10、不平等な世界
「やばかったっ!!」
箱に緊急回避した俺だが、このレーザーはヤバすぎた。不用意に飛び出した結果がこれだ。
箱にはこのレーザー兵器で開けられたであろう小さい穴が開いている。焼け焦げた臭いもする。こんなこと初めてだ。
「無敵だと思っていた箱に入っていたら、無敵じゃなくて死んでしまいました」の小説が書けそうだ。
あっ、死んでるから書けないわ。
箱の正面と、左側の側面が貫通している。レーザーが曲がったようだ。
命拾いした。本格的には後で考える。多分鏡なのかな?と思っている。詳しい仕組みは知らないよ。
ただ「完璧は無い」。これは肝に銘じておかないと。
おそらく、高出力はそんな簡単に撃てない。桜井くんを殺したレーザーは、少なくてもこぶし大の大きさがあった。あの威力だったら絶対鏡も貫通する。
今回だって、照射時間が長ければ鏡?も溶けていたんじゃないの?
マルスは、俺がフェリと唯との戦い中、攻撃をしてきていない。
この一撃のために、パワーなのか魔力なのかを充填していたんだろう。
ただ、相手にとっては思わぬ事態が起きたはずだ。唯の呪いが解除され、呪いの術師が苦しみだし、操っていたフェリが使えなくなり、俺が仲間の術師に迫っていたこと。
なので、あんな細いレーザーしか撃てなかった。ただ、そのまま受けていたら死んでいたかもしれない。レーザーのパワーが溜まっていたとしたら、消滅していたかもしれない。
怖っ!ほんと俺、運だけで生きてるって言っても過言ではないかもしれない。
でもこれなら、レーザーはもう撃たれないだろう。厄介なのはもう一つの攻撃、マシンガンの方か。ライフルとかも持ってるかもしれない。
ただし、俺の予想が当たっていたらだけど。当たっててね。
箱を開放して外に出る。もう一度発動、盾にしてジリジリ進んでいく。
「チィッ!!まだぁ死なねえのかよぉぉぉぉ、出てこいよっテメェェェッ!!」
マシンガンをぶっ放してくる。おほー、だいぶキレてますね。小物感抜群だ。演技には見えない。
俺は挑発には乗らない臆病な男です。箱を正面に構えながら前に進む。
光の見えた位置からすると、マルスと、洗脳の術師は同じところには居ない。
まずは唸り声を上げている術師から確認する。フェリが元に戻れば戦い方も変わってくる。
「ぅぅぅぅぅ」
唸るだけで、叫ぶ気力も無くなったようだ。小刻みに震えながら、失禁している。この状態が、俺がタミィにしでかした仕打ちだと考えたら、罪悪感に襲われる。
「今度、本気でタミィに罪滅ぼししよう‥‥‥」
マルスの居るだろう方向に箱は構えている。先程みたいな失態はしない。
慎重に、臆病に。
今ここでこの術師の男を殺していいものなのか?
タミィとの話を思いだす。
■
「タミィ、呪いをかけている術師を殺してしまった場合、呪いは解除されるのかな?」
タミィがすごい勢いでビクッとした。涙目でこちらを見つめてくる。
「うっえぇぇ、トモさん、ワタシを殺すんですかっ!?」
しまったっ!!キメ顔が怖かったかっ!?俺の口調が暗かったか!?
皿を洗いながら話をしたのがマズかったか!ちょうど洗いかけの包丁を持ったまま聞いてしまったっ!
あれ?俺って、タミィに呪われている状態じゃ無いよね?えっ?えっ?
ソファーでタミィの頭を撫でながらご機嫌を取った。
「ウフフっ、はい、そうですね〜。呪いの場合は、死後に強まったり、恨んでいた人が死んだあとに、恨まれていた人への呪いに変わったことはあります。
ただ、全てがそうなるわけではありません。これだけつよい『想い』が宿っていたかによると言うのが、現在の認識となっています」
「ふ~ん、やっぱりそこでも『想い』っていう言葉が出てくるんだな」
「この世界は『想い』で創造されているという説を信じる方が多いのは事実です。ほぼ常識に近いほどですが、本当のところは誰も知りません。
神様がいた頃でしたら、話が聞けたのでしょうが」
「それも、誰かに聞いた覚えがあるよ。今はいないんでしょ神様が」
「今の神様は、崇拝の対象というか、みんなの心の中にみたいな存在ですが、もしかしたらどこかでお休み中なのかもしれませんね。
ただ昔の文献では、8カ国の会議に出席していたようですし、名前が『天上会談』って言われているんですが、その名残りとのことです。
あとは、禁忌による神罰、勇者召喚やバーンアウト、スタンピード、各地の祭事なども神様が管理をしていたっていう話もありますね。
この世界って真四角ですよね。ワタシ達にとっては普通のことなんですけど、異世界の勇者様からすると、あり得ない話なんですって。
『ゲーム』みたいだっていう方が多いんです。
もし神様がいて、この世界を作って管理をしていたならば、『世界の果て』の向こう側にも、同じような四角い世界がたくさんあって、それぞれを競わせているんじゃないかっていう持論を持った勇者様もいたようですし」
なるほどな〜。もしこの世界がソーシャルゲームだとしたら、そんな設定のあるゲームがあるかもしれない。
ただゲームにしては、住人が住人らしく生きすぎているよな。
NPC、ノンプレイヤーキャラクターが1人も居ない、全員がプレイヤーとして生きられるゲーム。きっと容量が足りなくなるし、制作会社が人件費と予算不足で潰れてしまうわ。
「ゲームっていうのは俺も最初思ったことがあったんだよね。
ただ、俺の前の世界には、郷に入っては郷に従えっていう諺、戒めとか教訓とか、こういうふうに考えなさいっていうのがあってね。
この世界にはこの世界なりの価値観や歴史があるわけだから、自分の知識にとらわれず、その世界のルールに従いなさいっていうのがあるんだ。
俺はそう思ってこの世界で生きてるしね。
この世界は魅力的な世界だと思うけど不平等なんだよね。魔王を倒して世界平和とか言う目的も無いしね。だからゲームとは思えないんだよな」
「あっ、もう撫でなくても、ありがとうございました‥‥。あの、不平等っていうのは、どういうことですか?」
「この世界は、スキルがあるでしょ。それも生きている者全てに。魔物も含めて。それって不平等なんだよね」
「みんなが持っているから平等ではないんですか?」
「あっ、ゲームだったらの話しだからね。みんなが同じスキルをもらえるのであれば平等なのかもしれない。
例えば、世界中のみんなのスキルが『呪術師』だった場合。最強の呪術師となって世界を救うみたいなゲームだな。
タミィは勇者の家系でお父さんは領主で、失礼かもしれないけど恵まれている。英才教育を受けることができて、才能と相まってバシバシレベルアップだ。
孤児院で生まれた『呪術師』の子は、お金がないからキチンとした教育や訓練は受けられない。
だけど、孤児院の子も、努力が実りものすごい成長をして、タミィよりスゴイ呪術師になれるかもしれない。
みんなが同じスタートラインで、その後、一人ひとりの努力次第で差が生まれる。勉強や研鑽なんかでもそうだよね。
みんなが平等に、強くなれる、英雄になれるチャンスがあるんだ。
俺たちの世界のゲームでも、ガチャの確率の運とか、課金額の量‥‥って言ってもわからないよね。ゴメンね。
でもこの世界では、祝福っていう形でスキルが決められてしまうよね。想いの強さで、ある程度希望するスキルを貰える可能性もあるけど、最終的には神様次第だ。
スキルの転職っていうシステムもない。嫌だと言っても変えることはできない。選択肢がない。チャンスは祝福の時の1度きり。
ゲームじゃ無ければ、それぞれのスキルを鍛えて行けばいい。
ゲームだったら、いわゆる不遇スキルの場合に、やる気、この世界だと想いが無くなってしまうと思うんだよね。まぁリセマラって言う手が‥‥これは関係ないか。
俺の手品師もいい例かな。変わった考えでやりくりしてるけど、俺は魔法使いになりたかったからね」
「えっ、トモさん、そうだったんですか。なんか手品の練習しているとき、とても楽しそうですけど」
「アハハっ、今はね。もう手品を鍛えるしかないから。更に魔力を外に出せませんなんて言われたからには、これしかやりようがないからね」
「あっ‥‥ごめんなさい。ワタシ、なんか失礼な事を」
「ううん、そんなことないよ。今は、このスキルが大好きなんだ。タミィに楽しそうって言われて嬉しいよ」
「あっ‥‥はいっ‥‥ワタシも嬉しいです‥‥」
「ゴメンね。話を戻すと、もしもこの世界がゲームだったとしたら、その不平等は致命的なんだ。
ゲームというのは、自分を主人公に見立てた疑似体験なんだ。
そして、そのゲームを作った制作会社、いわゆる神様は、みんなの想いがあってこそ、その世界を続けていける。
それが、一方は、伝説の剣で世界を救える英雄スキルの祝福。一方は、手で畑を耕すのが人より早い農業スキルの祝福を受けた。
俺からしたらどっちもスゴイんだけど、大半の人が憧れるのは英雄譚なんだよね。
残念なスキルになってしまった人が徐々に諦めていって、有力なスキルを持った人は最初は楽しいんだけど、気がついたらそのゲームをやっているのは自分だけっていう事になっちゃう。
そうすると神様が世界を見捨ててしまうんだ。神様がその可能性と、救済策を作っていないなんてありえない。
この世界はみんなが主人公になれる希望で溢れていると思ってる。
だから俺もこの世界で頑張れてるんだろうな。まあ、英雄はお断りだけどね」
「‥‥でも、前の世界に帰りたいんですよね‥‥」
「うん。前にも言ったかもしれないけど、子供を3人、前の世界に残しっぱなしでこっちに来ちゃってる。
さっき、郷に入ってはとか言ったけど、俺はまだ、この世界のお客さんなんだよね。だからかな。帰らなきゃいけないっていう、いわば『呪い』なのかもね」
「そうなんですね‥‥。もし、ワタシがトモさんのその『呪い』を解呪することが出来たら‥‥、ずっとこの世界にいてくれますかっ?」
「そうだな~。それができたら、この世界にいるよ。じゃあ、タミィにお願いしようか。俺の『解呪』をねっ!」
「は、はいっ!絶対に、頑張りますっ!!」
■
ちょっと違う所まで思い出しちゃったけど、相手のスキルが分からない。今はまだ殺す選択肢は無いな。
スプーンマジックで両手を拘束し、口と腕、足など至る所をリングマジックで拘束した。死にはしないだろう。
さて、あとはマルスの行動だ。逃げか、玉砕は無いな。フェリや唯への攻撃は難しいだろう。
やつのスキルでは、フェリは操られている状態でもスピードで躱すし、唯は無敵がある。
あとは奥の手か。
術師の男をそのまま放置し、マルスが居るだろう方向に進む。もちろん、最大の警戒をしながら。
マルスがいた。妙にスッキリした顔をしている。まいった。奥の手だ。
「はっ!ここまでヤルとは思わなかったぜ。テメェが来なけりゃ、俺はハッピーだったわ」
話が長い。時間稼ぎか?
その時、遠くで声が聞こえた気がした。ハクの声だ。戻ってきたのか?ねねの方はどうなった!?
「テメェ、聞いてんのかっ!?まぁ、これで最後だ。はっ!死んでくれよ」
マルスが、最大に光る銃を取り出した。パワーが充填されてるのか。
とりあえず、俺は落ち着いている。勝確だから。
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