5、アタシ思いの悪友
どこだろ、ここ。暗いところ。アタシは、目を覚ました。どうもベッドか何かに寝かされているみたい。
首に何か付いている?感覚、感触はあるのに、体が動かない。毒とか薬を飲まされた?
お腹が少し痛むけど、他にケガは無いみたい。腰のバックラーと荷物が無い。
「どこ、ここっ?」
声は出た。頭がズキンとした。
「兄貴っ、女が目を覚ましたみたいッス」
誰?聞いたことのない声。
「はっ!ようやく起きたか。お前だろ?女勇者でドラゴンスレイヤー」
この声っ!
思い出したっ!
■
「マジで唯が生きてるとは思わなかったわ〜!」
「ちょっとっ!ひどくないっ!?アタシだって大変だったんだよっ!!」
シンジと再開して、今はサクちゃん達がいる酒場に向かって歩いている。
「そうか‥‥。ゴンさん達は、お前を守ったんだな‥‥」
シンジに、あのときの、みんなの話をしながら歩いた。あのときの事を思い出すのは、今も少し辛い。
だけど、トモとフェリとの日常が、少しづつだけど、怖かったあの頃を、過去のものにしてくれている。
「着いたぜ、ここだわ。おーい、サク〜、ハスミ〜。唯が居たぜっ!」
「シンジおかえり、って唯?
わーっ!彩芽ちゃんだ!良かった、生きてたんだねっ!!良かった〜、本当に、よかった、本当に」
「唯様‥‥‥ホント、お久しぶりでございます。バリテンダー城でシンジ様のメイドをしていたハスミです。本当に、よくご無事でっ!」
「サクちゃんも〜〜!!生きててよかった〜〜!!
え〜〜〜っ!!ハスミさんっ!?シンジ達と一緒に居るのっ!?」
酒場に着いて、顔を見たとき、すぐわかった。サクちゃん、変わってない。少し涙がでた。
もっと驚いたのは、シンジの専属メイドだったハスミさん。シンジは初日でハスミさんに手を出して、次の日早速みんなに「コイツはハスミ。俺の嫁にした」って紹介してたからアタシも覚えてる。
〜
「ハスミさん、ホントにシンジでいいのっ!?バカでうるさいから苦労するよっ?」
「唯、てめぇ!一言うっさいんだよっ!俺はこの世界でビッグな勇者になるんだよっ!」
「唯様、ありがとうございます。でもシンジ様は、没落貴族の娘である、こんなわたしを見初めて頂けました。そして、一生幸せにするって‥‥」
「かぁー、若え若え。でも、所帯持つってのは立派だぜっ!しっかり幸せにしてやれよ。
ハスミさん、見た目はチャラ男だが、シンジは芯がしっかりした男だ。しっかり幸せにしてもらえよ」
「ゴンさん‥‥チャラ男は酷くない?ちょっと、みんなも、笑うなよなっ!」
〜
「本当に懐かしいです、唯様。他の皆様は、やはり‥‥」
「‥‥うん。天国で、見守ってくれてると思う‥‥うんっ!しっかり生きろよって言ってくれてるっ!」
「そう‥‥なんだよね‥‥。僕たちも、聞いてはいたんだ。‥‥でも、1年経ってもまだ信じられなくて‥‥。彩芽ちゃんと、三矢さん以外は、」
「チクショー、メソメソすんなよなっ!とりあえずなんか飲もうぜっ!唯も酒飲めるだろ?」
シンジとサクちゃん、ハスミさんと、今までの話ですごーく盛り上がった。シンジったら、王様との謁見でハスミさんをくれって言ったんだって!!
サクちゃんがその時の事を思い出して呆れながら、ハスミさんは赤くなりながら、シンジは「ハスミは俺の嫁だからなっ」ってハスミさんの肩を抱きながら自信満々に話してるのを見て、「あ~なんかいいな~」って声が出ちゃった。
「あれっあれっ?彩芽ちゃんはフリーなのっ?僕の嫁さんになる?」
ってサクちゃんがイジってきた。
「お前は、絶賛振られ放題だろうがっ。唯は俺のハーレムに入れてやるよっ!いいだろ、ハスミ?」
「はいっ!唯様と一緒ならば、楽しそうです」
「フフッ、はいっ!どっちも却下ねっ!今はアタシも、娘と息子もできて幸せなんだよね〜っ!」
「何っ〜!?唯、結婚したのかっ!?誰とよっ!?んでっ娘と息子っ!?あのおっさんかっ!?」
シンジ、おっさんとはなによっ!まぁ~おっさんか。
「そうだよっ!あっ結婚はまただけどね。現在進行形でアタシがトモに猛アタック中っ!あと一緒にいたでしょ、可愛い猫の女の子がっ」
「トモって、三矢さんかな?はぁ、また失恋か。僕のお嫁さんは一体どこにいる?」
「お前が好きになる女って、ほとんどが既婚者だからな、難易度落とせよ。んで唯、人間からネコ娘は生まれないぜ。頭冷やせば?」
なんだか久しぶりに会ったのに、そんな感じを抱かせない2人の気持ちに感謝してる。
今は3人で冒険者として、この街を拠点に頑張っているらしい。シたジはだいぶお金も貯まって、今年中には盛大に結婚式をやるって息巻いてた。
ハスミさん、違った、ハスミちゃんも、一緒に魔物を退治しているんだって。最近は1人で解体も出来るようになったって喜んでた。
サクちゃんは、だいぶ酔ったらしく「僕が既婚者を狙ってるんじゃない!既婚者が僕を狙ってるんだ!」とか、「でも、寝取りも寝取られも興味は無いんだあああ」とか、意味のわからないことを叫んでいた。
アタシも気分が上がっちゃって、「実はドラゴンスレイヤーになったんだっ、成り行きでっ」って言ったら、周りの他のお客さん含めて大騒ぎになっちゃって。結構、アタシって有名だったらしい。
シンジは、「マジかよっ!!ファンタジーじゃんっ!!」って盛り上がっていた。
3人でドラゴンスレイヤーを目指す事になったみたい。コツを聞かれたけど、コツなんか無いしね。
トモが鳩にしちゃっただけだからね。
時間はあっという間に過ぎた。今はみんなでトモのところに向かって歩いてる。
サクちゃんも「俺も会って、彩芽ちゃんをお願いしますって言っておきたいわっ」って、みんなで送ってくれることになった。
ハスミちゃんと話しながら歩いていたら、真剣な顔をした二人がアタシにこう切り出した。
「唯、何かあったら俺たちを頼れよ。三矢さんも悪い人じゃないのは話でわかったから、心配はしてない。
でも、こんな世界だ。いつ何があるか分からねえ。
その時は、俺たちの所に来いよ。ハーレムに入れてやるから」
「おいっ、ハーレムの話は要らないだろうが。
彩芽ちゃん、僕たちは同郷の、そして日本で同じ仕事に関わっていた仲間だ。妹だと思ってる。必ず幸せを掴んで、また報告しあおうよ。必ず」
二人とも、ホントにおせっかいやきだなぁ。
「ありがとっ!二人ともっ、アタシは幸せだよっ!こんなアタシ想いの悪友もいるしねっ!」
3人で大笑いした。異世界に来ちゃったけど、ここに来る前からアタシを知って、今でも心配してくれる人がいる。すごく幸せで、すごく頼もしかった。
もうそろそろトモと別れた場所かなっと思っていた時、ハスミちゃんが近くに居ないことに気がついた。
「あれっ?ハスミちゃんは?」
「シンジっ!前っ!」
「てめぇ!!ハスミを、離しやがれっ!!」
正面から大きな男が、涙目のハスミちゃんの肩に手を回しながら歩いてきた。
「はっ!いい女じゃねえかっ!
お前が、ドラゴンスレイヤーか?」
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