第16話 無効のトラヴィス
シーフギルドでシーフードをヤケ食い3人組は、次の日、セシリア王国でシーフギルドの元リーダーで、メリッサの旦那であるトラヴィスと面会していた。
面会と言っても、留置所みたいなところではなく、別荘の1室みたいな場所だ。
今日は、ねねとネルミルさん、セシリア王国の大臣ハンズさん、王宮警護の面々が同席している。
さてその前に、なぜか、ねねには睨まれ、ネルミルさんとは目が合わないという奇妙な状態だが、理由はどちらもなんとなくわかっているので、あえて触れない。
「今日の『お話し相手』は、辛気臭え奴らだなぁ。んで、いつまで俺はここにいなくちゃならないのか。こいつらは俺に何のメリットをもたらすんだ?大臣さんよっ」
おー。結構口の悪い。まぁ、軟禁を続けさせられたら嫌味の1つ2つ言いたくなるか。
トラヴィスは、50歳くらいの白髪ダンディだ。マフィアの幹部ですと紹介されたら納得してしまうかもしれない。
召喚勇者は結婚したら、年齢停止から解放されるので、結婚して30年は経ってるってこと。
「初めまして先輩。産まれは合衆国ですか?」
おっと、ちょいワルオヤジがニヤッとしたぞ。
「ほう、同郷か?アジア系だな。そこの聖女ちゃんと仲良さそうだしな。なるほど。はっ、めんどくせぇ」
頭の早いオッサンだな。
「こっちも首を突っ込みたくないんですけどね、別件ついでに片付けないといけなくなりました。
メリッサさんに会いましたよ。綺麗な方でした。トラヴィスさんが羨ましいですよ」
ハハッと笑うトラヴィス。
「随分気に入られたみたいだな?いい女だったろ?んで、条件はなんだい?」
「う~ん、協力か脅迫かで迷っているんですけど、どっちがいいですか?」
みんなが一斉にこっちを見る。見ても何も出さないよ。あっ、鳩は出せるか。
「コイツラに俺のスキルを聞いて無かったかな?脅迫はちと無茶じゃないかね、ボクチャン。そっちガキの呪いを試すかい?」
ま~、呂布みたいな百戦錬磨だなぁ。とりあえず、コインをトラヴィスの額に向かって指で弾く。
もちろんトラヴィスは動かないし避けない。必要がないから。
だけど、なぜかコインは通過する。トラヴィスの体を。
「は?」
驚いたトラヴィスの後方でコインが音をたてた瞬間、はい、はてなボックス発動しま〜す。
簡単なお仕事でした。
通過したのは、コインマジックの『タバコがコインを貫通するマジック』。実は、タバコが貫通するのではなくコインが貫通してるんです。
詳しく言うと、接触した部分のコインが異空間に飛んでるんだよね。で、非接触で戻ってくる。コインマジックだし。んで、攻撃じゃないの。
色々練習して、まだ誤差は結構あるけど、こっちのタイミングで戻すことも出来るようになったので、酷い話、脳内でコイン出現とかも可能。やらないけどね。
もうそろそろ、アイテムボックスとか、空間魔法とかを覚えてもいいんじゃない?
そんな名前の手品あったかな?無いな。
奥さんのメリッサから聞いているトラヴィスのスキルは、『トラヴィスに対する攻撃全てを無効にする』無敵みたいなスキルなんだけど、ずっと継続出来るから無敵より無敵。素っ裸で戦場を歩いても死なない。
ただ残念なことに、俺のスキルが魔法でも、攻撃でも無い、娯楽系なので。魔力も体内から出せない体質だし。
異世界で〜虚しくなるよね〜娯楽系。季語が無いか。
さっきのコインを体内に出現させた場合は、もしかしたら無効が効いて、ニョキっとコインが生えてくるかもしれない。怖っ!普通なら死ぬけど。
小さい極小コインを、相手の血管に出現させたら、血管が詰まって血栓とか脳梗塞になるかも。攻撃に判定されるかな?これもやらないけど。
そして、人体切断ボックスは、切断する瞬間は無効化されるかもしれないけど、ボックスはトラヴィスの周りを囲っているだけなので、箱に入ってもらいました。
椅子に座るとかと同じだからね。箱に入るのも。一般生活では普通、箱に入らないが。
さて、外からの声は聞こえているはずなので、ちょっと演技を。
「さて、これでトラヴィスさんは脅迫を受けるでしょうか?いつでもバラバラに解体可能ですよ。ってのは冗談にしておきますね」
さて大臣のハンズさん、これでいいでしょうか?目配せすると、頷いて部屋を出ていったので、あとはネルミルさんかな。
□
「今回はネルミルさんのほうが1枚上手だったということで」
「アハッ♪バレちゃってたのねっ♪」
なにそのブリっ子ポーズ。可愛いじゃねぇかっ!!
経緯はこうでした。
トラヴィスの奥さん、メリッサさんとの話から。
メリッサさんは、ほとほと困っていた。もうこの時点で、何か違うという印象が否めず。
前日にあれだけ襲われたときの予行練習とイメージをしたのに、残念ながら今回は肩透かし。まぁ、やって無駄ではなかったと思おう。
まずは、アルスタール王国の第2王子、ファビオラ・アルスタールが、トラヴィスを敬愛していること。
第2王子ですが、12歳の女の子と言ったら王族に失礼か。女性です。
あとは箇条書きでお伝えします。
○トラヴィスと結婚して、義賊を継ぐと言っていること。
○トラヴィスがまんざらでもないこと。←ここが1番の問題点。
○アルスタール王が困っていること。まだ、ファビオラ王子は若いので、時間が経って、トラヴィスを忘れてくれればいい。
○メリッサさんが呆れ、怒っていること。
○アルスタール王が悠久の翼を国外追放し、セシリア王国がそのとばっちりを受けたこと。1年前のことです。
○悠久の翼は、セシリア王国に根付き始め、活動も順調なこと。なのに、トラヴィスは、ファビオラの元にふらっと行ってしまう放浪癖がある。←もう放浪ではない。確信犯。
○アルスタール王国の依頼、メリッサとセシリア王国の協力で、セシリア王国内の別荘に、結界を張りトラヴィスを軟禁・拘束中。
○トラヴィスが、ファビオラ王子にキッパリと断れば、王子も諦めると王子本人が言っているのに、トラヴィスは王子をその気にさせる一方。むしろ奥さんとして迎えたい。←ここ、テストに出ます。
○メリッサも、別に他の女を娶ることには反対はしていない。メリッサも変わらず愛して貰っている。←1時間、惚気の時間でした。
○ただ王族は別。特に、アルスタール王国は、トラヴィスが勇者召喚された国、メリッサも生まれ故郷。
○どうにかして、全て無効のトラヴィスを、説得するしかない。←今ここ。
■
「本当に色々試したのよっ。拷問に近いこととか薬とかもね。でも効果がなくてね、拘束してもそれが攻撃と判断されるし。このロリコンにはっ♪」
あ、そのワード言っちゃうのね。あえて言わなかったんだけど。箱人の人、外の声聞こえてるからね。ああ、聞かせてるのね。
トラヴィスが約50歳、メリッサさんはおそらく40前後。勇者は歳を取らない。結婚したら取り始める。30年前。メリッサさん10歳。
他の17人の奥さん達も、メリッサさんより若いって言ってたので、英雄色を好むを地で行くちょいワルオヤジなのです。
おそらく、サンドライト運びから、俺のスキルの効果を実際に見るための確認だったんだろう。
そう考えたら、筋肉と石を愛する男フォブさんは別として、ねねラブはマジとしてのアーノルドの行動もなんとなく理解出来る。
そして、タミィが一緒に付いて来ることが結構すんなり了承されたのも、危険はほとんど無いからだったのだ。
「さて、どこに運びます?まずは、メリッサさんのところですかね?」
現在、監督指揮権のあるネルミルさんに確認を取ろうとするが、ねねの圧がそうさせない。
「えーと、ねねさん〜。元気?」
「チューーーしたってっ!唯がうれしそーーーに連絡してきたんだけどーーー。へぇぇぇぇ~。そうなんだぁぁぁ。私もぉぉぉ、2人が遭難したときぃぃぃぃ、結構、頑張ったんだけどぉぉぉぉ!?」
呪いかな?言葉尻が長くなる呪いかな?タミィ、呪い解除出来るかなって横を見たら、
「ワタシは、今回あんまり役に立てませんでした‥‥‥」ってショボーンになってました。
拝啓
神様、手品師のスキル結構助かってますが、『めんどくせぇこと回避』のスキルを授かりたく存じます。
恐惶謹言
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