7、猫の首輪と機関銃

「この中か?」

「うん。ママのにおいと、ほかに5人いる。みんなつよいけど、1人もうすこしつよい」

 

 倉庫のような建物。この中に唯が。

 5人か。そのもうすこし強いのがマルスってやつだろう。


 踏み込めば戦いになるだろう。やつは高橋くん、桜井くんを殺している。クッ、勝てるだろうか?


 俺たちは、対人との戦闘経験が無い。人は殺さずここまできた。出来れば、ずっとそうしたかったし、フェリにもそうさせたかった。

 ただ、この世界はそんなに甘くなかった。連れ去られた唯、2人の死を見て、俺は怒っている。


 怒りに任せて、人を殺していいものか。ただ、殺さなければ、俺もフェリも、唯も殺されるだろう。


「フェリごめんな。出来ればフェリに人を殺させたく無かった。だけど、今回はそうも行かないだろう。

ママを助けよう。フェリ、行けるか?」


「うん。だいしょうぶ」

 フェリ、ありがとう。俺はフェリの頭を撫でる。


「いつもの作戦で行こう」



 俺ははてなボックスを右手に構えながら、唯がいる倉庫に入っていった。

 さきほど暗刻が訪れたので、部屋の中は薄暗い。


「はっ!来たかっ」


「トモ」


 奥に身長2m以上ある男と、隣には唯が立っている。多分あいつがマルスだろう。


 他の4人はどこだ。待ち伏せで人数がバレていないと


 唯は見たところ無事そうだ。良かった。首にでかい首輪が付いている。あれで何かをしているわけか。

 スキル封じ、隷属化、洗脳、拘束、正確には分からないが、体は動かせないけど声は出せるってところか。



「娘が来ると思ったけどなっ。誰だよテメェ」


 俺のことを把握していないのか。好都合だ。いつもの奇襲がかけやすい。


「そこの唯の旦那だよっ!俺の嫁を返してもらおうかっ!」


 男はため息をつく。

「はぁ~、コイツが旦那じゃなかったのかよっ。まぁいいわっ。テメエを殺した後で、この女をひん剥いてやるよ」

 男は何かをこっちに投げつけてきた。爆弾か?薄暗くて見えにくい。


首だった。おそらく桜井くんの。


 その時、持っている箱が揺れた。

フェリの合図だ。


切断マジックを解除する。

箱からフェリが飛び出す。

正面から2人の男が迫っていた。

 フェリの出現に驚いたのは、その男たち。ひとりを、フェリが片手の爪で刀を受け、もう一方で斬りつける。

 俺は解除と同時に、マジックボックスを発動した。正面の二人目を箱に閉じ込める。

 真ん中の箱を足で蹴りすぐさま解体。同時にグチャっという音。箱が消える。

「うしろっ」


 フェリの声に反応して振り向きざまにマジックボックスを発動。箱が出現した。同じく、グチャっという音。再度箱を出現させ右手に構える。

 フェリを見ると、傍らに刀を持ったさっきの男が倒れていた。着物の侍風だ。首が離れている。

 俺が人を殺した。あっさりと。殺した実感が無い。

 ただ、俺の周りに二人分の、畳まれた洋服や皮や臓器など、キレイに仕分けされた人間の解体物が転がっている。

 前の男がいた床には、大きい首輪と鎧やショートソードが、後ろから襲ってきたやつの方には、魔法使いの帽子やローブが見えた。


「トモ」


 唯がこちらに走ってきた。首輪は付いている。何かの条件で行動が解除されたか?後ろの魔法使いか?こいつが唯に呪いをかけていたか?


「ママっ!だいじょうぶ」


 フェリも唯の方に向かう。


 俺は、周りを警戒する。マルスともう一人いるはずだ。やつはおそらく銃を使う。中遠距離に特化したスキルか武器を持っている。


 なぜさっきの攻撃のスキを狙われなかったのか。

 この襲ってきた3人、フェリが感じた「みんなつよい」っていう感じがしなかった。俺が強くなったのか、あり得ないな。



「チッ、使えねえな」


 マルスの声が聞こえた気がした。とっさに後ろを振り向く。


ドドドドドドドドドドドドッ


右手に担いだ箱で身を防ぐ。

「マシンガンかっ!」


 けたたましい爆音が響く。連発で撃たれるマシンガンの攻撃を防ぐ。

 箱を構え弾を防ぎながら、フェリと唯の方を見る。向こうにこの攻撃は行っていないようだ。俺だけを狙っている?


「パパ、よけてっ!」


 残っていたもう一人か、どこだっ!? 


 フェリの声と反対側を向き、コイングローブを着けた左手を掲げる。


 右足のふくらはぎに剣が刺さった。


「ッ!」


 刺さった剣をとっさに左手で掴む。コインマジック発動。

 コイングローブが右手に移動し装着され、箱の手出し穴に右手の指を入れて箱を所持している結果、掴んだ剣が右手で持っている箱の中に入る。


 だが、コインマジックで剣が移動する直前の一瞬、俺が見たものは、信じられないことにフェリだった。

 中から箱が揺れる。アシスタントにしかできない芸当だ。


「トモ」


 唯が近づいてくる。

 待て、唯の話し方がいつもと違う。  いつもあんなに抑揚だらけでしゃべるの唯が、無表情の片言で話すわけがない。

 左手には、唯が付けているのと同じ、大きな首輪を持っている。


まさかっ。


 マルスの銃撃は止んでいる。弾が切れたのか、スキルのクルータイムなのか。


 銃撃を警戒しながら、揺れる箱を構え、唯から離れて、コンテナの影に隠れる。


「トモ」



 マルスのスキルか武器の銃は、いまは直線的だった。誘導弾みたいなのは撃ってない。

 あとは、おそらく桜井くんを殺した、レーザービームがある。


 現場組の哀川さんを思い出した。レーザー照射のスキル。測量用レーザーだったので、レーザー自体にパワーはなかったが、あれの強力版だろう。相当なパワーだ。そんなに連発はできないのかもしれない。


 その前に、確認をしなければいけないことがある。フェリの状況だ。

「ったく、こんな場合に使うためじゃ無かったのにっ!」


 俺は、フェリに渡した鋼鉄のスプーン指輪を発動させ、おそらく箱の中にいるだろうフェリに手枷をした。


 最悪、フェリが拘束されたりした場合、武器として、身を護る小さな盾として変形させる予定だった。

 こんな拘束するために使う羽目になるなんて。


 箱と距離を取り、マジックボックスを解除した。



「パパこうげきじだぐないっ!」



 フェリは涙を流し、手枷をされた状態で、俺に向かってきた。殺意を持って。



 首には、大きな首輪が嵌められていた。


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