第14話 女泣かせと甲斐性なし
「‥‥どうしますか?‥‥大問題でしたね」
タミィ、もとい、この黒いフードの姿では『ウシオ』が、片手に香ばしい醤油タレのシーフードホタテ串を持って聞いてくる。
今俺たちは、シーフギルド『悠久の翼』のメリッサの話を聞き、頭を抱えながら、ガルムライの商店街でフェリ改め『シルシ』とヤケ食いの真っ最中だ。
この街はバリカル湖に隣接した魚介類の豊かな街だ。湖の豊かなミネラルの恵みなのかは知らんが、海産物ならぬ湖産物が豊富だ。
異世界に、もうツッコまないつもりだったが、俺の知識では海で取れる魚も、湖で取れるらしい。シーフギルドとシーフードもややこしい。もうなんにも言えねぇわ。
なぜヤケ食いか?ヤケになっているからに決まってる!
ネルミル姉さんにやられたっ!
確かに、『国どうしで色々あって』って言っていたが、勇者絡みの話だと思ってしまった俺の負けか‥‥。
冷静になろう。
時を戻そう。
▼
家族会議の次の日の朝に戻る。
この日は、朝から火山警備隊と鉱山に出向き、俺たちが落盤に巻き込まれた場所や、下のフロアーへの通路などを一緒に見て回った。
「おそらくなのですが、俺たちが落盤と崩落に巻き込まれた原因は、この鉱山に『ダンジョン』が産まれたことによる地殻変動ではないのかと思うんです」
平然な顔で言い切る俺。ポーカーフェイスのスキルがダダ上がりだ。
そんなスキルは持ってないし、俺はスキルのレベルが上がるタイプでもないんだけど。
火山警備隊員の皆さんから、どよめきが起こる。とりあえず『ダンジョン』っていう言葉と意味を知っているようだ。
この世界にはダンジョンがない。よく物語にある異世界には、塔だったり洞窟だったりがダンジョンとなり、強いモンスターやボスモンスターが居る一方、見たこともないアイテムや、強力な武器防具が手に入る、冒険者にとっては夢のような場所だ。
たが、この世界では聞いたことがない。ただ、転移勇者の存在だ。転移勇者で、それなりにゲーム、マンガ、ラノベなどに精通した者はきっと、いの一番に『ダンジョン』の話をしているだろう。
おかげで、事故現場での報告引継ぎがあっさり終了した。各国から派遣されているであろうシュラス国内の警備隊員は、これを母国に報告して、今後の対策を検討するのだろう。
俺としては、落盤と崩壊の原因がハクのせいというのが誤魔化せればいい話だ。
今まで知られていなかった広い地下フロアが発見された。湖だって結構深かったし、詳しく調べれば色々見つかるんじゃないのかな?
嘘から出たまことで、ダンジョンだったとしても、違かったとしても、捜索と検証には時間がかかるだろうし。
『面倒くさいこと回避』出来ればよしである。
それと、ハクに踏み潰された警備隊員のフンガーソンという男。過去にアルスタール王国で冒険者をしていたそうで、火山地帯に稀に報告されるドラゴンの討伐でひと山当てることに意欲を燃やしていた男らしい。
勤務態度は真面目で、それが評価され、希望のシュラス国内の担当に抜擢されたらしい。例えれば、模範囚って感じだ。
しかし結果としては、自分勝手な行動で、1番近くにいたフェリや唯、ねね達や警備隊の同僚を危険に晒させた。
管理事務所で、隊長と上司の方に謝罪をされた。「みんな無事でしたから」と、こちらも救助を出していただきありがとうございますと感謝を伝えておいた。
俺は貸し借りでどうこうするタイプでは無いのだ。覚えておくのも面倒くさいし。一期一会だよね。次にまた会ったときは、こんなことがあったねって話せる間柄がいい。
ちなみに、ドラゴン退治の魔石は、討伐報酬として討伐者の唯が受け取っていいとのことだ。
下で拾ったマグマの石(仮)だから、王に献上とかで鑑定されてバレるってことがなくて済んだ。
■
「ただいま〜、なんとかハクの事はバレずに
「トモっっっっっっっ!!!!」
「ぐはぁっ!」
サブリン家到着と同時に、人生初のぐはぁっを発してしまった。しかしっ、まだっ、ぬわーーっ!!は、かろうじて消費していないっ!
光のオーブを素手で割る魔物に会えるかどうかが鍵だ。
ポーション瓶を口に加えた涙目の唯が俺のみぞおちにタッチダウンしていた。
唯を落ち着かせて話を聞くと、ハードな1日を聞かせてくれた。
朝1でアットランド王との謁見。お世話になってる王城の勇者部と護衛騎士団に報告。
その後アットマインと、アットサマリーの冒険者ギルドに報告との他の冒険者からの熱烈歓迎。アットマインに戻り、ハワード商会でも報告と歓迎を受け、マリリンと装備の調整と打ち合わせ。ずっと笑顔を作らなきゃならず、緊張とストレスとでニキビが出来たらしい。明日も、明後日も、その後も予定が入っているらしい。
とりあえず、ウンウン、そうか〜、大変だったな〜って言っておいた。
話が長すぎて、最後のおでこのニキビ以外の話がが曖昧だっ!
「でねっ、でねっ、ジャジャ~ンっ♪Aランク〜っ!!ブイっ!」
唯がギルドカードを片手にVサイン。ゴールドカードじゃん!
「おーっ!スゴイっ!唯ゴールド」
「おーっ!ママすごいー!」
「キュゥン!キュゥン!」
いつの間にかフェリとハクも寄ってきていた。
「ワーイっ!フェリもハクもアリガトーっ!!」
3人で手を繋いで輪になって変なダンスを踊る。俺は小さい輪の中心で、変な呪いをかけられているのだろうか。
呪いをかける派のタミィが、コーヒーを入れて運んでくれた。
「‥‥トモさん、おかえりなさい。唯さんズゴイですよねっ!Aランクですっ!」
聞くところによるとAランクは、特級と言われ、任務や討伐で偉大な功績を残した冒険者だそうだ。
「ドラゴンスレイヤーに認定されたのが大きかったみたいっ。討伐部位があればSランクを、とか言われたけど、ハクの体のを差し出すなんて考えられないし、魔石もニセモノだから出せないしね。お世話になってるサブリンさんに譲ったって事にしてもらったのっ」
えらい成長だと感心する。あの討伐時のヘタクソ演技が嘘のようだ。「時間さえあれば、ちゃんと考えられるよっ」とのこと。
「ねぇっ、トモ〜っ!アタシ、頑張ったよねっ!ドラゴンスレイヤーを押し付けられたりっ?なんかご褒美が欲しいんだけどっ!」
うっ、そうきたか。確かに、無茶に付き合わせたのは俺だし、その後のゴタゴタはある程度考えていたが、ここまでとは思っていなかったのは確かだ。
しかし情けないことに、懐具合が寂しい親父なのだ。唯より、フェリより、稼ぎの少ないダメ親父を、どうか見捨てないでくれ。
「よ、よしっ!欲しい物はなんでも言えっ!」
日本で、長女の直近の誕生日プレゼントは液タブだった。唯はそれより4歳上だ。金貨10枚くらいなら、、後日、ギルドの依頼、頑張ろう。
「じゃ、じゃあさっ!キスしてほしいっ!」
そうきたかっ!
まぁ、それくらいは、とちょっと勇気を出して、唯の肩を抱き、驚いた表情の唯の唇に軽くキスをする。抱きしめて「いつもありがとうな」と伝える。
一部始終を、例の指の間から見ていたタミィから「わぁー」っと声が上がり、フェリとハクが拍手らしきをしている音がする。
「えっ!えっ!えっ!?ちょ、ちょっとっ!こ、心の準備も出来なかったんだけどっ!!!?
娘としか、見れなかったんじゃ、なかったの〜っ!?」
最後は体を震わせながら話す唯。おでこかほっぺくらいを予想していたようだ。
そうか。そんなことを気にさせていたか。
唯の体から少し離れて、泣いている唯の目を見て真剣に話す。
「確かに唯は、長女のあかりと歳はほとんど変わりないけど、この1年で俺に対する唯の好意もわかってるし、唯は娘だけど、娘じゃないからな。女性として見ているぞ。半分くらいは。
だけど、恋愛とか、結婚とか、そういった行為とかは、どうしてもまだ踏ん切りがつかない。
唯のことは大好きだぞ。フェリもハクも、タミィだって大好きだ。
それと、誰それ構わずキスはしない。唯が、大切な女性だからだ。
ただ、自分で言ってても、自分でもよくわからないんだが、恋愛として『人を好きになる』って感情が、死んでるんだと思う。
死んだ妻の、マトコとの、約束というか、後悔なんだろうな。卑怯者なんだよ、俺は。
甲斐性の無い男で申し訳ないが、唯が本当に好きな人が出来たなら、俺は全力で唯を応援する」
話を遮るように、唯が抱きついてきた。
「うぇぇぇぇぇっ、そんな人っ、トモっ以外に、出来ないよぉぉぉっ。
ぎめたっっ!!そのばえの奥さん、マコトさんを忘れさせるくらいっ、アタシがトモを惚れさせてやるんだがらぁぁぁぁっ」
唯が、俺をキツく抱きしめて泣き続けている。
俺は唯の頭を軽く撫でながら、卑怯で、ヒドくて、ズルくて、臆病で、自分勝手な自分に立ち向かえない自分に対し、虚無感を感じていた。
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