら大丈夫やで。しっかりがんばり〜や」
まぁ、俺もやりたいことをやる決意したばっかりだし、もう楽しんで行くしかないよね。
■
「ここに居るよ。トモって、ハッキリ寝言言うんだね」
目の前にねねがいた。俺はソファーに座っていた。寝汗びっしょりって言うこともない。むしろ少し休めてスッキリしている。
「‥‥いきなり戻るんだ」
「ん?ごめんね、相当大変だったでしょ。今回の件は、私が狙われていたみたい。唯は大丈夫だった?」
その時ドアが開き、唯とフェリ、ハクが戻ってきた。
「あ~、ねねちゃんっ!おかえりっ!そっちも大変だったねっ!」
女子同士で盛り上がり始めた。ハクが眠そうに俺の方に飛んできて膝の上に膝に止まった。
ハクを撫でながら、右手の甲に、1枚の花びらの模様が浮かんでいることに気がついた。
「はぁ、夢ではないか。どうするかね。でも俺が日本に戻るっていうことは変わらないからな〜」
このときは、そんな単純にしか考えていなかった。
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