9、フェリ&唯VSトモ

「パパこうげきじだぐないっ!」



 涙をいっぱい流し続けるフェリが、両手を縛られたまま、擬体した爪で俺に攻撃を仕掛けてくる。


 俺は左手のボックスでガードする。

 くそっ、箱を振り回して運悪くフェリに当たってしまったら、俺には軽くて相手には重いという不自然な重さで、フェリが怪我をする可能性がある。それはまずい。


 動きは何とか見えている。ただ、俺の体がフェリの速さについていけない。ただでさえ身体能力に差がありすぎるのに、刺された右足が痛え。俺の体力が蝕まれる。

 今の俺がフェリに対抗できるのは、目と手癖と小賢しい頭の中だけ。


 フェリを傷つけずに無効化するには、どうする?ってか、今の俺にはこれしかないのだ。


人体切断ボックスに回しゅ


「っ!!」

 フェリがスキル発動範囲の5mの外に飛び退いた。


 マジかよっ!!すごいぞっ!フェリっ!ヤバいっっ、喜んでる場合じゃなかった。


 このマジックは、声に出さなくても発動するのだが、心のなかでも『人体切断マジックに回収』の言葉をイメージしないと発動しない。

 魔力を使うわけでも無いので、魔力量の変化ではわからない。だから普通は発動のタイミングなんてわかるわけがないのだ。


 時間にして2秒もない時間なのだが、その一瞬の間を動物的本能なのか、今までの経験なのか、確実に察知して、俺から距離を取る。


「パパぁぁぁ」

 すぐさま、フェリが襲ってくる。ボックスを構えながら、俺は縄を投げ、リングマジックを発動させる。


 フェリの体や足を縛り付けた。しかしすぐさま、爪を伸縮させ、器用にその縄を切り攻撃してくる。

 大した時間稼ぎにもならない。



「トモ」


 ヤバい、フェリに気を取られていたら、反対側から唯が迫っていた。俺に首輪を着けようと迫ってくる。


 唯の首輪を持っている手を掴んだ。唯の無敵が発動し、俺はノックバックさせられた。

 ぐわっ!マジかよっ!強制的に唯から距離を取らされる。そこへ、フェリが攻撃を仕掛けてくる。


「やだぁぁっ!」

「痛っ!!」左腕を貫かれ、持っていた箱を落とした。痛みで箱が消える。

 右手のグローブでフェリを掴み、そのまま投げ飛ばす。くっ、箱さえ落とさなければフェリを回収出来たのに。


 投げ飛ばされたフェリは、華麗に着地し、ひとっ飛びで俺に向かってくる。

 後で褒めてあげるから、ここでは頑張らないでっ!



「やだぁっ~!」


人体切断マジック発動!


「っ!!」

 フェリ、今の、空中を蹴らなかった!?

 どうやったかわからないがフェリが距離を取った。


 フェリには発動しなかったのにスキルは発動した。箱を右手に構える。

 代わりに唯が見えない。近くにいた唯が巻き添えの形で箱に収まったようだ。


 それでも、フェリのラッシュは続く。ボックス回収での警戒ノックバックはさせられないが、このままのほうが、唯に邪魔されなくて済む、っと思ったとき、フェリが近づき箱の扉を3つ全部開放した。


 唯が箱から飛び出すっ!


 ちょっとっ!!そんな事、一回もやったこと無かったよねっ!!


 確かに、全部開けたら隠れているところ無いから出れるわけか。


 ちょっと無表情の嫁さんっ!フェリの成長本能が半端ないよっ!



「トモ」


 夫婦間の温度差を感じる抑揚のない返事が帰ってきた。指輪ではなく、首輪を勧めてくる。愛が重すぎるよ?


 わかったから、すぐに元に戻してやるからっ!

 唯にあえて触れて距離を取る。


 痛いけど、痛がってる余裕も無くなってきた。次の考えを巡らす時間がないっ!!俺の予想外の動きにも対応してくるフェリ。


 フェリは操作というより、本能で俺に対して攻撃をするよう強制させられている感じだ。なので、言葉や感情が表に出せている。


ならばっ!!


 俺はタバコを取り出した。

『コインのタバコ貫通マジック!』


 これ、フェリが大好きなマジック。絶対に本能で興味を持つ!はずぅっ!

 持ってくれよぉぉ〜!



「あっー!それっ!フェリがすきなやつ!」


 フェリの動きが止まった!よっしゃ!!左腕が痛えっ!!忘れてたっ!!

 心のなかでガッツポーズ!!


 ここで、箱を解除しグローブを移動、初お披露目!急げ、そして上手くいけよ〜

『カード出現マジックっ!』


 トランプがババババっと音を立てて俺の右手から大量に出てくる、出てくる、出てくる。ただそれだけ。


 トランプが出てくる方の手のひらを、フェリの方に向けた。多分だけど、この手品もフェリがすきなやつだと思う。


ここで、『コインの消失マジック』


 コイングローブを身に着けた俺は、コインと共に姿を見えなくした。


 多分だが、カードが目眩ましになって、フェリは見えなくなった俺を見つけられないはず。触られない限り。


フェリは俺を見失っている。


 はぁ~、ようやくひと息入れられる。もう、俺は戦いに参加したくないわ。箱がなければただの人だから。


 この隙に、先に唯の首輪を解除する。予想があってれば、無理矢理不可思議解除で、術者にダメージがいく。タミィみたいに。

 今まで姿を見せないもう一人が術者の可能性が高い。


 沈黙を続けるマルスも不自然だ。唯に正気に戻ってもらい、フェリをその後解除する。


 負傷箇所にポーションをぶっかけ、残りを飲み干す。

 こっそり唯に近づき、カラビナ付魔木コインを唯の首輪に引っ付ける。

 よしっ!離れさせられたけど上手く掛かった。1個1個がシビアだわホント。


 次に、唯に人体切断マジックの箱を発動させ、唯を回収した。

 こうしないと、唯の首輪に触れた瞬間に、唯のスキルで俺が強制的にノックバックさせられる。


 フェリが気がついた。多分、俺の姿を認識された。急げ急げっ。


『コイン移動マジック発動っ!』

 手元にコインが付いた首輪が飛んできた。よしっ!


『人体切断マジック解除』

出てこい、唯っ!!



「ドボっ!!!!」



 抑揚がついてるし、号泣してるし。俺の知ってる唯が戻ってきたっ!!


『ピカー』ではなく『ドボ』だったけどしょうがない。



「ママっ!!」


「唯、スキルをっ!!フェリが操られてるっ!!」

「んっ!!」

 現状を理解しているようで、唯はすぐさまスキルのガードウーマンを発動させる。


「ママっ!よけて」


 フェリが唯に攻撃を仕掛けるが、発動中、唯は動けないがダメージを受けない。フェリは唯にしか攻撃を仕掛けられない。


 上手く行ったと思ったその時、

「ぐわぁアアぁぁぁ!痛ぇぇぇぇ!」


 後方で叫び声が聞こえた。


 マルスの声ではない。おそらく、もう一人の術者だ。

 フェリの呪いは解除されていない。まだ、術者は術を解いてないし生きている。


「唯っ!!フェリを頼むっ!」

「わがっだっ!!ぎをつけでっ!」

「パパ、きをつけて」


 唯に攻撃を続けるフェリも、体は操作されていても、窮地は脱した事を理解したようだ。



 手袋を嵌め、ボックスを担ぎ、いまだ苦しむ声を上げる男の方向へ走る。






光が、俺の額を貫いた


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