第12話 ドラゴンは鳩
「ハクは何を食べるんだろうねっ?クッキー大丈夫かなっ?」
「はく、なんでもたべるって」
「キュゥ!」
「ふふっ、喜んでますねぇ。私の作ったクッキー美味しいですか?」
今は、女性陣がハクをお世話する時間になっている。鳩でもドラゴンでも、小さいは、可愛いは正義なのだ。
こっちはサブリン爺さんに強めの酒を出されて、晩酌に付き合っている。明日も火山警備隊と打ち合わせしなきゃいけないから、ほどほどにしておかないとな。
「可愛い〜!私、子供の頃から可愛いペットを飼うのに憧れていたのよね。トモ、もう一人ドラゴン探してきてよ」
無茶を言う。万が一見つけても、その時点で俺がドラゴンに対して、ペットでもいいから殺さないでって命乞いするわ。
「それにしても、このサイズでも相当な魔力を持ってますよ♪ハクちゃんがみんなが怖がらないように抑えてくれているんでしょうけど。お姉さん達は大丈夫ですけど、他の人には言い訳ができないかもしれませんね♪」
ネルミルさんが言う事もわかる。
テイマーでもない手品師が、世界滅亡級のドラゴンを飼っていて、それも火山警備隊をだまくらかしての越境誘拐。ついには討伐したという虚偽報告までしでかしている。
まあ、みんな気絶してたから行けるかなって。それに、そのまま国などに引き渡していたら、収監や研究ならまだしも、解剖され魔導具や素材にされる可能性は高い。
お母さんを一緒に探す約束しているわけだから、その場に残しておく選択肢はなかったしね。ずっと1人だったハクをそのままにしておくほど非情な人間では‥‥、救うと決めた者をそのままにする人間ではない!そう思おう。そうだ!俺はそういう人間だあ!
「人間離れし始めてるけどね」
ねねの一言が最近冷たいよね。
「妻としてどうなのっ」て言ってやったら、ビックリして顔を赤らめた。設定忘れてたな。
他のふたりにも、「お前は、俺の嫁だからなっ」「いつもありがとう、奥さん」っていうシチュエーションプレイを要求された。
いやいや、ネルミルさんには「俺のネルっ」っていう愛称呼びからの奥様方に睨まれるという変態プレイを実践させられ、本人は愉悦に浸っていた。
何これ?
とりあえずみんなに、犯罪まがいの思いつきを勝手に進めて、付き合わせてしまったことについて謝る。
「確かに先に相談してもらえれば、対処や抜け道もあったかもしれませんが、あのときの時間と状況では仕方なかったかもしれませんね♪」
「ウム。なんせ大型のドラゴン、それも白いドラゴンとは珍しい種じゃからのぅ。各国が黙っておるまい。あの警備員の行動は許されるものではないが、ドラゴンを退治することに命をかけておる冒険者もいることじゃて」
ネルミルさんとサブリン爺さんがそう言ってくれると安心する。
そういえば、ハクを斬りつけた警備隊員はハクが踏み潰してしまったけど、と聞くと、
「戦場で魔物に殺された者を弔うことはあれど、気をかける必要はありません。私達、国家に尽くす者達は、どういう状況でも任務を遂行し、生き残れるための研鑽を積んでいます。
あの者には何も足りていませんでした。
テイムした魔物が、無関係の人を襲った、襲わせたと言うならば別の話ですが、敵意のない子供でシュラス国の生き残りの可能性があった重要参考人を、自分の欲望のためだけに手をかけた非道な犯罪人です。何も気に病むことはありませんよ」
ネルミルさんが、先程とは違う軍人って感じのしっかりとした口調で話してくれた。
「そうじゃの。そのうち報告もあるとは思うが、冒険者上がりの警備隊員も結構いるからのう。そういった類いだったのであろう。
ドラゴンスレイヤーにでもなれば、一生安泰じゃからのう。奴にはドラゴンである確信があったのであろうが、そういうものじゃ」
サブリン爺さんも、酒臭い息で気にするなと言ってくれる。追い続けたドラゴンに一太刀入れたのであれば本能じゃろうとも。
なんとも死が身近な世界だとつくづく思うよ。
そういえば、俺たちがサンドライトの採石場近くから出てきたとき、よく場所がわかったねって聞いたら、ねねが、
「魔力探知機をセシリア王国に戻って借りて来たの。生きている事はわかったけど、どこにいるっていうのは分からなかったから。
鉱山の魔物が全く出なくなっていたし、動いている3人の魔力が検知出来たから、おそらくトモ達だろうってそちらに向かったのよ」
なるほど、そんな魔導具もあるんだな。でも、2人じゃなくて3人だった事に不審は無かったのか聞いたところ、
「トモの事だから、また何かに巻き込まれたんだろうな~ぐらいしか考えてなかったよ。ま、まあ、そこらへんは、妻としての矜持よねっ!」
最後のツンデレが隠しきれないのがねねらしいが、みんなには感謝だ。今回は運良く上に上がれたけど、そうじゃ無い可能性も十分にあったからな。
「あのっ、あのっ、魔力といえば、ハクちゃんの魔力をなんとかしないとですね‥‥。私のスキルで、魔力を抑えたり、偽装させたりしましょうか、‥‥奥さんとしてっ!」
タミィちゃん、別に張り合わなくていいからね。
「タミィちゃんっ、ようやく良くなったのにダメだよっ。ここはアタシが『嫁として』なんとかするからっ!」
唯は嫁としてが言いたかっただけだよね。そういえば、ドラゴンハクの咆哮の時、フェリも一緒にスキル発動したって言ってたな。
「うんっ。もうとっさにフェリを抱えて『フェリは護る』って思ったときに、ガードウーマンの無敵10秒のスキルがフェリにも発動したんだよね。離れたら解けちゃったけど」
「ママにぎゅってしてもらって、ぴかってなった」
もしかしたら、ハクの咆哮でみんなが無事だったのって、唯のスキルの影響だったのかもな。
スキルの発動から、咆哮の威力が唯とフェリに向いて、その次にハクの近くにいた俺がタイミング的に強めの衝撃を受けたとすると、俺だけ吹っ飛んだ距離が遠かったのも納得出来る。
タミィのスキルは万が一の時タミィの負担が大きいからって言ったらシュンとしていたので、ありがとなって言って頭を撫でてやった。また、ドラゴン騒動になってもやだし。
呪力ではなく、魔力を抑え込んだり偽装したりする魔導具などは無いのだろうか?
ずっとひとりぼっちだったハクを、袋の空間に閉じ込めておくのは忍びない。
「シーフギルドあたりは持ってそうね。あまり出回らないと思うわよ♪」
「そうじゃな、人間の冒険者や獣人は魔力の量で優劣をつけたりするが、『装備すると増える』はあっても、減らしたり、隠したりするものは少ないであろうな」
ふむ、今まで現地人と腹を割って話す経験が無かったけど、勉強になるわ。特にこの二人が優秀なのもあるけどな。
ってか、シーフギルドなんてあるのね。盗賊とか忍者とかかな?義賊とかも居そうだ。暗殺とかもやってるのかな。
「犯罪者の集まった闇ギルドね♪お姉さん達がトップを捕まえたんだけど、頭をすり替えて活動を始めるから厄介なのよね。ダメよトモ君は、そんなところに関わっちゃ♪」
金が集まるところにアウトローが群がるのはどの世界も同じなんだな。
じゃあやることは決定だ。
「じゃあ、その闇ギルドを潰そうか」
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