第18話 完璧な鬼の絵図

 トラヴィスとメリッサさん、それとセシリア王国のお偉いさん達が、アルスタール王国へ、ファビオラ王子とのケジメに出発して、はや3日。



 俺たちは、セシリア国王との謁見の場にいた。


 メンバーは、俺、フェリ、唯、タミィと、ねねとネルミルさんだ。


 この場所は2回目だが、全くいい思い出がない。

 市民からの信頼は厚い革新派だが、投げっぱなしジャーマンの笑い王と、ネチネチネチネチ根暗な賢者。それを上手くまとめ、あしらう優秀な大臣。


 う~ん、上手いこと適任の役割なのが憎らしい。


 今日のねねは、前回の獰猛期と打って変わって穏やかだった。TPOをわきまえていらっしゃる。

 と思いきや、首がこちらにギギギギッと音を立ててロボのように回転し、ギギギギッと正面に戻った。


 ロボネッネだったのだろう。一瞬だが、こちらを向いた時の表情だけ、The perfect ogre(TPO)完璧な鬼と化していた。テヘペロお姉さん(TPO)では無かった。



「待たせたな」


 アルバード・セシリア国王が裏口より部屋に入ってくる。前回体験済みなのでツッコまない。



「みな楽にして良いぞ。大臣、事の報告を」


 ハンズさんが今回の経緯、ドラゴン討伐から、アルスタール王国との水面下やり取り報告を読み上げていく。



「うむ。すでに聞いていた内容だな。お前の事だ。新たな追加項目があるかと思っていたけどな、アッハッハッハッ」

 無いよ。このアル中は、この一般人に何を期待してんるんだ。


 「ねね、ネルミル、タミィも良くやった。タミィは復帰後初任務と聞いている。ローズムーンの頭首も鼻が高いことだろう」


「ありがとうございます」


「して、今回の報酬は、そのドラゴンで良いということだな」

話が早くて助かる。ハクを呼び出す。


「キュュュュゥゥ!」

「はく、よかったね。もうずっといっしょ」

「キュウッ!」

 

 フェリの周りを飛び回るハク。ようやく遠回りはしたが、目的が達成出来たわ。



「不思議な存在‥‥。貴女もそうだけど、このドラゴンはドラゴンでは無いようにも見えてしまう。魔力も不思議な状態を保ってるのね。

 アルビノなのね。そう、母親が居ないのね。そう、今は、幸せなのね」

 

 こらっ!またフェリが魔女の黒猫みたいに尻尾がブルブルしてるから!いきなり現れるなよセシルバンクル。

そして、ハクと普通に意思疎通できるのね。


「賢者様、前回も言いましたけど、いきなり現れると、フェリが怯えるのでやめてもらえます?」

「?。前回。私。聞いてた?」

「聞いてましたよね?」

「聞いてたな、アッハッハッハ」

「?」


 ほらっ、アル中も聞いてるよ。


「それで。このドラゴンは。どういう種族?本人も。知らないそうよ」

は?ドラゴンが種族じゃないの?俺がスキルで小さくしちゃったからか?

「じゃあ、鳩ですね」

「ジャアハトなのね」


「すみません。俺が悪かったです。

『鳩』ですね」

「ハト」

「俺らの世界では、平和の象徴でしたね」


 セシルバンクルは、なるほどハトね‥‥と言いながら、アル中の隣に移動した。鳩、知ってんのかな?



「では、俺からの賜物とし、その娘の従魔とせよ。これでよいだろう。アッハッハッハ」


「ハッ、ありがたき幸せ」


 ふぅ、なんとかミッションコンプリートだな。



「では他の者も申せ。俺の出来る限りは叶えてやろう」


 おーっ。今回のアル中、太っ腹じゃね?アル中なんて心のなかで言っててすみません。アルバード様、あんた王様や!


 アルバードの問いに対し、ねねが発言した。


「アルバード様、私はしばらくの間、宮廷治癒師の役目をお休みさせていただきたく存じます。

 可能であれば、このトモの下でさらに技術を磨き、王国に恩返しが出来ればと」



はぁっ?



「なるほど。良いだろう。そなたには聖女の利権争いに巻き込んでしまった借りがあったからな。良かろう。ネルミルも護衛として同行させよう」



はいっ?


 えっ?ネルミルさんも何、えっ、了承してんの?



「ワタシも、まだ体が本調子では無いので、宮廷魔道士の役目をもう少しお休みさせていただき、アルスタール王国の『温泉』で湯治をしたいのですが、よろしいでしょうか」



ほう、アルスタールには温泉があるのか。



「ア、アタシも温泉にき、興味があるので、そこにみんなで行きたいなと思います」




‥‥‥やられた。



「ふむ、娘はどうだ?」


「フェリは、おいしいものパパとママとはくとたべたい」


「ふむ。大臣、どこか知っているか?」


「そうですな。話の出ているアルスタール王国には、温泉の他にも、肉料理が豊富らしいですな。地竜の肉は絶品との事です」


「なら、そこでいい。はくもいいって」

「キュイッ!」



‥‥アル中と東急もグルだ、これ。



「休暇とは言え、我が国に仕える治癒師と魔道士がアルスタールへ訪れますゆえ。

 ファビオラ王子での、王個人同士の貸し借りも良くないでしょう。王城へ表敬訪問という形でも良いのでは」



「なるほど」



 何が、なるほどだよ。異議ありだよ。誰だ、この絵図を描いてるのは?



「わかりました。セシリア王国の使節団としての訪問、我が国の名に恥じぬよう表敬して参ります」



 首がこちらにギギギギッと音を立てて‥‥それ、さっき見たね。

 


 目の錯覚かな?ねねさん、ツノ生えてない?





はい。次章から温泉回のスタートですってばよ。





〜 1章 完 〜

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