11、雲散霧消
「さて勝確の準備を始めますか」
マルスが撃ってくるのは、100%高出力のレーザービーム。
ならばどうするか。
『鳩の出現マジック』でハクの家の袋からハクを取り出した。
「キュー!?キュー!!」
ごめんなハク。こっちからだといつでも呼び寄せれるんだわ。混乱するハクを尻目に、勝確のための準備を告げる。
「ハク、冷気の霧、とっても濃いやつ出せるか?」
「キュー!」
「よしっ!全力で霧を頼むっ!」
「キュィィィィィィーっ!!」
ハクが霧を吐く。こんな寒いダジャレを、うをっ!!寒いっ!!
これはものすごい霧雨だわ。もうびっしょり。ここにいたら凍りそう。
「テ、テメェ、何をしたっ!!死ねぇぇぇぇぇぇっ!!」
甘いよマルスくん。アニメや特撮ヒーローじゃないんだから、死ねって言う前に攻撃しなさい。
魔石なのか、生命力なのかはわからんが、マルスくんが全力で撃ったビームは文字通り霧散した。
「お前は1秒後、「はっ?」っと言
「はっ?」
ちょっと心配ではあったが、濃い霧の中でレーザーは屈折だか回折だかで弱まるのだよ、明智くん。
さて、コイツどうしてくれようか?
「キュー、キュー」
ハク、どうした。褒めてほしいのか?足をバタつかせている。溺れるマネかと思いきや、足を見てほしいようだ。
あーここに手紙がくくりつけてあるのね。どれどれ。
『ありがとう。こちらは撃退した。黒幕は協会の生き残り。マルスのスキルは『ガンナー』。レーザーはスキルではない。おそらく今回の任務で協会に渡されたものの可能性が高い。トモの妻より』
あちらは無事だったようだな。協会絡みか、前回の聖女騒動を思いだす。
たしか聖遺物とか言ってたな。今回のも完全にオーバーテクノロジーだけど。
なるほど、その銃を奪えって言うことね。どうせならこのままハクの冷気で凍らせてしまうか。
直前の濃霧が凍り、聖闘士リアルダイヤモンドダストのような現象が起きるかも。
ちょっとワクワクしながら、ハクに咆哮をお願いする。
「ハク、冷気の咆哮をお願いっ!」
「ギュァァァァァァァッ!!」
さきほどの冷気より激しい冷気が襲う。うぉぉぉぉぉっ!寒すぎる。凍る凍る。
「ハクっ!ストップっ!やめっ!やめてーっ」
「キュっ?」
さっさぶい、さぶいさぶいさぶい。
と、とりあえず、ファ、ファイヤー、マッマジックっ!!!
〜5分後〜
「‥‥死ぬかと思った」
結論から言うと、濃すぎる濃霧が空中で凍りつき、倉庫の奥の方は氷の壁になってしまいました。
おそらくマルス君は、凍てつく氷に閉じ込められてしまったことだろう。
溶かす?→NO
こんな時は『面倒くさいこと回避』スキル発動!
とりあえず、野郎は後にして、フェリの首輪を外してあげないと。
■
唯とフェリの所に戻った時、2人は泣きながら抱き合っていた。
ゴメンね。寒かったね。あれ、違うの?
術師の男が気を失ったらしく、フェリの首輪にかけられた効果が弱まったのか、体の自由を取り戻していた。
体を乗っ取られて、俺や唯に危害を与えていた悔しさでいっぱいだったようだ。
「フェリ、もっとつよくなって、パパとママをまもりたい」
首輪を外してやり、フェリを抱きしめた。俺は、フェリが無事でいてくれて嬉しいよと頭を撫でてあげた。
体を反転させて見た唯は顔は、涙でぐしゃぐしゃだった。俺に飛び込んできて、最初の言葉は、「どぼが、よべっていっでぐれだ〜」だった。
唯は洗脳状態だった。声は聞こえていて、考えることはできるのに、体が支配されているので、何もできなかったようだ。
マルスに襲われかけたときに、スキルのレベルが上がり、さきほど俺も体験した、相手に触られた瞬間だけ無敵になりノックバックさせられるという状態だったようだ。
「だがらっ、なんぼざれでないがらでぇっ~!」
うんうん。もう泣き止もうよ。ずっと、俺に嫌われたらどうしようというのが頭の中の最優先だったらしい。
まったく、かわいいやつだなぁ。俺は、何があっても嫌いにならないよ。
こんな感情を思えるようになったのも、ずっとついてきてくれた唯のおかげなのかもしれないな。
「ああ、頑張ったな。偉いぞ唯。流石は俺の嫁だ」
高橋くんと桜井くんとが殺された事は、すでに聞かされていたようだ。唯の心を折るためだろう。
「ここで目を覚ましたとき、初めは声が出たんだけど、体も動かなくて。
そこからずっと、そのタバスっていう男が話し続けて、シンジとサクちゃん、ハスミちゃんを殺した事とか、フェリの事を呼び出してアタシの前で犯して殺すとか。
聞きたく無かったんだけど、ずっとトモの事を頭の中で考えてたら、トモの名前だけ口に出すことが出来るようになってて」
タバスの能力が、洗脳のスキルなのか、魔導具なのかは分からないが、相当厄介なのはわかった。
ハスミさんは生きていることを話した。唯は、「そうかっ、良かったっ」と小さい声で言っていたが、俺も、1人残ってしまったハスミさんのことを思うと少しツラい。
「とりあえず帰ろうか。お腹も空いたし、みんなに無事を知らせないとね」
ねねに、手紙を受け取った報告をしておく。
ねねのスプーンリングにハートのマーク、う~ん、やめとこ。めんどくさいことになる、きっと。ねねのリングを『了』の一文字で変形させる。
‥‥やっちまったか?悩みすぎか?
『ア』と読まないよな。『了』を見て、『ア』と思って、『愛してるのア』とか飛躍解読しないよな?
■
「ハァハァ、なんだアイツっ、クソっ~!」
工業用の用水路を、音を立てて走る男がいる。
その男マルスは、ハクの咆哮冷気の前に、転移石にてその場を離脱していた。
女をヤルだけの仕事だった。いつも通りの事をするだけだった。今頃は、女を抱いてから殺し、酒を飲んでいる時間だった。
■
マルスは冒険者だった。ガンナーという職業は、遠距離からの攻撃に特化したスキルを持つ。
初めの頃は、ソロで活動していた。一人でもやっていける自信も腕もあった。そんなマルスを仲間に引き入れたい者は多かった。
仲間との活動は充実していた。誠実さもあって信頼も厚かった。マルスの名声も上がっていった。
唯一の誤算は、順風満帆だったこと。護衛任務中、魔物との混戦の中、仲間の女シーフの足を跳弾で撃ち抜いてしまった。仲間達はマルスを責めなかった。女シーフは、後遺症を抱え、引退した。
一回のミスで、マルスの名声と信頼は落ちていった。次の任務で、他の仲間全員を撃ち抜いた。死体は魔物に食われて残らなかった。
マルスは疑われ、全てを失った。
闇ギルドに落ち、暗殺者として頭角を表していった。そして名声、金、女が手に入った。だが、決して満足することができなかった。
タバスは、死体を操る呪いのスキルを持っていた。日の当たる場所では嫌厭され、闇ギルド落ちは至極当然だった。
マルスは、このタバスに近づいた。死体を処理するのに都合がよく、タバスも死体を手配するのに都合が良かった。
ギブアンドテイク、証拠を残さない2人の悪名は上がっていった。
今回の依頼は、大きい山だった。「こちらは聖女ねねを排除したい。邪魔になるドラゴンスレイヤーの女勇者を処分してほしい」
ドラゴンスレイヤーと言ってもたかが女。さらなる名声と金が手に入るならば、断ることはなかった。いつも通りの仕事だ。
「失った物を取り戻したいだろう。その『想い』が強ければ強いほど、ガンナーの君なら、これを使いこなせるだろうね」
■
あの男にこの銃を渡されてから、全てが狂った。肝心な所で役に立たねぇ。何が『想い』だっ。
「クソっ、次に会ったら、どっちも殺す」
「ほう、誰を殺すのかね?」
マルスの前には、白いローブを着た男が立っていた。
「はっ!テメェだよっ。くだらねえもん渡しやがってっ」
マルスが、レーザー銃をその男に投げつける。
「死ねよっ」
マシンガンを撃ちまくる。闇夜に銃声が響いた。
「目は良かったんだが、心が弱かったようだな。残念ながらハズレだ」
「テメェ、なぜ死なっ
マルスは前のめりに倒れ、息を引き取った。
ローブの男は、落ちている銃を拾い、霧のように消える。
「さて、次はアタリを引きたいものだ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます