第10話 アルビノドラゴンとスレイヤー

「GAaaaaaaaa!!」





 俺は、多分、はてなボックスの中だ。無意識に発動したようだ。すぐに解除する。俺は箱のまま壁に打ち付けられたようだ。


 ハクはドラゴンだった。警備隊員の男に斬られたハクは、ドラゴンに変化してその男を踏み潰した。

 姿を見る間もなく、俺たち全員、死んだと思った。その後の咆哮。フェリと穴に落ちる前の衝撃とは段違いだった。

 

 少しだが咆哮に当てられたか。頭がクラクラする。少しだが意識を失っていたかもしれない。

 

 遠くに白いドラゴンが見える。ハクだ。俺でもわかる。ものすごい魔力量だ。さすがドラゴン。


「い、一瞬で、ここまで飛ばされたのかっ」

 ヤバすぎる。200mくらいは吹き飛ばされたんじゃないか?少しだが服が少し凍っていた。冷気の魔力なのか。魔法なのか。

 

 一部の天井が落盤している。後ろではサンドライトの鉱山が崩れている。だが前回のように床は崩れていない。

 みんなは、無事なのか?土埃が舞い上がり、全く見えない。


「クソっ!!」

 ハクの、ドラゴンの近くに走る。ハクの1番近くには唯とフェリが居たはずだ。

 ハクが理性を失っていたとしたら、2人が、みんなが危ない。

 


「はくっ!おねえちゃんのいうことききなさいっ!」

「ハクっ!お願い、元の姿に戻ってっ!」


 ハクの正面で、フェリと唯が叫んでいる。近くには唯もいる。良かった、無事だったようだ。

 ハクは、2人を見下ろしているような状態だ。ただ、攻撃的な感じはしない。どちらかというと、落ち込んでいるようにも感じる。

 少しホッとした。

 

 唯のそばに駆け寄る。唯も俺に気がついたようだ。

「トモっ!良かったっ!あのドラゴン、ハクなのっ!斬られたあとハクがドラゴンにっ!」

 

 唯の頭に手を置く。

「ハクは、唯やフェリに対して、敵意を出してるのか?」

 今の状況を見る限り、フェリの言葉はハクに通じている感じがする。

「わからないっ!ハクが叫んだ時、フェリを抱えたまま、私のスキルがフェリごと発動して、2人とも飛ばされずに済んだのっ!

 それから、フェリが呼びかけている間は、あっ、うん。大人しくなってると思う」

 うん。唯もだいぶ落ち着いた。

 

 俺は、ハクに対して叫び続けるフェリの隣に進む。フェリの頭にも手を置く。

「ハク。わかるか?フェリおねえちゃんのパパだ。斬られて怖かったよな。でも大丈夫。ハク、フェリおねえちゃんと少しお話してみよう」


 フェリを見てから、ハクを見上げる。体長は5mくらいはある。ゲームでの知識より、なんだかキリンっぽい。

 フェリは怒った顔をして、ハクの表情はわからないけど、なんとなく、ションボリしている感じがする。


「フェリ、おねえちゃんは弟に対して優しくしなきゃ、ハクが悲しくなっちゃうぞ。

 ハクがフェリおねえちゃんのことを嫌いになっちゃうぞ。

 フェリは、ハクがおねえちゃんの事を嫌いになってもいい?」

「‥‥きらいになっちゃやだ」

「うん、そしたら、初めてハクに話したように、優しくお話してごらん」

「うん」

 

 フェリはドラゴンのハクに対して、優しく話しかける。

「はく、ごめんね。いうことききなさいっていって。おねえちゃん、はくといっしょにいたい。おいで。はくのことは、おねえちゃんがまもるからね」


 ハクが、上げてた頭を下げてきた。ほんと、ハクも頭のいい子だ。

 フェリがハクの鼻を撫でる。


「KyuuuuKyuuuuuu」

ハクの声が、優しい音に変わった。


「ハク、お母さんが来ない間、ずっと1人だったのかな?寂しかったな。これからは一緒にいよう。フェリおねえちゃんと一緒に居ていいんだよ。

 お母さんは待っててって言ってたんだよね。一緒にお母さんを探しに行こうか。大丈夫。お母さん、ハクが探しに行っても怒らないから。きっと、優しく抱きしめてくれるから」


 フェリが涙を流している。

「はく、おいで。フェリおねえちゃんは、いなくならないよ。いっしょにいよ」


「Kyuuuuuuuunnnnn」


ハクの声の音が、泣いているような音に変わった。フェリがハクの首元を撫で続ける。



 俺もハクに近づいて、まぶたの辺りを撫でる。ハクは、目に涙を溜めていた。大丈夫だぞ。俺が、お前を、みんなをなんとかするから。



 3人で、ハクに吹き飛ばされたであろうみんなを探しに行く。そんなに遠くないところで、警備隊の隊員を見つけた。みんな同じ方向に飛ばされたようで、地面に倒れていた。壁まで到達したのは俺だけだったようだ。

 

 体を揺すって声をかける。

「ウッ、ドラゴンが」


「大丈夫。もう居ないから。体は大丈夫か?」

 警備隊の男は、怪我は無さそうだ。他の隊員の介抱を頼む。


「トモ〜っ!こっちねねちゃんとネルミルさんがいた。まだ意識ないけど、大きな怪我は無さそう〜っ」

「パパ〜、いしのしたに、じいじいた。じいじのともだちもいた。はなせる」

 良かった、みんな無事そうだな。ねね達は大丈夫そうだ。サブリンの爺さんたちは、サンドライトの崩落に巻き込まれたか。意識はあるみたいだし、頑丈そうだから大丈夫だろう。

 

 とりあえず、唯の方に向かう。ねねとネルミルさんにかかったホコリを払っているようだ。

「唯、みんなに説明するとき、話を合わせてくれ。後でちゃんと説明するから」

「わかったっ!んで、簡単にはアタシは何をすればいいのっ?」


「唯は、ドラゴンスレイヤーになってもらうから」


「へっ!?」



 みんな体の欠損などの大きな怪我はなく、意識を取り戻した。

 

 おそらくハクが無意識で加減したんだろうな。近くにフェリが居たし。

 あの魔力でフルパワーで攻撃されたら、こんな鉱山吹き飛んじゃうんじゃないかな?

 

 驚いたのは、ねねが意識を取り戻したときに、「トモーっ!!」って泣きながら抱きつかれたことだ。

 おうおう、そんなに心配してくれたんだな。ねねはそう簡単に泣かないと思っていたから、なんか新鮮だった。


「さっきは、アタシに気を使ってくれたんだと思うんだよねっ!アタシがトモとフェリを迎えに走っちゃったから。

 

 ねねちゃんも大変だったんだからっ!トモからの手紙を見たときなんて、『びえぇぇ〜ん』って大泣きだったんだからっ!」


「っ!!もうっ!唯ピー、トモにはナイショって言ったでしょ!でも、本当に心配したんだからね。

 ってか、唯ピーの方こそ暴れるわ、ずーーーっと大泣きして鼻水ダラダラだったくせに!『いぐっ』とか言ってたよ、このエロ唯ピー」

 なにそのエロ漫画みたいなセリフ!ねねも照れ隠しの反撃はそのくらいにしてあげなさい。

 

 ねねに『泣くな』って書いたのは、冗談のつもりだったけど、心をもてあそぶ少し悪いことしちゃったな。

 


 骨折や擦り傷などの怪我は、ネルミルさんと警備隊員の治癒士が魔法などで治療している。

 

 火山警備隊の副隊長のヤマトさんを含めてドラゴンのその後を伝えた。


「あのドラゴンは、唯が倒したのでもう大丈夫だと思います」

 そう言って、下で拾ったマグマの石をフォブさんから受け取っていたサンドライトを入れる袋から取り出した。


「これがドラゴンの魔石だと思います。魔魔物だったので、唯がトドメを刺した後で霧のように消えていき、この魔石だけが残りました」

 うわあ、言っててスゴイ罪悪感があるが、持ち前の営業スキルで顔には出さず、気持ち悪いと評判のドヤ顔をしてみる。

 

 一瞬の静寂の後、他の警備隊員やサブリン爺さんの仲間たちから大歓声が上がる。

「鋼鉄の乙女!」「鋼鉄のドラゴンスレイヤー!」いろんな二つ名の大合唱だ。


「フェリもみてた。ママすごかった。ずばーんってきった」

 フェリも乗ってくれた。ただフェリ、唯は剣持ってなかったわ。

 

 事前に話しておいた唯は、

「いや~っ!フェリを護ることに必死だったんで、あまり覚えていないんですけどっ、このハワード商会のバックラーで叩いたら、バラバラっていっぱい血が吹き出して、もう大変でしたっ!」

 

 宣伝することを忘れない真面目な唯だが、もう少し話をすり合わせておけば良かった。

 返り血浴びてないよね?魔魔物だから倒したあと霧のように消えたって俺、今言ったよね。

 

 しかし、ポーカーフェイスだ。手品師はいつでも冷静なのだ。

「ママ、ひらっとえいってなげてどかーんだった」

 

 

 ポーカーフェイスだ俺。フェリ、ドラゴンは投げられないと思うよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る