第15話 闇ギルド潜入前夜
「決めましたっ!!ワタシもトモさんに、そして唯さんとねね様に恋の宣戦布告をしますぅ!!あわわっ、ハクちゃん、ごめんなさいっ!」
唯がどうにか泣き止み、いつもより甘えが酷くなりつつあったタイミングで、ずっと考え事をしていたサミィが勢いよく立ち上がり、声を荒らげた拍子に、後ろで遊んでいたフェリとハクに椅子が倒れて、ハクがフェリに飛びついた。
「うんっ!サミィちゃんっ、その挑戦っ受け付けるよっ!!あっ!!トモっ、ゴメンっ!」
他人の家なのにベタベタしてくる唯が、タミィの宣戦布告に反応して勢いよく立ち上がった拍子に、唯の肩が俺の顎をクリーンヒットした。
仰向けに倒れた俺。おーい、傍観者面した当事者をそっちのけで、話が進んでいるんだが。
なにその握手。計量後の記者会見かな?
「タミィちゃんも落ち着いて。俺に対する気持ちは吊り橋効果だからね。結局、タミィちゃんを苦しめたのって俺だから。マッチポンプみたいな感じになっちゃったけど。俺、甲斐性なしのオジサンだからねっ、まず落ち着こう」
自分で言ってて悲しくなるが、タミィちゃんの気持ちもわかっている中で、さっきの唯とのやり取りはマズかった。
ハクと火山の件が予想以上に上手く行ったせいか、俺の行動が短絡的になってしまっている。
頭の上に?マークが浮かんでいるタミィちゃんに、吊り橋効果とマッチポンプを説明して、これはそういうものなんだよって伝え、えー、伝わらなさそうだな。フンスっが見える。
恋愛経験のある唯と違って、タミィちゃんは、俺が初恋かもしれない。むぅ、どうするか。
「ワタシがトモさんを気になったのは、トモさんたちが勇者召喚された1年前の説明会からですぅ!この気持ちに嘘はありませんっ!」
「うんっ、うんっ!そうだっ、そうだっ!」
唯、お前は乗せるなよ、煽るなよ。
「なので、ワタシは考えましたっ!もっと近くにいないと、積極的にならないと、今までの自分を変えないとっ!トモさんは難敵過ぎて落とせませんっ!トモさん達と闇ギルドの件に同行しますっ!」
は?
一瞬、意識が飛んだ俺。全く予想しなかったビックリって、意識が途切れるんだな。
「待て待て、タミィちゃん。落ち着こう。タミィちゃんは、今まではお休みしていたとはいえ、セシリア王国の宮廷魔道士で、呪術師として重要な職務を任されているわけだ。
勇者の子孫である由緒正しいローズムーン伯爵家のご令嬢なわけだ。
今回の闇ギルドは悪ではないとはいえ、国と敵対しているわけだ。すんなり行かない。戦闘になるかもしれない。
そこにタミィちゃんを連れて行くと、俺がサブリン爺さんや、君のお父さんのローズムーン伯爵とファミィさん、サミィに殺されちゃうわけだ」
「大丈夫です。お爺さまも、お父様、お母様、サミィお姉ちゃんも、トモさんを殺しません。
そしてワタシが、トモさんを護りますからっ!」
うーん、最後の言葉の表現を間違えた。
「そういう意味じゃないのはわかっています。事前にしっかりお話すれば、みんなわかってくれますっ!
ま、まずは、お姉ちゃんから話してみます!」
あぁ、この勢いの起伏はどこかで見たことがあると思ったが、やっぱ双子の姉妹なんだなとなんとなく実感する。
結局、タミィはゴリ押しで家族みんなのしぶしぶながらの了承を取り、きっとあとから俺に矢のような苦情が来るのは別として、一緒に行動することとなった。
▼
次の日のまだ太陽が明るい夕方、アットサマリーのマイホームに帰宅した。闇ギルドに突入するにあたり、必要になる装備を取りに戻った。
唯は、あと数日ドラゴンスレイヤーとしてのお役目が残っているので、サブリン家に泣く泣く残った。
まぁマイホームって言っても、月の家賃金貨5枚の借家だが、帰ってきた〜っていう感じだ。
「ここがおふろ」
「わぁ‥‥結構ステキな、可愛い家ですね〜」
「キュウキュウっ!」
フェリが、タミィとハクに家の中を案内している。案内するほど広くないけどね。
さて、食事の準備をするか。今日はお客さんがいるので、冷蔵庫の肉料理でいいかな〜。
■
タミィにも食事の用意を手伝って貰った。ローストポークがまだ残っていたので、トロトロの厚切りで出し、みんなで舌鼓を打っていた。
食事を終え、明日の闇ギルドとの交渉について、話を進める。
「‥‥という形で、進めていきます。何か質問は?」
「もしも‥闇ギルドに接触するときは、相手も油断しているでしょうけど‥幹部との話し合いの後に戦闘になったらどうしますか?」
タミィが、俺の説明での不明点を指摘してくれる。
「そうだな、それも考えておこう。先に予想しておくのとしておかないのでは全く違った結果になっちゃうしね」
幹部級を呼び出し、接触時もしくは会話したあと、幹部が手練を一緒に連れてきたとき、もしくは場所を移動した所で待ち伏せにあった場合かな。
「タミィは、呪術を同時にかけることが出来る人数って?あと発動させる時間ってどれくらいかかるの?」
「はい‥簡単な、例えば幻惑とか恐怖とかで行動を制限する、動けなくするっということならば、そうですね‥5人ですかね。その呪術であれば詠唱も短縮出来るので、そうですね‥3秒あれば5人いっぺんにできると思います‥いえっ、頑張りますっ!」
いやいや、顔が近いよっ。5人か、結構少ないのか?多いのか?ただ素早く発動できるのはメリットだな。
それと、詠唱短縮か!なんかテンション上がる。今まで俺の周りにベテラン魔法使いみたいな人はいなかったからな。
フェリと冒険者の真似事をしているとき、魔法使いの冒険者は少なからず居たんだけど、「詠唱が重要」っていう子たちしか会わなかった。
あれはあれでカッコいいんだけど、待機時間が長いんだよね。
タミィに無詠唱について聞いてみたら。
「えっ、無詠唱ですか‥‥。い、いえいえ、ワタシにはまだまだ無理ですよっ!魔道を研鑽し続けた結果の賜物と聞いています。
短縮させるのも、結構大変でした。ワ、ワタシ結構頑張りましたからっ!」
うんうん。頑張ったね。顔が近いからね。うんうん、口を尖らせてもチューしないからね。
とりあえず頭を撫でておいた。賢者様はほとんどの魔法を無詠唱で出せるらしい。セシルバンクルか。なんかわかる気がする。
「もし戦闘になったら、相手の戦力を拘束や動けなくする、そういった方法になるかな」
タミィには呪術を。俺は、ロープで作ったリングとスプーンさえあれば何人でもなんとかなりそうだ。
タミィちゃんから、「トモさんの手品スキルって結構『チート』ってやつですよね」って言われたが、しょっぼいチートなんだよ。俺からしたら、タミィのほうがチートだよ。
「パパ、はくはどうするの」
「キュウ?」
まだハクは秘匿中なので今回までは袋の中だな。これが解決すれば、ハクもいつも一緒にいられるからと伝えると、フェリもハクも喜んでいた。
いざって場合は、ハクにも参戦してもらうよう頼んでおこう。
「ワタシ達は、どんな格好で交渉に臨むのですか?」
うん、あまり目立たず行きたいからね。今回はタミィも居るから、この家にはこれを取りに来るのが目的だった。
食事前にクローゼットから取り出した黒いフード付の隠蔽服を3人分、テーブルの上に置いた。
「これ、まえにきたことある」
そう。フェリは以前、ねね救出の際に着たこの服を覚えていた。
「これはフードまでかぶると、正体を曖昧にする効果のある服。フェリは以前使ったことがあるのをよく覚えていたな。これを着て、あと新たに俺のスキルを付与してあるので、ちょっと試してみよう」
覚えていたフェリを撫でながら、今の服の上から羽織る。
「あっ‥‥なんだか、トモさん、フェリちゃんの姿がボヤケます」
「うん、まだ使えそうだね。では、次にスキルを発動します」
縫い付けたコインの消失マジックを発動する。これは初見の初発動。
「キュュュュゥゥ〜!?」
ハクが、突然居なくなった俺たちにビックリなのか、寂しくなったのか、長めの声を出す。
フェリがフードを脱いで、ハクを抱き寄せた。落ち着いたようだ。
「これは、ワタシ達が見えなくなったってことですか?」
「そう、正解。ただし、気配と姿が見えなくなっただけで、相手に触られると見えてしまうし、そこに居ると強く認識されてもダメ。俺の手の届く範囲だけしか効果がないから、半径1mから離れると効果がない。ちょっとクセはあるけど、いざっていうときだけのスキルだと思ってね」
とりあえず上手く発動した。俺とフェリは、普通の服でも大丈夫なんだけど、タミィにはまだ発動できなさそうなので、身長の近いねねのフード服を用意したけどなんとかなった。
ハクはフェリがそこに居ることを認識したようで、フードを被ったフェリのことが見えているようだ。
タミィちゃん、「これならばトモさんとチューが‥」とか聞こえてるからね。俺のコインスキルだから、俺には見えるからね。
「あとは呼び名だな。俺は『ヌウ』を名乗るけど、好きな呼び名とかあるかな?」
こういうのは、想いというか思い込みやこだわり強いほうが上手く行きそうな手品師のカンみたいなのが働くんだよね。
ふたりとも悩んで、俺の呼び名の由来を聞いてきた。そして、俺のようなアナグラム的な物が無いか、一緒に考えることにした。
□
タミィがコーヒーを入れるため、キッチンに向かったので、先にフェリから検討する。
「フェリは、名前を組み合わせるとパパの前の国の言葉で『左』になるんだ。『左』には、制度を新しく創り出す意味の『革新』とか、証拠や真実を明らかにするという『あかし』とか『しるし』っていう意味が
「フェリは『しるし』がいい。パパとママとフェリの『しるし』」
うん。直感で決まったようだ。
「フェリちゃんは決まったんですね。コーヒー入りましたよ。フェリちゃんとハクちゃんはホットミルクね」
タミィが戻ってきた。コーヒーをいただきながら、タミィの検討に入る。
「俺の前の国の説明は聞いてたかな?うん。タミィの名前を組み合わせると、『例』試しとか、例えとか、ならわしっていう意味なんだ。あと、『タミ』だけを使わせてもらうと、『汐』で、シオ、ウシオって読んで、この世界で例えると、湖水が増えたり減ったり、う~ん、水が命を持って躍動するって言うのかな?
「ワタシは『ウシオ』が気に入りましたぁ。呪術の先生、あっ、先生もワタシと同じ勇者の子孫なんですけど、あっ女性です。その先生から『丑三つ時』っていう呪術が強く働く刻を教わりました。ワタシにピッタリだと思うんですぅ」
よし。タミィも決定だな。
「はくは、なんかあるかな」
「キュウ?」
そうだな、ハクも一緒だもんな。
「ハクは、『分』‥‥いや、『白』かな。ビャクとも読むよ。白い見た目もそうだけど、誠実だったり、輝きを意味する言葉だね。
お母さんは、ハクの事を種族の未来を照らす光になってほしくてこの名前をつけたんだろうな」
ハクを見る。今まで暗く寂しい場所でたった1人だったハクと、俺たちが出逢えたのは、この名前のおかげだったのかもな。そんな運命を感じる。
「はくは、『ひかり』ね」
「キュウンっ!」
「よし、じゃあみんなの呼び名も決まったところで、3人でお風呂に入っておいで。タミィ、2人のお世話お願いできるかな?」
「ハイっ!ワタシに任せてくださいっ!」
タミィがフンスッっと元気よく、1人と1匹をお風呂に連れて行った。
唯にしたキスが、タミィにはいい影響にはなってるみたいだけど、ちょっと先走ったかな〜。
俺は外に出て、少し冷めたコーヒーを口に注ぎ、タバコに火をつけた。
「ふぅ〜。『分』か」
意味としては、時間の分もあるけど、分が悪いとかの程度と、わかれ。
別れ。
ふと口にしちゃったけど、そんな過去も未来もまとめてふっ飛ばしてやるからな。
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