第9話 心の雪解けと‥‥

「さっきの白い子か?」


「うん。ちいさくすわってる」

どうするか。相手は魔物だ‥‥‥


 

 俺は、自分で思いっきり頭を叩く。バカ野郎だった。同じことをくり返す。フェリの時、フェリが生まれた日に自分で誓ったんじゃないかっ!


「パパ?」

「大丈夫。フェリ、産まれてきてくれてありがとうな。男の子のところに連れて行ってくれるか?」


「うんっ」



 白い男の子は、湖のほとりに座っていた。フェリが言うように、膝を抱えて、小さくなって。俺とフェリは目で合図した。

 

 フェリがゆっくり声をかける。

「だいじょうぶだよ、おいで」


 事前にフェリと、男の子について話していた。   

 崩落前、フェリの言葉には素直な反応だった気がするけど、俺の声で警戒心が高まり、声を上げてしまった。そんな感じだった。

 一緒にここに落ちてしまっていることからもそれが伺える。


「男の子に話しかけるのはフェリに任せる。時間は気にしなくていい。優しく、話を聞いてあげられるか?」


「んっ。わかった。やってみる」



「おいで」

 男の子がフェリの声に反応した。

「いいこ。おいで」


フェリが座って声をかける。男の子が顔を、フェリに向けた。


「フェリ‥おねえちゃんっていう。なまえは?」


「‥‥‥ハク」


「はく。いいこ。おいで」


 ハク、喋れるみたいだな。白い魔物はあった事がない。アルビノか?種族から迫害されてた可能性が高いな。

 

 しかし、それ以上にフェリの成長に驚かされる。アドリブでいきなり『おねえちゃん』を名乗る度胸。

 大きくなったなぁフェリ。そして、涙腺が潤み鼻水が垂れる。耐えられず感動で笑ってしまったよ。


 その声に男の子がビクッと警戒する。フェリに睨まれる。鼻を啜るのを我慢しながら、片手で謝り、申し訳ない顔をフェリに見せる。


「ふふっ。だいじょうぶ。はく、おいで」

 ハクがフェリに近づく。それを見たフェリも近づく。それを見た俺は鼻水が垂れ続ける。


「て、つなぐ。おいで、はく」

フェリが手を伸ばす。ハクがビックリしながら、手を伸ばす。


「‥‥‥お母さん、待っててって言った」

「じゃあ、いっしょに、まと」


「‥‥‥みんな、僕いらないって」

「フェリおねえちゃんは、はく、いらなくないよ」


「ここ、違うところ、お母さん来ない」

「じゃあ、いっしょにもどろ」


「‥‥‥うん」


 俺はもう、前が見えないくらい、涙腺と鼻水腺が崩壊だ。

 

フェリとハクが手をつなぎながら、こっちに歩いてくる。

「フェリ〜、ハク〜、パパはうれじいじよ〜」

 感極まって、2人をまとめて抱きしめてしまった。ハクがビクッとする。

 フェリが俺の頭をポンポンする。ハクが不思議な顔をする。


「‥‥だれ?」

「ちょっときたないけど、これはパパ」



 ひとしきり鼻水を出し切った。こんなに鼻水を出したのは初めてだ。

 湖の水で顔を洗った。ふ~、手品師の弱点は涙腺でした。

 

 フェリとハクが手を繋いで座って、こっちを見てる。黒と白だけどなんか兄弟みたいだな。

「ハク、こんにちは。フェリおねえちゃんのパパです。よろしくね」

 混乱させないように、今はパパで通す。その後もフェリとハクの話を聞いていたが、お母さんを『ずっと』待っているんだろうな‥‥‥。


「‥‥‥」

「よしっ!ハクはフェリおねえちゃんと一緒に手を繋いでいるんだぞ。

『お母さん』が待っててって言った場所、どっちだかわかるかな?」


 おそらく、警戒を与えてしまったキーワード、『お母さん』をあえて使ってみる。フェリと一緒の今ならば。


「‥‥‥‥」

「ばしょわかんないって」

よし。もう大丈夫だな。


「ハク、いいぞ。ハクはここが違う場所ってわかるんだな。いい子だ。偉いぞ」

「‥‥‥?」


 おそらく、お母さん以外の仲間に『いらない』って言われ続けたんだろうな。辛かったよな。ヤバい、また涙腺がっ!



「フェリ、ハク、登れるか~」



 登れる崖を見つけ、先に上のフロアーに上がった俺は、下の2人に声をかける。

「はく、だいじょうぶ?」

「うん。フェリお姉ちゃん」

 フェリと手を繋いだハク。だいぶハッキリ話すようになってきた。元気になったかな?少しずつだけど、フェリの優しい気持ちが、ハクの心の氷を溶かし始めているのがわかる。

 


 2人も登り終え、元のフロアーに戻ることができた。

 さて、どうするか。ハクの言う『お母さんとの待ち合わせ場所』は、おそらく崩落した空洞なのだろう。

「とりあえず進んでみるか」


 少し進むと、広いホールのような所に出た。あれ、ここはサンドライトを採取したところ?



「トモっ!フェリっ!」



 唯が走ってくる。良かった、みんなも無事だったようだ。通知は伝わっていたようだ。

 後ろには、ねねとネルミルさん、後は火山警備の人だろう。サブリンの爺さんも来てくれたのか。手を降って挨拶する。


 唯が、フェリに抱きつく。

「ママっ!ただいま〜」

「おかえり、フェリっ!トモもっ!無事で良かったっ!!心配したよっホント!あれ?その子は?」

 

 ハクは、フェリの後ろに隠れている。

「このこは、はく。おかあさんをまってるの」



 ねねと、火山警備隊の副隊長と今までの事を話をした。

 

 まず、崩落の原因となったハクの事はねねだけに伝え、落下の原因は曖昧にしながら、鉱山の下に地底湖のあるフロアーが存在すること。男の子を保護したこと。魔物が出なかったことなどを伝えた。


「アルビノかー。見た目が違うから同種族にも迫害されやすいのよね。魔物の変化なのか、人間なのか。

 ここからは私の勘ね。おそらくあの子は、シュラス国の生き残りだと思うの。竜人ね。国が無くなってるわけだから、さてどう保護するかなんだけどね」

 ねねの見解は正しそうだ。竜人か。竜人はドラゴンと人の子孫らしい。姿は人間と相違ないらしいが、ドラゴンの魔力を受け継いでいるそうだ。

 

 あの時のは叫び声というか、もしかしたら魔力の咆哮だったのかな。

 他の国には、竜人の生き残りもいるそうなので、ハクのお母さんの情報も出てくるかもしれない。


 フェリに懐いているから、どうせだったら一緒に居てあげれればいいんだけどと伝えたが、国が絡むことなので少し難しそうだ。

 地下のフロアーと、魔物が出なかった件に関しては、警備隊が後日調査を行うことになった。


 サブリンの爺さんとも話をした。崩落現場の救出として仲間を連れて駆けつけてくれたようだ。感謝を伝える。

「ガハハ、いいってことよ。あんちゃんが埋まったって聞いて、生きた心地がしなかったぞ。孫娘に一生口を聞いてくれなくなるところだったわい」

 

 ベテラン鉱夫のドワーフさんたちにもお礼をする。今度、美味い酒を振る舞う約束をした。


 唯とフェリは岩場に座って話をしている。ハクも少し離れた岩場に隠れながら、フェリと、恐る恐るながら唯とも話をしているようだ。

 唯は子供に好かれるんだよな。子供と話しているとき、弟を思い出しているのかもしれないな。



 暖かく見守っていたが、一人の警備隊員がハクに近寄っている。何か雰囲気がおかしい。


「おいお前、何をしてるっ!?フェリ、ハクを 

 その警備隊は、腰の剣を抜き、振りかぶった。


 

ハクが斬られた。てめぇっ。

「あひゃひゃひゃー!ついに殺ったぞ!!コイツは変化したドラゴンだあっ!!これで俺もドラゴンスレぃ『グチャッ』



は?



ハクが、白い大きなドラゴンになり、その男を踏み潰していた。



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