5、アタシ思いの悪友

 どこだろ、ここ。暗いところ。アタシは、目を覚ました。どうもベッドか何かに寝かされているみたい。

 首に何か付いている?感覚、感触はあるのに、体が動かない。毒とか薬を飲まされた?


 お腹が少し痛むけど、他にケガは無いみたい。腰のバックラーと荷物が無い。


「どこ、ここっ?」 

 声は出た。頭がズキンとした。



「兄貴っ、女が目を覚ましたみたいッス」

 誰?聞いたことのない声。



「はっ!ようやく起きたか。お前だろ?女勇者でドラゴンスレイヤー」



この声っ!

思い出したっ!




「マジで唯が生きてるとは思わなかったわ〜!」

「ちょっとっ!ひどくないっ!?アタシだって大変だったんだよっ!!」


 シンジと再開して、今はサクちゃん達がいる酒場に向かって歩いている。


「そうか‥‥。ゴンさん達は、お前を守ったんだな‥‥」


 シンジに、あのときの、みんなの話をしながら歩いた。あのときの事を思い出すのは、今も少し辛い。

 だけど、トモとフェリとの日常が、少しづつだけど、怖かったあの頃を、過去のものにしてくれている。



「着いたぜ、ここだわ。おーい、サク〜、ハスミ〜。唯が居たぜっ!」


「シンジおかえり、って唯?

 わーっ!彩芽ちゃんだ!良かった、生きてたんだねっ!!良かった〜、本当に、よかった、本当に」


「唯様‥‥‥ホント、お久しぶりでございます。バリテンダー城でシンジ様のメイドをしていたハスミです。本当に、よくご無事でっ!」


「サクちゃんも〜〜!!生きててよかった〜〜!!

え〜〜〜っ!!ハスミさんっ!?シンジ達と一緒に居るのっ!?」



 酒場に着いて、顔を見たとき、すぐわかった。サクちゃん、変わってない。少し涙がでた。

 もっと驚いたのは、シンジの専属メイドだったハスミさん。シンジは初日でハスミさんに手を出して、次の日早速みんなに「コイツはハスミ。俺の嫁にした」って紹介してたからアタシも覚えてる。





「ハスミさん、ホントにシンジでいいのっ!?バカでうるさいから苦労するよっ?」


「唯、てめぇ!一言うっさいんだよっ!俺はこの世界でビッグな勇者になるんだよっ!」


「唯様、ありがとうございます。でもシンジ様は、没落貴族の娘である、こんなわたしを見初めて頂けました。そして、一生幸せにするって‥‥」


「かぁー、若え若え。でも、所帯持つってのは立派だぜっ!しっかり幸せにしてやれよ。

 ハスミさん、見た目はチャラ男だが、シンジは芯がしっかりした男だ。しっかり幸せにしてもらえよ」


「ゴンさん‥‥チャラ男は酷くない?ちょっと、みんなも、笑うなよなっ!」





「本当に懐かしいです、唯様。他の皆様は、やはり‥‥」


「‥‥うん。天国で、見守ってくれてると思う‥‥うんっ!しっかり生きろよって言ってくれてるっ!」


「そう‥‥なんだよね‥‥。僕たちも、聞いてはいたんだ。‥‥でも、1年経ってもまだ信じられなくて‥‥。彩芽ちゃんと、三矢さん以外は、」


「チクショー、メソメソすんなよなっ!とりあえずなんか飲もうぜっ!唯も酒飲めるだろ?」



 シンジとサクちゃん、ハスミさんと、今までの話ですごーく盛り上がった。シンジったら、王様との謁見でハスミさんをくれって言ったんだって!!


 サクちゃんがその時の事を思い出して呆れながら、ハスミさんは赤くなりながら、シンジは「ハスミは俺の嫁だからなっ」ってハスミさんの肩を抱きながら自信満々に話してるのを見て、「あ~なんかいいな~」って声が出ちゃった。


「あれっあれっ?彩芽ちゃんはフリーなのっ?僕の嫁さんになる?」

ってサクちゃんがイジってきた。


「お前は、絶賛振られ放題だろうがっ。唯は俺のハーレムに入れてやるよっ!いいだろ、ハスミ?」


「はいっ!唯様と一緒ならば、楽しそうです」


「フフッ、はいっ!どっちも却下ねっ!今はアタシも、娘と息子もできて幸せなんだよね〜っ!」


「何っ〜!?唯、結婚したのかっ!?誰とよっ!?んでっ娘と息子っ!?あのおっさんかっ!?」

 シンジ、おっさんとはなによっ!まぁ~おっさんか。


「そうだよっ!あっ結婚はまただけどね。現在進行形でアタシがトモに猛アタック中っ!あと一緒にいたでしょ、可愛い猫の女の子がっ」


「トモって、三矢さんかな?はぁ、また失恋か。僕のお嫁さんは一体どこにいる?」


「お前が好きになる女って、ほとんどが既婚者だからな、難易度落とせよ。んで唯、人間からネコ娘は生まれないぜ。頭冷やせば?」



 なんだか久しぶりに会ったのに、そんな感じを抱かせない2人の気持ちに感謝してる。


 

 今は3人で冒険者として、この街を拠点に頑張っているらしい。シたジはだいぶお金も貯まって、今年中には盛大に結婚式をやるって息巻いてた。


 ハスミさん、違った、ハスミちゃんも、一緒に魔物を退治しているんだって。最近は1人で解体も出来るようになったって喜んでた。


 サクちゃんは、だいぶ酔ったらしく「僕が既婚者を狙ってるんじゃない!既婚者が僕を狙ってるんだ!」とか、「でも、寝取りも寝取られも興味は無いんだあああ」とか、意味のわからないことを叫んでいた。


 アタシも気分が上がっちゃって、「実はドラゴンスレイヤーになったんだっ、成り行きでっ」って言ったら、周りの他のお客さん含めて大騒ぎになっちゃって。結構、アタシって有名だったらしい。


 シンジは、「マジかよっ!!ファンタジーじゃんっ!!」って盛り上がっていた。



 3人でドラゴンスレイヤーを目指す事になったみたい。コツを聞かれたけど、コツなんか無いしね。

 トモが鳩にしちゃっただけだからね。



 時間はあっという間に過ぎた。今はみんなでトモのところに向かって歩いてる。


 サクちゃんも「俺も会って、彩芽ちゃんをお願いしますって言っておきたいわっ」って、みんなで送ってくれることになった。



 ハスミちゃんと話しながら歩いていたら、真剣な顔をした二人がアタシにこう切り出した。


「唯、何かあったら俺たちを頼れよ。三矢さんも悪い人じゃないのは話でわかったから、心配はしてない。

 でも、こんな世界だ。いつ何があるか分からねえ。

 その時は、俺たちの所に来いよ。ハーレムに入れてやるから」


「おいっ、ハーレムの話は要らないだろうが。

 彩芽ちゃん、僕たちは同郷の、そして日本で同じ仕事に関わっていた仲間だ。妹だと思ってる。必ず幸せを掴んで、また報告しあおうよ。必ず」



 二人とも、ホントにおせっかいやきだなぁ。


「ありがとっ!二人ともっ、アタシは幸せだよっ!こんなアタシ想いの悪友もいるしねっ!」


 3人で大笑いした。異世界に来ちゃったけど、ここに来る前からアタシを知って、今でも心配してくれる人がいる。すごく幸せで、すごく頼もしかった。



 もうそろそろトモと別れた場所かなっと思っていた時、ハスミちゃんが近くに居ないことに気がついた。



「あれっ?ハスミちゃんは?」


「シンジっ!前っ!」



「てめぇ!!ハスミを、離しやがれっ!!」





 正面から大きな男が、涙目のハスミちゃんの肩に手を回しながら歩いてきた。





「はっ!いい女じゃねえかっ!

お前が、ドラゴンスレイヤーか?」

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