第17話 人体実験スタート

 今回は、結果から行こう。



ハク、カモン!


「キュイイイイーン!!」

 パチンコのパトライト音みたいな登場ありがとう。


「はくー!!おめでとうー!!」

「ハクちゃん、良かったですぅ!」

「キュゥン!」



 ネルミルさんのアシストと、タミィの呪い拘束によって、なんとか鬼と化したねねを振り切り、悠久の翼の根城ヘ。

 メリッサさんに説明をし、メリッサさんへの協力とトラヴィスへの脅迫でOKが出たので、それで進めることとなりました。


「じゃ、フェリ、顔の扉を開けて」

「んっ」

 扉は俺は開け閉め出来ないので、アシスタントのフェリの仕事です。


「パタッ」「てめぇっ!本当にっ「バタンッ!」


「パパ、うるさいからしめた」

よくできた娘だ。コミカルマジックショーで食っていけそうだ。


「パタッ」「て、いや〜、メリッサ、随分と久しぶりだが、また可愛いくな「バタンッ!」


「閉まっててもこっちの声は旦那に聞こえてるって言ってたっけ?全く、数ヶ月会わなかったけど、血色も肌の艶もいいし、だいぶ肥えたね。こっちはこっちで気苦労している間にブクブク育ちやがってっ!」

 だいぶご立腹です。ご愁傷さま。


「この箱は、どのくらいこのままにしておけるんだい?」

「試したこと無いんですが、感覚的には、俺が消さない限り死ぬまで永遠にこのままも可能かと」

 普通ならこんなことしないしね。まぁ色々実験出来るチャンスと考えよう。



 箱を解除すればトラヴィスは自由になれる。真ん中の箱をスライドしてから解除すれば、キレイに解体される。解除さえしなければ、戻せば無傷で元にに戻る。


 メリッサさんの許可を得て、人体切断マジックショーの始まり始まり〜!



 体の部分をスライドさせてっと、

「パタッ」「おいっ!!!俺の体が途中で消え「バタンッ!」

 フェリの蓋閉めのタイミングがプロ並み!

 スライドを元に戻す。


「パタッ」「ちょっ、待てよ「バタンッ!」

 まさかっ!月9が異世界で再現されるとはっ!!


「箱の中での飲み食いはどうしているんだい?」

 メリッサさんが、みんなの昼食を用意してくれた。ありがたくいただくことにする。

 メリッサさんに、元々持っていたものは中で食べたり飲んだり出来る話をする。

 

 「パタッ」「‥‥なぁ、俺は何も持ってきてないんだが」

 とりあえず、無言で開けた蓋からパンを渡してみる。が、残念ながら俺の手が箱の境目でパンごと消える。手を引くと、パンごと戻ってきた。


「横にある剣を刺す穴もそうなんですが、箱の中は異空間なので、見えたり話したりは出来ても、物を渡したり、武器で刺したりは出来ないですね。

 おそらく、魔法とかの攻撃も無理かと思います。まぁトラヴィスさんは、それ以前に無効化しますけどね」

 

 半分理解していたけど、手品でも顔はあんまり触っていたのを見たことがない。

 ただ、手穴だけは、出した手でハンカチをヒラヒラさせているのを見たことがある。そう言えば、地底湖で水が触れたのを思い出した。


「トラヴィスさん、手元に穴があるんですけど、手首辺りまで出してもらっても良いですか?」


「‥‥‥これでい「バタンッ!」

 フェリ、非道な仕打ちだ。

 

 とりあえず、出ている手にパンを握らせる。あっ、パンと手が箱に入った。これは行けそうだ。


「パタッ」「パンが手に入ったが、箱が狭すぎて口に持っていけねえんだが」

 そういえば、余裕のある最大サイズではなくて、トラヴィスジャストサイズで箱を発動してしまったことに、気が付いたところでどうしょうもない。

しょうがないので、顔窓を開けたまま体の部分をスライドしてみる。


 もう、トラヴィスさんもツッコまない。そんなんじゃ芸人失格ですよ。

フェリに体、足の蓋も開けてもらう。



「はぁー、不思議な光景だね〜。これで生きてるもんなのかね」

 体だけズレているがトラヴィスさんは、なんともない。変わったといえば、ムスッとした表情が悪化したぐらいだろう。


 とりあえず気持ち悪いので、顔以外の蓋は閉めてもらった。



「フェリ、あきたよパパ」

 うん、ごめんな。わかるよ。ツッコミの無いボケほど、虚しいものはないよね。

 

 フェリには、後日の夕食をローストビーフにすることで手を打ってもらった。



「なぁ、ウ○コしたいんだが」


 あれから2時間。進捗無く、フェリは酒場で悠久の翼のメンバーとナイフ投げダーツで遊んでいる。メリッサさんは、用事があり出かけているので、 トラヴィス箱近辺は俺1人だ。


「嫌だけど、そこで出すしかないんじゃない?」


「マジかっ‥‥」


 きっと臭いは籠もるよな。唯ねねの時は、いい匂いが充満してたもんな。

箱を消せば、物体は消滅するんだけど、パンツの付属品扱いで消えないか。なぜ、こんなロリコンオッサンのウ○コの事を真剣に考えなきゃいけないのか。


「諦めは肝心です。放出しなさい。アーメン」

「おいっ、なんとかしてくれよっ!この年で脱糞かよっ、クソっ!」

 

 上手いこと言っても、ボーナスポイントは付きません。付くのはウ○コだけ。



 さらに2時間。フェリは酒場のお姉さんの膝の上で寝息を立てている。

 俺もそっちがいいわ。なぜ、オッサンのウ○コの臭いにむせる嗚咽音を聞いてなきゃいけないんだか。



 さらに2時間。メリッサさんが帰ってきた。俺に顔だけ見せ、「どうだい?」と尋ねてくる。「臭そうです」と返事をした。


 時々、手穴から手が出て来る。換気したいのだろう。残念ながら臭いは漏れない。なんとも高性能な人体切断ボックスである。



「今日は泊まっていきな」と言われたので、お言葉に甘えて夕食とお風呂をいただいた。

 フェリは、悠久メンバーのセリカさんとお風呂に入った。膝枕のお姉さん。雰囲気がなんとなく唯に似てるんだよな。



 フェリと一緒に、借りたベッドで朝を迎える。顔を洗い、歯を磨き、箱男トラヴィスの下へ。



 泣いていた。メリッサさんも。


 一晩中、二人で話していたのかもしれない。そして、トラヴィスが切り出した。


「トモって言ったか?すまねぇ。俺が悪かった。どうか協力してくれ、頼む。このとおりだ」

 

 トラヴィスは動けないので、土下寝の仰向けバージョンだ。

 メリッサさんも、涙を拭った目で、許してやって、って言っている。



 俺は、はてなボックスを解除した。

 

 臭いと共に、トラヴィスが解放される。長時間箱に固定され、体が固まったトラヴィスを、メリッサさんが抱き起こし、寄り添いながら、風呂場の方へ向かっていった。



 感動的な、夫婦の邂逅であった。




 この、残り臭さえ無ければ。

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