第9話 心の雪解けと‥‥
「さっきの白い子か?」
「うん。ちいさくすわってる」
どうするか。相手は魔物だ‥‥‥
俺は、自分で思いっきり頭を叩く。バカ野郎だった。同じことをくり返す。フェリの時、フェリが生まれた日に自分で誓ったんじゃないかっ!
「パパ?」
「大丈夫。フェリ、産まれてきてくれてありがとうな。男の子のところに連れて行ってくれるか?」
「うんっ」
■
白い男の子は、湖のほとりに座っていた。フェリが言うように、膝を抱えて、小さくなって。俺とフェリは目で合図した。
フェリがゆっくり声をかける。
「だいじょうぶだよ、おいで」
事前にフェリと、男の子について話していた。
崩落前、フェリの言葉には素直な反応だった気がするけど、俺の声で警戒心が高まり、声を上げてしまった。そんな感じだった。
一緒にここに落ちてしまっていることからもそれが伺える。
「男の子に話しかけるのはフェリに任せる。時間は気にしなくていい。優しく、話を聞いてあげられるか?」
「んっ。わかった。やってみる」
□
「おいで」
男の子がフェリの声に反応した。
「いいこ。おいで」
フェリが座って声をかける。男の子が顔を、フェリに向けた。
「フェリ‥おねえちゃんっていう。なまえは?」
「‥‥‥ハク」
「はく。いいこ。おいで」
ハク、喋れるみたいだな。白い魔物はあった事がない。アルビノか?種族から迫害されてた可能性が高いな。
しかし、それ以上にフェリの成長に驚かされる。アドリブでいきなり『おねえちゃん』を名乗る度胸。
大きくなったなぁフェリ。そして、涙腺が潤み鼻水が垂れる。耐えられず感動で笑ってしまったよ。
その声に男の子がビクッと警戒する。フェリに睨まれる。鼻を啜るのを我慢しながら、片手で謝り、申し訳ない顔をフェリに見せる。
「ふふっ。だいじょうぶ。はく、おいで」
ハクがフェリに近づく。それを見たフェリも近づく。それを見た俺は鼻水が垂れ続ける。
「て、つなぐ。おいで、はく」
フェリが手を伸ばす。ハクがビックリしながら、手を伸ばす。
「‥‥‥お母さん、待っててって言った」
「じゃあ、いっしょに、まと」
「‥‥‥みんな、僕いらないって」
「フェリおねえちゃんは、はく、いらなくないよ」
「ここ、違うところ、お母さん来ない」
「じゃあ、いっしょにもどろ」
「‥‥‥うん」
俺はもう、前が見えないくらい、涙腺と鼻水腺が崩壊だ。
フェリとハクが手をつなぎながら、こっちに歩いてくる。
「フェリ〜、ハク〜、パパはうれじいじよ〜」
感極まって、2人をまとめて抱きしめてしまった。ハクがビクッとする。
フェリが俺の頭をポンポンする。ハクが不思議な顔をする。
「‥‥だれ?」
「ちょっときたないけど、これはパパ」
ひとしきり鼻水を出し切った。こんなに鼻水を出したのは初めてだ。
湖の水で顔を洗った。ふ~、手品師の弱点は涙腺でした。
フェリとハクが手を繋いで座って、こっちを見てる。黒と白だけどなんか兄弟みたいだな。
「ハク、こんにちは。フェリおねえちゃんのパパです。よろしくね」
混乱させないように、今はパパで通す。その後もフェリとハクの話を聞いていたが、お母さんを『ずっと』待っているんだろうな‥‥‥。
「‥‥‥」
「よしっ!ハクはフェリおねえちゃんと一緒に手を繋いでいるんだぞ。
『お母さん』が待っててって言った場所、どっちだかわかるかな?」
おそらく、警戒を与えてしまったキーワード、『お母さん』をあえて使ってみる。フェリと一緒の今ならば。
「‥‥‥‥」
「ばしょわかんないって」
よし。もう大丈夫だな。
「ハク、いいぞ。ハクはここが違う場所ってわかるんだな。いい子だ。偉いぞ」
「‥‥‥?」
おそらく、お母さん以外の仲間に『いらない』って言われ続けたんだろうな。辛かったよな。ヤバい、また涙腺がっ!
■
「フェリ、ハク、登れるか~」
登れる崖を見つけ、先に上のフロアーに上がった俺は、下の2人に声をかける。
「はく、だいじょうぶ?」
「うん。フェリお姉ちゃん」
フェリと手を繋いだハク。だいぶハッキリ話すようになってきた。元気になったかな?少しずつだけど、フェリの優しい気持ちが、ハクの心の氷を溶かし始めているのがわかる。
2人も登り終え、元のフロアーに戻ることができた。
さて、どうするか。ハクの言う『お母さんとの待ち合わせ場所』は、おそらく崩落した空洞なのだろう。
「とりあえず進んでみるか」
少し進むと、広いホールのような所に出た。あれ、ここはサンドライトを採取したところ?
「トモっ!フェリっ!」
唯が走ってくる。良かった、みんなも無事だったようだ。通知は伝わっていたようだ。
後ろには、ねねとネルミルさん、後は火山警備の人だろう。サブリンの爺さんも来てくれたのか。手を降って挨拶する。
唯が、フェリに抱きつく。
「ママっ!ただいま〜」
「おかえり、フェリっ!トモもっ!無事で良かったっ!!心配したよっホント!あれ?その子は?」
ハクは、フェリの後ろに隠れている。
「このこは、はく。おかあさんをまってるの」
■
ねねと、火山警備隊の副隊長と今までの事を話をした。
まず、崩落の原因となったハクの事はねねだけに伝え、落下の原因は曖昧にしながら、鉱山の下に地底湖のあるフロアーが存在すること。男の子を保護したこと。魔物が出なかったことなどを伝えた。
「アルビノかー。見た目が違うから同種族にも迫害されやすいのよね。魔物の変化なのか、人間なのか。
ここからは私の勘ね。おそらくあの子は、シュラス国の生き残りだと思うの。竜人ね。国が無くなってるわけだから、さてどう保護するかなんだけどね」
ねねの見解は正しそうだ。竜人か。竜人はドラゴンと人の子孫らしい。姿は人間と相違ないらしいが、ドラゴンの魔力を受け継いでいるそうだ。
あの時のは叫び声というか、もしかしたら魔力の咆哮だったのかな。
他の国には、竜人の生き残りもいるそうなので、ハクのお母さんの情報も出てくるかもしれない。
フェリに懐いているから、どうせだったら一緒に居てあげれればいいんだけどと伝えたが、国が絡むことなので少し難しそうだ。
地下のフロアーと、魔物が出なかった件に関しては、警備隊が後日調査を行うことになった。
サブリンの爺さんとも話をした。崩落現場の救出として仲間を連れて駆けつけてくれたようだ。感謝を伝える。
「ガハハ、いいってことよ。あんちゃんが埋まったって聞いて、生きた心地がしなかったぞ。孫娘に一生口を聞いてくれなくなるところだったわい」
ベテラン鉱夫のドワーフさんたちにもお礼をする。今度、美味い酒を振る舞う約束をした。
唯とフェリは岩場に座って話をしている。ハクも少し離れた岩場に隠れながら、フェリと、恐る恐るながら唯とも話をしているようだ。
唯は子供に好かれるんだよな。子供と話しているとき、弟を思い出しているのかもしれないな。
暖かく見守っていたが、一人の警備隊員がハクに近寄っている。何か雰囲気がおかしい。
「おいお前、何をしてるっ!?フェリ、ハクを
その警備隊は、腰の剣を抜き、振りかぶった。
ハクが斬られた。てめぇっ。
「あひゃひゃひゃー!ついに殺ったぞ!!コイツは変化したドラゴンだあっ!!これで俺もドラゴンスレぃ『グチャッ』
は?
ハクが、白い大きなドラゴンになり、その男を踏み潰していた。
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