8、襲撃とブリザードスピン(ねね視点)

 温泉旅館百葉亭から離れた広場で、ねねたちは100人近い男達に囲まれていた。


「可愛い姉チャンたちじゃねえかーゲヘヘっ、ヒーヒー言わせてぇー」


「好きなだけまわして良いって話だぜ、待ってろよ、そこのデカイおっぱい、ヒヒヒッ俺のもデカいからなっ」


「黒いローブの娘は、ちっちゃくていいねぇ。おじさんに任せてみなっ。イイところに連れてってあげるからっ、ウヒヒっ」


「うわ~、集めたわね。揃いも揃ってキモいのを!」


 野盗なのか無法者の集団みたいな連中の円の中心に私達はいる。

 四方八方から、ゲスなヤジが飛んでくる。


「ヒィーッ!ねね様、ネルミル様、ワタシ寒気がするんですけどっ」

 杖を構え、見覚えのある黒いローブを身に纏ったタミィが悲鳴を上げる。


 ここに来る前に、「このローブ、以前ねね様が使っていたようなのですが、トモさんに頂いたのです‥‥」

と、ローブをこちらに差し出してきたから、「これはもうタミィの物だよっ」って着せてあげた。

 私は脱出のときに被せられただけだからね。タミィが使ったほうが有意義だと思った。


「ねねちゃんも、タミィちゃんも、聞かなくていいわよっ♪耳が腐っちゃうでしょ♪」

 ネルミルは、いつもの軽鎧とショートソード。そして強力な回復魔法も使えるとても頼もしい凄腕筆頭護衛だ。

 ネルミルが聖女でもいいのでは無いかとも思う。



 以前見たことのある白と黄色のローブを着ている男もいる。以前、聖女だった私を攫った協会だ。


 

「あー、みんなごめん、私絡みだったみたい。後でトモと唯にも誤っておかないと」


 一年前の魔の刻の後、高校生勇者で『聖魔女』だった香ちゃんの代わりになってしまった聖女。

 国民へのお披露目の最中に、私は『真聖女協会』っていう怪しい集団に攫われて、異端扱いで殺されかけた。

 最後はトモが助けてくれて、あの時からトモを本気で好きになってしまったことを実感した。

 協会はその後、セシリア王国の警備隊によって壊滅、解体もされたはずだ。


「生き残りの逆恨みよっ♪ねねちゃんが気にすることないわっ♪

 もし、怪我をしたら叫びなさいネッ♪。お姉さんが、回復を飛ばすからっ♪」

 ネルミルの、いつも通りの口調が落ち着きを取り戻させてくれる。


「‥‥‥‥に従い我らを呪いたまへ『呪いの手っ!』」

 私達の周りに、タミィの呪術が発動する。体から黒い手が4本生えていた。


「ちょっと気持ち悪いかもしれませんが、この黒い手が飛んでくる矢などを払ってくれます。効果は10分です。

 ただ過信はしないでください。補助的な効果しかありませんからっ」


 ありがとうタミィ。こういったとき、私には敵と戦う力がない。でも、今日はトモがよこしてくれたハクがいる。私に頼ってくれた、戦力として、仲間として認めてくれたトモの想いがある。

 私にはネルミルみたいな力はない。愛子さんみたいな戦術もない。

 だけどねっ、日本でエロいおっさんを手球に取ってきた経験だけは誰にも負けられないのよっ!

 

 無法者の集団からローブの中年が前に出てきた。見たことがある。協会枢機院のバーナードだ。

 人を見下すキザったらしい嫌な男。いつもニヤけた目で見られていた。

バーナードがこちらに向かって話しだした。


「おやおや、これは『偽』聖女様ではありませんか。こんな遅くに女性だけでお出掛けとは、危険極まり



「二人とも伏せてっ!ハク、全力でお願いっ!!」



「ギュァァァァァァァッ!!」



 胸の前で両手で包み込んでいたハクを、腕を伸ばして手を開き、冷気の混じった咆哮を放出させた。

 そのまま、私自身がスケートのスピンのように回転する。


 周りを囲んでいた男達、木陰に潜んでいた者たちを一斉に、恐怖と凍てつきの同時攻撃を浴びせさせた。


 約3分後、ハクの咆哮が止まった。

「キ、キュ〜っ!」

「目が回るぅぅぅぅっ!」

 大誤算だった。二人とも目を回してしまっていた。


 ハクを抱えたまま、座り込むと同時に、ネルミルとタミィがまだかろうじて耐え抜いた敵に向かっていく。


 目を回しながら、ネルミルが剣を振るう姿、タミィが杖で叩きながら敵を昏倒させている姿が見える。


「うぇぇぇぇー、ぎぼぢわるいっ」



 それから数分後、私達を囲んでいた男たちは、完全に凍りついているか、ネルミルやタミィに無力化されていた。

 木の上から弓矢でこちらを狙っていたアーチャーは、木を蹴られて落ちてきた虫みたいになって凍っている。


 騒ぎを聞きつけた住民や宿泊客たちが集まってきた。

 誰かが呼んだらしい警備隊もこちらに向かってきた。


 話途中で凍らされたバーナードは、ニヤケ顔のまま氷の中に閉じ込められていた。


「不意打ちは、私の夫の基本方針でねっ!

 それと、ネチネチと前段の会話が長いオッサンは、速攻で行為に取り掛かったほうが、すぐに逝ってくれるのよっ!」



 次々と捕縛されていく男達。凍っている者はそのまま運ばれていた。警備隊に状況というか惨状の内容を話す。

 なんかこちらの方が悪者扱いじゃない?まぁ、過剰防衛だった気も無くはない。でも、こうでもしないと殺されてたからね。

 セシリア王国の使節団だということを伝えると態度が180度変わり、上司が出てきて、急に丁重な対応に変わった。

 全く、どの世界でもこういうのは変わらない。


 意識のある白いフードの男を数人呼んでもらい、事の顛末を確認した。


 目的はやはり私への復習。アルスタールへのほぼお忍び来訪の内容を知って、謁見前のまだ国内での警備の薄いタイミングで襲撃する計画だったようだ。

 王同士の個人的やり取りだからね。正式には出来ないし、私の注意と認識不足だった。

 闇ギルドで男たちを雇い、集団で一気に叩き潰すという、綿密に計画されているんだかわからない内容。

 1番の障害になると予想されるドラゴンスレイヤーの唯を、マルスという闇ギルドの手練れに足止めをさせておけば、あとは女子供が数人だけ。

 簡単に終わる仕事だったはずだと話していた。


 警備隊長が、私に忠告してくる。

「マルスというのは、闇ギルドでも危険なヤツで、懸賞金もかけられています。女を遊びで犯し、殺しても死者を弄ぶような極悪人です。

 本人は『ガンナー』という拳銃使いなのですが、部下の1人にタバスというやつがいて、コイツが死体を操るスキル持ちなので、犯罪に絡んだ死体が残らない。厄介な相手です」


 そこまでわかってるなら、あなた達がなんとかしなさいよっと言うのを我慢しながら、マルスの光の攻撃について聞いてみる。

「レーザーですか?聞いたこと無いですね。そんなスキルがあったら、我々では立ち打ち出来ないでしょう」


 レーザーではない?もしくは、マルスのスキルでは無いってことかしら?


 どっちにしろ、トモと連絡を取りたい。だけど、通信機をトモは持っていない。魔力探知機が、あれはあっても広範囲は探せない。どうしよう。


「ハクちゃん、トモと連絡とれたり、匂いとか気配とかわかったりする?」 


「キュ〜ン」


 無理そうだ。フェリちゃんならば匂いで探索とかできるだろうけど、ドラゴン、いやいまは鳩か、のハクに求めるのは難しいのね。

 困った悲しい声を出すハクを両手で優しく包み込む。


 そうだっ!鳩っ!鳩なら、帰巣本能とかないかな!?ハクの家の手品袋は、おそらくトモかフェリが持っているはず。

 トモのヘンテコ手品スキルならば、なんとかいけるんじゃないのかなっ!?


 トモから貰ったように手紙を書く。そして、ハクの足に縛り付けた。

「ハクちゃんいい?あなたには家に帰る能力があるはずなの。そこにはトモとフェリちゃんがいる。あの二人が危険なのっ!本能、思いのまま飛んで、トモとフェリ、唯を助けてあげてっ!お願いっ」


 ハクの頭に口づけをして、空に解き放つ。ハクは、空で数回の旋回をして、「キュイ」っと一鳴きしたあと、思い立ったように一直線に飛び立った。


 

 お願い。そして、トモ、唯、フェリちゃん、どうか無事でいて。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る