第13話 闇ギルド

 今、セシリア王国第3門内、ガルムライの街のとある酒場にいる。



 酒場の中は異様な雰囲気だ。黒いフードをかぶった俺たちは、人を待っている。


「んんんんんんっ!」

「くっ、これを外しやがれっ!」

「あぁー、母ちゃんンンっんんー」

「あひゃびゃびゃひゃひゃっ!」


 酒場内の屈強な男たち十数人が、ロープや金属の手枷で、手足、口などを縛られた状態で転がっている。

 縛られてない男女も、床でもがき苦しんだり、愉悦な表情で失禁中。阿鼻叫喚だ。

 周りのその他の者たちは武器を片手に、こちらを警戒している。

 

 座った俺の隣には、小さい呪術師ウシオが呪文を唱え、背後では尻尾の生えた獣人シルシが爪を伸ばし、その男どもを臨戦態勢でで警戒中だ。


 最初に襲ってきた男は、その獣人に、簡単に足を斬られ、気絶させられているのを見ている。さらに、呪い使いと、得たいのしれないロープ使い。周りもそう簡単に飛び出せない。

 とりあえず、キツくロープで縛って血止めはしてあるから。命に別状はないと思うから、そんなに睨まないでね。


 十数分後、奥から大柄な女が出てきた。下っ端にしては貫禄がある。歳は以前の俺よりちょい年下くらいかな?


「アンタが『ヌウ』ってやつか?アタシが今のナンバー2だ。まずは、コイツラを解放してやってくれ。話はその後だ」


おおっ!一発で当たりを引いたか?


 呪術師に目を配り呪術を解く。俺も、縄や『スプーン』を解いてやった。


ナンバー2の女が声を出す。

「手出しするんじゃないよ。怪我人を回復してやりな。

あんたたちは、こっちについてきな」


 奥に部屋があるのだろう。案内される。騙されたとして、拘束されても脱出の手段はあるので、飛び道具や毒針などの攻撃だけは警戒しながら、奥の部屋に入る。


 席に座り、女が本題切り出した。



「トラヴィスを救えるって言うのはどういう意味だい」



「トモ君、関わらないように言ったんだけど、どういう経緯でそうなるのかな♪」

 ネルミルさんの微笑み睨みが怖い。


 とりあえず、どうどう、怒らず話を聞いてくださいね。ねね、笑ってないでネルミルさんを抑えてよ。


「まず、俺たちの最終目的は、ハクを普通に生活させてあげること。袋の中じゃなく。出来れば、お母さんが見つかるまではフェリと、俺たちと一緒の方がいいと思う。みんなもこれはいい?」


 ネルミルさん含めて、みんなも同意する。

「次に、そのためにはハクの魔力をなんとかしなきゃいけないし、俺たちも、『あの』ドラゴンが生きてる事は秘匿しておかなきゃいけない。ここまでもOK?」

 これも、同意を得た。『あの』ドラゴンを討伐してないと、俺たち、国を騙した誘拐犯罪者集団だからね。


「それには、『魔力を抑える魔導具』の『物自体』か『つくり手』を手に入れるか、『ここにいるのはあの時とは違うドラゴン』かが、今考えられる中では、1番早い方法かなと思う。

 姿を変える魔法とか、魔導具とかあるかもしれないけど、永続とは限らない。色々制限がかかると不都合なのは、俺達勇者の『ミサンガ』で体感してるしね。

 魔導具は、時間をかければ作れたり見つかる可能性もあるけど、需要が少ないので手に入る可能性が技術含めて少ないこと。ここまではいい?」


ここで、ねねから横槍が入る。

「トモが突拍子もない事を思いつくのはいつものことだから慣れてるけど、少し説明を飛ばしたよねっ?

そこから、なんで『闇ギルドを潰す』につながるかな?」


 説明を飛ばしてたか。考え出すと突っ走る悪い癖を治さないとなぁ。


「まず、ネルミルさんが言ったシーフギルド。国が追ってるってことは、国に対して対抗していること。でも、トップを『拘束していて』、『殺してない』ってことは、そこまであくどい事をしていないか、拘束している今のトップが重要人物か、組織全体を『国が利用したい』か。

 本気で潰すなら、ネルミルさん達の組織は、本当に優秀だから、全滅させようと思えば出来ると思うんだよね。タミィちゃんとかそういうスキルを使って。

『厄介』っていうのは、少なくても初めてではなく、何回もトップが変わってるんだと思う。それでも、『優秀』な国の討伐部隊が手をこまねいているっていうことは、メンバー大半の目的意識や志しが高く、相当な組織された集団。ギルドって言ってるしね。

 おそらくなんだけど、義賊に近いんじゃないのかな?シーフギルドって呼び名も、その組織か助けられた市民がつけたんじゃない?

 討伐している国側がつけたら、盗賊ギルドとかもうちょっと悪をイメージさせる呼び名になるだろうし。勧善懲悪じゃないと、国に都合よろしくないし。

 組織化されているなら、魔導具制作師みたいなのが居るはず。なんせ、『魔力を隠す魔導具は、需要が無い』のだから。バレないようになにかする人達以外には」


 みんながあっけに取られているけど、さらに進めよう。


「ネルミルさんが最初にシーフギルドって言ったのに、闇ギルドって言い換えたのは、ネルミルさん自身もシーフギルドにそこまで悪い印象を持ってないでしょ。多分、仲間の中にもそういう考えの人が居るはず。

 でも国に対する忠誠心から言い換えた。俺たちに対する気遣いや、正当性からね。

 国か、ねねかどちらかを選べと言われたら国を選ぶだろうけど、もう今のネルミルさんは、ねねを悪いようにはしないと思うんだよな。

 闇ギルドを潰すのは名目で、それのほうがセシリア王国の協力を得やすいと思う。その拘束されてるトップに面会出来れば、話は早そうだし。

 俺は、国に召喚された勇者だけど、重要では無い『17番』だからね。野心が薄いのも報告に上がっているだろうし。死んでもそこまで痛くない、悪が滅びれば国の成果。Win-Winな関係が結べるよ。

 もし、この考えが全くの見当違いで、極悪集団だったら、今の俺たちのスキルなら、ひっそりと殲滅出来ちゃうんじゃないかな?

 コインで姿を消し、スプーンで縛って、ひとりひとりボックスで解体。唯は無敵だし、フェリとハクもいる。証拠も残らないし、自分で言ってて嫌だけど、死神だわこれ。

 んで、『シーフギルド内に、セシリア王国内の、どこからか盗まれたドラゴンのタマゴがあった。ことにする。ドラゴンスレイヤーの唯が触ったら、なぜか倒したアルビノドラゴンの魔力が影響して孵化してしまい、白い鳩サイズのミニミニドラゴン子供が懐いてしまった。

 王との謁見で、『懐いてしまったので、このドラゴンの子供を頂ければ他の報酬はいりません』と申し出る。

 ミニミニドラゴンだし、勇者で愛子さんの弟子で、ドラゴンスレイヤーの唯が近くにいる。ドラゴンの魔力も国を滅ぼすものでもない。国も管理はしやすい、となる。他の国々に対する『言い訳』ができるわけ。免罪符を得て、ハクは唯の娘のフェリといつでも一緒となるってわけだ!」


 どこかのセールスマンみたいな人差し指ポーズをかます。

 喋りすぎた。水を貰って喉を潤す。みんな口が開きっぱなしだ。



「はぁ〜、厄介な人を愛しちゃったのね、ねねちゃんは♪」


「私と同じくらい、心に闇を抱えているのよねこの人は」


 ねねもネルミルさんも失礼な。



 ネルミルに聞くところによると、そのシーフギルドは、『悠久の翼』というギルドらしい。


 過去の勇者が立ち上げた義賊集団で、王都で拘束しているリーダーも過去に召喚された勇者とのこと。

 民衆の正義を掲げ、悪徳貴族の不正を暴いたり、野盗に拐われた人達を救出したり、孤児院や貧困層にお金を配ったりと八面六臂の活躍で、市民からの信頼も厚いらしい。

 もう異世界のねずみ小僧だわ。


 ただ、そういった行為を好まない貴族や権力者も多く、国内でも、多数派の取締強化派と、少数だが見て見ぬふりの現状維持派とに分かれている。一部、壊滅させたい者がいるらしいがわずかな数とのこと。


 ちなみに国王は、現状維持派らしい。使えるものは派だね。金かからないし。

「そのリーダーがトラヴィスっていう、お隣のアルスタール王国で過去に召喚された勇者で、今のリーダーがその妻のメリッサなのよネ♪

 国どうしで色々あって、今は軟禁に近い拘束ってところね。それとトラヴィスは本人のスキルで自白剤とか洗脳とかそういう類は効かないわ。

 それと1つ間違ってるのは、トモ君の自己評価。アルバード国王とハンズ大臣、セシルバンクル様は、目をつけてるわよ、もちろん私も、ねッ♪」


 う~ん、ネルミルさんはいいとして、あのメンツに目をつけられるのって面倒くさいことに巻き込まれそうで嫌なんですけど。

 まぁもう少ししたら、唯のドラゴンスレイヤーフィーバーも含めて、あのメンツも俺達に構う暇なんてなくなるんじゃないのかな?


「えっ?それってどういうことっ?」

 フィーバーにうんざり気味の唯も聞き返してくる。




「あの鉱山の地下って、この異世界初のダンジョンなんじゃないかってことにするから」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る