第8話 救助へ(唯、ねね視点)
「まだ見つからないっ!?」
ねねちゃんが、鉱山に救助隊を派遣してくれている。今、その派遣隊と連絡を取ってくれている。
アタシは、いま、アットランド側の火山内管理事務所にいる。
あの時、何かの大きな声と音がして、鉱山内が一部崩壊した。アタシ達は無事だったんだけど、トモとフェリが崩壊に巻き込まれた。
ファブさんと一緒に、フェリが男の子を見つけたと叫んでいた方に向かったのだが、崩壊した岩が道を塞いでいて、2人は見つからなかった。
「トモーっ!!フェリーっ!!返事してーっ!!!」
アタシは泣きながら、訓練で10秒だけ動けるようになった無敵スキルで、岩を殴ったり、掘ったりして、岩の先の2人が居るところに行こうとした。
「行かないでっ!アタシを置いて、行かないでっ!」
スキルが一旦切れても素手で掘り進めて、周りのみんなに止められそうになっても、振り切って2人を助けようと
パシーンッ
誰かに頬を殴られた。
泣いたねねちゃんだった。
「唯っ!!やめなさいっ!!
さらに崩壊したら、ここにいるみんなを巻き込むのっ!そんなことを2人は望んでいると思ってるのっ!?
大丈夫。2人は大丈夫だから。
今、私達がやらなきゃいけないのは、サンドライトを持って帰って、タミィちゃんを治すことっ。
2人共、きっと大丈夫だから」
ねねちゃんがアタシを優しく抱きしめてくれた。ねねちゃんも震えてた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
アタシは、もう泣かないって決めてたのに。涙が止まらなかった。
その後、護衛のネルミルさんが「大丈夫ですよっ」って言いながら、アタシを支えながらここまで歩いてきてくれたんだと思う。
ずっとボーっとしていた。
ボーっとしながら、涙が流れていた。
あの、バリテンダー城での、みんな居なくなっちゃった時の事を思い出して、でもトモが居て、フェリが産まれて、怖かったけど、暖かくて、嬉しくて、もうずっと一緒だと、思って、たのに、
2人と一緒にいたから、ねねちゃんも、愛子さんとかもいっぱい仲良くなって、ねねちゃんも、トモの事好きで、一緒に、抜け駆け、しないって、話しして、娘としか今は、思ってないからって、フェリも、ママって、呼び間違、えた時の、弟みたいに、、
□
ずっと泣いて、涙が枯れた。でも、まだ泣いてた。泣かないって決めたのに。
ねねちゃんが、戻ってきた。ねねちゃんは強い人。ねねちゃんも泣いていた。辛いはずなのに、みんなの事を考えて、タミィちゃんのことも考えて。
あぁ、魔法使っちゃったから、石大丈夫だったかな?
ゴメンね、アタシ、タミィちゃんを治すために行ったはずなのに。
また涙が出た。
ねねちゃんに、魔法使っちゃったことを言ったら、アタシのとファブさんのはダメにしちゃったみたいだけど、他のやつは違うところに置いてあったから、大丈夫だったみたい。
ファブさんとアーノルドさんが、一緒に薬を作ってくれているんだって。
そうか。良かった、けどアタシはダメだなぁ。なんにも、出来なかった、
ゴメ、ンねタミィ、ちゃん。
まだ涙が止まらなかった。アタシの涙は、トモが、フェリが居ないと一生止まらないのかもしれない。
ねねちゃんがアタシのほっぺを両手で引っ張った。
「ふぇっ!?」
「今から、鉱山に2人を助けに行くけど、一緒にデートに行かない?」
「いぐっ!!」
「じゃあ、まずは顔を洗ってらっしゃい。そんな腫れぼったい目で会いたくないでしょ?」
「うんっ!!」
アタシは、顔を洗いに走った。ねねちゃん、ありがとうっ!!
涙は止まっていた。
「全く、こんな美女2人を泣かせるなんて、飛んだ女たらしなんだから。見つけたら、タダじゃ済ませないわよ、トモっ!」
★
「グァァァァァァァッ!!」
ねねは、トモが向かった方向から魔物の声が聞こえたのを確認した。スゴイ振動と魔力を感じた。その時、頭上の岩盤が崩落してきた。
「危ないっ!!」
隣りにいたネルミルが覆いかぶさり、私は、軽い擦り傷で済んだが、ネルミルは頭に怪我をした。
スキルで確認し、致命傷では無いことを知ったが、無理をさせないように「ありがとう、助かったわっ」と声をかけ、安全な所に運ばせ横にさせた。他のみんなは怪我など無く無事だった。
唯とファブは、トモとフェリちゃんの方に向かったらしい。
ネルミルをアーノルドとサムに任せて、ダイムラと一緒にトモのいる方へ走った。
唯がスキルを使って崩壊して埋まったのだろう岩を崩している。相当な落盤だ。
絶望した。腰が抜けた。崩れ落ちる前にダイムラに支えられた。
「大丈夫。大丈夫だから」
何が大丈夫なのか、わからないけど、唯が崩している岩の方に、おそらく、この先に、居た、居るであろうフェリちゃんと、ト、トモの方に、歩いた。
唯が叫んでいる。トモとフェリちゃんを、叫んでいる。
すぐにスキルが切れていて、素手で、唯の手は血だらけになっている。ファブが唯を止めようとして、ダイムラも加わって、それでも唯が暴れて。
私は、両手で自分の頬を叩き、唯の前に出て、暴れる唯の頬を叩いた。
ここで、私がしっかりしないと。
唯を、無理矢理説得して、ダイムラに連れて行かせた。
「強い人ですね、アナタは」
ファブに言われたけど、そんなに強い、出来た人間ではない。
「フフっ、私ってトラブル体質だからこういうのに慣れちゃっててね」
こういう所で、自分を上手く出せないちっぽけな女だ。
「原因が不明だし、この崩落が続くかもしれないから、一旦このまま帰還しましょう」
ホントだったら、このままここにいたい。でも、私がしっかりしないと、このままみんな、トモ、共倒れ‥‥だ。
岩の向こう側に、スキルを使ってみる。もしかしたらという気持ちで。そんな使い方をしたことがない。私のスキルは、対象が見えるか、感じるかで、その対象の怪我や病気の治療方法が視えるというもの。
死体はスキルが視えない。治療方法が無いからだ。
すぐそこにいるかも分からない。遠隔なんてやったことがない。でも以前、国の病気の治療方法が視えてしまったときは、想いが強まった結果だと思っている。
この想いは、どんなものより大きい。絶対だ。
「‥‥‥トモ」
視えなかった。また涙が流れていた。
でも、まだ、死んだわけじゃない。近くにいないか、私のスキルが間に物を挟むと発動しない能力なんだから。
スキルで鑑定した以上、今ここで、私に出来ることは無い。
ネルミルのケガは早めに治療しないと危ないし、唯のあの状態は危険だ。心が回復出来なくなる。
薄情かもしれないけど、ちょっと、待っででね。
すぐ、助けにもどってくるから。
手で目を拭い、待ってくれていたファブに声をかける。
「行きましょう」
帰還へ向け、足を進める。できるだけ早く、それでも安全に帰還する。タミィの治療薬を進めて、必ず助ける。
「慣れてなんて、ないでしょうに」
ファブがボソッと呟いて、ねねの後を追う歩みを早めた。
□
ネルミルのケガは、ポーションである程度回復していた。回復魔法は、サンドライトへの影響を考え、ここでは使わなかったようだ。
「ご心配おかけしました。ネルミル、問題ありません」
気丈に振る舞うネルミルの気持ちに応える。トモの、私の愛する人の今の状況は聞いているだろう。
「わかったわ。ネルミルは無理のない程度に、唯を支えて歩くように。後はファブ、指示をお願いね」
帰りのフォーメーションを調整し、全員で帰還を急いだ。先程まで異常なほど現れた魔物は、不自然なほど現れることがなかった。ネズミ1匹すら。
「やはり、何かが起きたのでしょうな。警戒はしつつも、早期帰還への移動を優先させましょう」
私に声をかけたアーノルドが、ファブへ進言を行い先頭に出る。
私の頭の中は、早く戻らないと、の想いでいっぱいだった。
管理事務所に到着した私達は、今回の報告、救助の要請、鉱山の調査チームの派遣手続きなどを進めていた。
ネルミルは回復魔法で完治することができた。休んでいいと言ったが、一緒に手続きの準備を進めてくれている。
ファブとアーノルドも手続きなど協力をしてくれていたが、火山警備隊の数が揃うに連れ、俺たちの出来ることをすると、タミィちゃんの治療薬の抽出に向かうと言ってくれた。
ありがとう、ネルミル、アーノルド、ファブ。
「まだ見つからないっ!?」
私は焦っていた。火山が休止期のせいもあって、救助隊がなかなか集まらない。
事故が起こった鉱山がシュラス国であることも原因だった。国が存在していないので、各国の同意が必要なため時間がかかる。
特に、エルフのストックウッドの承認は、連絡手段が限られていて、さらに国内の統一が薄い。
今回の、サンドライト採取のための入国許可でさえ、1年近くかかったのだ。
ならば、私達でで動くしかない。
すでに承認を得ている私達は、再度突入が可能だ。後は、全国で組織されている火山警備隊は、安全調査名目で入ることが可能だろう。ファブとアーノルドは、治療薬の抽出に向かったばかりだ。代わりの人間を立て、後日報告で乗り切るか。
鉱山に強い信頼できる人。ローズムーン家に相談をする。タミィちゃんの件もある。鉱山のプロであるサブリン様ならば、理解して動いてくれるだろう。後からの話のすり合わせもしやすい。
連絡を取ると、「ワシが行かんでどうするんじゃ」とサブリン様本人が来てくれることになった。サミィちゃんも来てくれるらしいので、2次被害は回避出来そうだ。2名のベテラン鉱夫を連れてきてくれることになった。
ネルミルはついてきてくれるらしい。「ねねちゃんの愛する人のピンチですから、ネッ♪」って、2人きりの時の口調で私を和ませてくれる。泣くな、私。
よしっ、これで6名。あと1人は決まっている。部屋に戻る。
唯が憔悴しきっていた。私の顔を見て発したのは、タミィちゃんの事を気にして、そんなことを、それ以上に聞きたい、でしょ、泣きながら。この娘はっ。
私は、グッとこらえた。
同じ人を好きになった、ライバルであり、親友みたいであり、私のほうがお姉ちゃん。
ほっぺを引っ張ったら、変な泣き顔で変な声を出していた。
「今から、鉱山に2人を助けに行くけど、一緒にデートに行かない?」
「いぐっ!!」
よしっ。乗り越えた。強い娘だなぁ唯は。
■
「セシリア王国の宮廷治療師、宇都宮ねねと言います。前聖女です。緊急で集まっていただきありがとうございます。これよりシュラスの鉱山の事故調査を行います」
火山警備隊の隊長に、挨拶を求められたので応えた。聖女だった事はあまり言いたくないのだけど、可能性が上がるならば何でも使う。
出発に向け、事務所の中で最終準備を進めていたとき、ナイショで薬指にはめていた指輪が動き出した!?
「何これっ!?」
指輪の形が気持ち悪い感じにうねうねしだして、何だか形を作り出した。
「ポ?」
何が何だかわからないまま、さっきまで指輪だった床に落ちた『ポ』を拾った。
ドアが開いて、大泣きの唯が飛び込んできた。
「ででぢゃんっ!トボがっ!!」
鼻水垂らしながら、私に抱きついて1枚の紙を見せた。
『唯、2人共無事、トモ』
腰が崩れた。良かった。ほんと良かった。
「ズズっ、うんっ!あっ!!ねねちゃんも『ポ』持ってるなら、ポケット調べてっ!!」
普通なら伝わらない言葉なのだが、トモが普通じゃないのは知ってる。
ボーゼンとしながら、制服の胸ポケットに違和感を感じに、手を入れると、覚えのない、紙が、入っていた。
その、紙を、開き、
「うえぇぇぇぇぇぇぇぇぇ〜ん」
私は、唯の腕の中で号泣していた。
『ねね、泣くな、トモ』
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