6、世界救済会
唯が連れ去られた。
「お前っ!その手を離さないかっ!」
俺は、女騎士に支えられていた何かを知っているであろう女性を掴んでいた。女騎士に怒鳴られていた。
「っ!済まないっ。だがっ!何かっ、唯のことを知っているならっ」
「‥‥この女性は、死者の身内だ。今は話せる状態ではないことは、わかるだろう。後日にするがいい」
後日ってなんだよっ!!唯を連れ去られているんだぞっ!!
「‥‥待ってください‥‥。大丈夫です‥‥。この方には‥‥伝えさせて下さい、お願いします。‥‥トモ様ですね。」
女性は、気丈に女騎士と俺の顔を交互に見てから、辛かったであろう出来事を話してくれた。
女性はハスミさん。高橋くんの婚約者で、バリテンダー城で高橋くんのメイドをしていたそうだ。俺のことも知っていた。
唯は、高橋くんと桜井くん、ハスミさんと食事をしたあと、みんなでここに向かっていた時、大男にハスミさんが囚われ、人質交換を提案されたらしい。
■
私は恐怖で声も出せなかったんです。そしたら、唯様がこっちに近づいて、
「大丈夫。ゴメンねっ!アイツの目的はアタシみたいだから。ハスミちゃんは、シンジ達と一緒に離れててねっ。
ちょっと、アタシが目的ならば、もうこの娘はいいでしょ。解放してあげて」
「ハッ!言うじゃねえか、いい女だ。そっちはハスミって言うのか。チッ、まぁ解放してもいいんだが、解放しなくても困らねえんだが?」
「アンタ、クズねっ。女にモテナイでしょ?頭もおかしいわね。医者に見てもらいなさいよ」
「アッハッハ。おもしれー女だな。いいぜ、解放してやるがその前に、これをお前が嵌めろ。そしたら、コイツは解放してやるよ」
大男は、首輪を唯様に投げました。唯様はそれを拾い、自分の首に繋げました。
「わかったわ。
これでいいでしょ。ハスミちゃんを解放してあげて」
大男の顔が、ニヤッとしたのを覚えてます。
その後、シンジ様が、
「てめぇ!!この野郎。ハスミと唯を離しやがれっ!!」
「アァ、うっせぇな。誰だテメェ」
「シンジっ、ダメ。離れて。今は勝てない」
「へぇ。後でなら勝てるってか。ハッ、ホントおもしれーこと言う女だ、気に入ったぜ」
その後、桜井様が魔法を、
「‥‥‥に従い彼の者を搦めたまへ!
『ダークバインドっ!』
今のうちに、ハスミちゃん、彩芽ちゃん、離れてっ!」
桜井様の魔法で動きが止まった隙を見て、私は大男から離れることができました。
しかし、唯様は動かず、
「ハッ!足止め程度か?」
大男は、魔法を引きちぎり、唯様のお腹を殴って、
「うっ!!」
そのまま、倒れて、
「ハッ!メンドクセ」
お、男の方から光と、爆発音が、
バタッ
「サクっ?」
さ桜井様が
「てめ
シンジ、様が‥‥‥‥‥‥
いやあぁぁぁぁ‥‥‥‥
■
「済まない」
「‥‥‥‥」
ありがとうとは、言えなかった。済まない。ハスミさん。
「お願いします」
「うむ」
女騎士にお礼を言い、ハスミさんをお願いして、歯を食いしばる。
クソっ!唯はどこに。相手は誰だ?何か手は。
現場の事後処理が終わり、散っていく野次馬の中から、「あいつマルスだろ。またやりやがったな」「あの女の子、ドラゴンスレイヤーだよっ。花岡亭で話していたのを聞いたからっ」と二人組の会話が聞こえた。
辺りを見回す。声からすると男女だ。近くには居ない。マルス、何者だ?クソっ、情報と時間が少ない。
「パパ。ママの匂い、わかった」
「キュー!」
「フェリ、ホントか!?」
「うん。こっち」
どうする。このまま3人で行くか?もうすぐ暗刻だ。通信機は持っていない。ハスミさんは別人と間違えられ巻き込まれた。ねねたちに報告が必要だ。
しまった、こんなことなら先にスプーンの指輪を渡しておけばよかった。火山の遭難時に潰してしまって、二人に替えを渡していない。
ハスミさんから聞いたこと、唯を救出に向かうことを手紙にしたためる。
「ハク。お前は、この手紙を持って、ねねに渡してくれ。この時間ならば昨日の宿にいるはずだ。
俺とフェリはその大男を追う。お前は、みんなを守ってくれるか?
いいか、ハクにしか出来ないことだ。みんなを守れ。お前が長男だ。」
「キュウっ!」
ハクが空に飛び立った。これで向こうは、警戒と準備ができるだろう。
「フェリ、行こう」
「うん」
唯、無事でいてくれ。
■
「兄貴ぃ、この女どうにかならないんっスかね?」
アタシは、このタバスという男に操られている。おそらく、この首輪がそういった効果を持っているのだと思う。
頭の中はハッキリしているが、さっきは出せた声が今は出せない。
目を覚ましてから、男達に犯されそうになった。動けないアタシにコイツが迫ってきた。
嫌だっ!そして、悔しかった。何もできないままこれから犯される自分が。それをトモに知られるのが。
体を触られ、服を脱がされそうになったとき、アタシのスキルがレベルアップした。
アタシが危害を加えられた時に、ガードウーマンが発動する。そして、相手はアタシと少しの距離を取る。これもスキルの効果のようだ。
体は一瞬触られるけど、服を含めて鉄のように固まっているので脱がされることはない。
ホッとしたし、このスキルに感謝した。ただ、襲われる心配がなくなっただけ。この状況を打開できるほどのものでもない。
「ヤリてえなら、テメェでなんとかしな」
「これなら元聖女側の方が良かったッス」
「はっ!俺達はこの女の足を止めときゃいいんだよ」
アタシが目的じゃなかったのっ!?
ねねちゃんが狙われてるっ?
トモっ
★
「ふぅ、国が違うとしきたりも考え方も全然違うのね」
「そうねぇ。その国の国益を占める産業や王、国民の思想で、進む方向も異なるでしょうからネっ♪」
ねねは、この国に来る前、アルバード王から別に任務を受けていた。
それは、『悠久の翼』追放の真相と、ファビオラ王子との接触である。
1年前にアルスタールから追放された悠久の翼だが、王子とトラヴィスが何かを察知して国外に避難させたのではないかと言うのが王や、セシルバンクル様の見解らしい。
ねねは、先程まで会っていた、アルスタール王国の政務官で、セシリア王国の内通者、いわゆるスパイとの資料に目を通していた。
事前にセシリア王国内でも準備はしてきたのだが、過去に送られていた資料と昨日の話の内容では、想像していた以上に、要点の異なる箇所が多かった。
政務官からは、約1年前から有力な貴族達の不審な動きが目に余るようになってきていること。そこには、王に対する反発も含まれている。
国内で最近、悠久の翼に変わって、「世界救済会」なる集団が誕生し、勢力を拡大していることなど伝えられた。
この資料には、反発する貴族の一覧や、世界救済会の概要などが記載されている。
王との謁見の中で、この件はどこまで詰めていいのかを訪ねた所、他の貴族がいなければ多少の粗相などを気にする王では無いとは言われたが、こちらも仮にも使節団としての表敬訪問を承っている。
あまり大事にはするなと言うことだろう。
「はぁ~、ため息ばかり出るわね。このひねりも無い名称。完全に怪しい宗教じゃない。もぅ、お休みどころじゃないわ」
「あらっ?お休みっていう名目は、トモくんに対するアピールでしょ♪お仕事好きのねねちゃん♪」
「あ~まあね。でも、ファビオラ王子だけは、トモに会わせたくないな。なんか嫌な予感がするのよね」
もう一度、資料に目を通しておくかそう思ったその時、ハクを抱いたタミィが慌てて部屋に入ってきた。
「ねね様ぁ、ハクちゃんがこれをっ!」
タミィの手には手紙と指輪が3つ握られている。
急いで手紙の内容を読む。
「別行動中の唯が、首輪をつけられ攫われた。マルスという男を調べてくれ。光と音を撃つ。ねねたちも狙われている可能性がある。俺たちは唯を追う。そっちは頼む」
書き殴ったような文字だった。相当余裕の無かったのだろう状況が思い浮かぶ。
首輪か。おそらく魔導具ね。防御に特化した無敵の唯が、そう簡単に連れ去られるわけがない。呪いか拘束か。スキルを封じられていたら唯だって、かなわない敵もいるだろう。
マルス、光と音を撃つ。思い浮かぶのは光線銃。レーザーみたいな兵器。
そんなスキルや武器があったら、誰もかなうわけがない。
ネルミルが異変を察知する。
「ねね、この宿に近づく集団があります。おそらく10分ほどで。人数は100人ほど」
もうすぐ暗刻。闇に乗じて襲ってくる気か。
謁見前日のこんなタイミング。私達と王様をどうしても会わせたくない無いってことね。
そっちは頼むか。私だって王子様に助けられるお姫様が良かったな。でも、私の事を頼ってくれてるんだよねトモ。
ここにハクが居るから奇襲が使える。これを見越してハクを寄越した訳ね?
「ネルミル、タミィ。他の宿泊客に迷惑はかけられないわ。打って出ましょう。やるわよ」
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