第7話 地底湖からの脱出
「パパ、パパ」
暗い闇の中、お腹の上にいるフェリの声で目を覚ます。気絶していたようだ。
「おはよっ。じゃあないな。鉱山で、男の子を見て落っこちたんだっけ?」
「よかった。しんぞうがどくどくしてた」
俺の心臓なのか、フェリの心臓なのかわからないが、2人とも生きてるってことで。とりあえず、フェリの頭を撫でる。
「さて、どういう状況だ?」
大丈夫。直前の事は覚えている。真っ白な男の子の姿をした魔物が、攻撃なのか、振動する叫び声を発したときに、床が崩れてその穴に落ちた。
運良く、フェリが近くにいたので、はてなボックスを消して。
あ、そういえば、箱の中のサンドライト鉱石を消しちゃったな。他のみんなは崩落に巻き込まれなかったかな?無事ならいいけど。
ではなく、ボックスを再度発動して、2人で中に入った。壊れないはずなので、相当落下しても無事だと思ったが、考え方はあっていたようだ。
「んで、今、地底湖に沈んでる訳ね」
剣穴から、見えるのは水だった。手を出す穴から水を触った。結構冷たい。長く浸かれば体力が失われる冷たさだ。水を舐めたが、毒などではなさそうだ。考えられるのは地底湖。
ただ、どれくらいの深さなのかがわからない。暗いので、透明度もわからない。
「フェリは、水のバシャーンって音から、何秒くらい落ちたかわかる?」
「‥‥ん、4ぐらい」
おー!ちゃんと数えられるんだな!うちの娘は天才じゃないかつ!!
「おー!!偉いぞフェリ!!ちゃんと数えられたな!!」
「えへへっ」
こういう事は、しっかり褒める!フェリは将来有望だ!東大を目指そう!
ただこのまま出れないとなると、東大に行けない。
俺、泳ぎに自身がないからな〜。
「フェリは、ママとお風呂でお湯の中に潜る練習とかしてる?」
「ときどき」
「どれくらいお風呂のお湯の中で潜っていられる?」
「いちばんながいのは300で、そのあとママがフェリをもちあげた。ママびっくりしたって」
それはスゴイっ!5分も!俺なんか1分潜れるかどうかだ。
そりゃ、唯も溺れたと思ってびっくりするよな〜って、前に唯に聞いた気もする。
きっと俺、その時は聞き流してしまっていたのだろうな。後で唯にちゃんと謝ろう。
無駄なことに集中してしまうと、自分の世界に入ってしまう俺の悪い所だなぁ。
ちゃんと言わないと、聞かないと、伝わらないのはわかっているのに、出来ていなかった。
みんなにも、心配かけてるだろうなあ。帰ったら謝罪行脚か。
さて、ここからは、絶対生き残る、帰るための脱出計画を練っていく。
どれくらいの高さから落ちたのかがわからない。上と同じ高さのフロアーだったとしたら10mぐらいかな。もし時速60kmで落ちたら、分速1km、秒速17m。
計算は、理系じゃないから全くわからん。こんなことなら実験しておくべきだった。
入水してから4秒で湖底に到着。速度が合っているなら水深68m。結構深い。速度次第ではもっと深いかもしれない。
箱の中の空気はスキルの影響で失くならないのに浮いてこない。底まで落ちている。浮力はこの箱には影響しない。
万有引力とか、空気抵抗とか、慣性の法則は違かったかな、そういうのは、考えないほうがいいのかもしれない。
服は着せたままでいいのか。フェリは、チューブトップと短パンだ。水中で重かったら脱ぐように伝える。
浮上速度と時間の計算なんて知らないが、フェリが5分以上潜れるならば、泳ぎの得意なフェリだ。水圧の影響もあるかもしれないが、浮力も働くはずだ。水面さえ分かればなんとかなるかもしれない。
ただし、水中に魔物がいた場合。これはわからない。
ちなみにこの世界には海がないので、あるのは各国に1つ有るか無いかの湖があるだけ。
魔の刻の後に訪れたセシリア王国とアットランドの国境にあるバリカル湖では、ワニの魔物に遭遇した。異世界ならではの動きで俺たちを翻弄した。日本での知識は役に立たない。
この地底湖に魔物がいたとして、大きい魚やサメみたいな魔物だった場合、いくらフェリが強くても水中での強さは、陸上での3割程度に落ちる。俺たちには、水中戦闘経験もない。相手は水中のハンター。
フェリを先に行かせて、敵に遭わなかった、もしくは倒せたとする。
無事に陸に上がり、俺がまだ下にいる、水中で敵に襲われ、俺の血が広がる。待っていられるだろうか?
先に行かせるか、先に行くか。
いや、この可能性は考えても意味がない。2人で確実に生き残れる、ハッピーエンドを考えろ。
情報が少なすぎて、正当法に確実性が求められない。そんなときはどうするか?決まっている。正当法以外で切り抜ける。
「フェリ、今から言うことを覚えるんだ。2人で生き抜いて、ママに『ただいま』って言おうな」
「うん」
■
「ぷはーっ!」
俺は水中に顔を出していた。手から火を出す。5m先に岸があった。そこまで泳ぐ。
「うっぷ、あと2m。ハァハァハァハァ着いた、ハァハァ死ぬ、いや死ねない」
水圧がすごかった。泳ぎ、練習しておくべきだった。カナヅチには5mもキツイ。ただいまを言う前に、さよならするところだった。フェリは、行けるだろうか?
辺りを見渡す。魔物はいなさそうだ。地底湖を見る。周りが暗すぎて透明度はわからない。
ファイアーマジックを発動。そして、あれだけ水面を溺れながら叩いたのに、水の魔物は寄ってきていない。
腰の革袋に入っている保存食の干し肉を千切って投げる。大丈夫。近くの水中に魔物はいない。ここはまだ時間をかけてもいい。フェリにも伝えてある時間、5分内にしっかり危険がないか確認する。湖に、拾った石を投げる。深さがわからない。
持ってるコインを投げる。コインの位置がわかるスキルが発現しないか?そう都合よくは発現しない。
カードマジックを発動。フェリのポケットに『だいじょうぶてきなし』の紙を送る。
スプーンマジックを使う。フェリの持っている指輪を変化させた。
「よし、これでチェリはポケットの手紙を読んだだろう」
30秒経った。はてなボックス解除。フェリが水中に放り出されたはずだ。
再度はてなボックス再発動。箱を水の中に落とす。1分後、水面に大きな空気の泡が上がってきた。「よし、まだかっ!?」
もう一度、空気箱を投入。
それから長く感じた1分。気が気じゃない。
「ぷはっ」「フェリっ!」「パパっ」
フェリが上がってきた。俺は手を伸ばして、上手に泳ぐフェリを捕まえ、岸に引き寄せる。はぁ、生きた気がしない。でも助かった。
「大丈夫だったか。ごめんな、怖い思いさせて」
フェリを抱きしめる。
「パパがだいじょうぶっていったから、フェリだいじょうぶだったよ」
「よかった。フェリが無事でよかった」
□
燃えそうな物を探したが、見つからなかったので、近くに魔物がいた場合に呼び寄せてしまうかもしれないが、光の石を割った。
この魔導具は、範囲は小さいが割った石が1時間くらい発光する。
俺とフェリが水中で行ったことはこうだ。
箱を解除して、2人とも水中に出る。即時、箱を発動して、フェリだけ箱に入れる。
俺は、浮かびつつ、息を止めながら水中脱出マジックを発動。このマジックは本人しか使えない。
目の前にカーテンが現れて、カウントダウンが始まる。10秒後に脱出、水中に顔を出していた。
5分間、安全確認、敵の確認をする。その状況を、カードマジックで文字を書いたカードをフェリのポケットへ送る。
スプーンマジックで、チェリが持っていた前に渡した指輪を変形。変形に気がついたフェリがポケットの紙を見る。
今回は、敵が居なかった。箱を解除し、フェリが水中に出る。水面がわかるように火を点け明るくする。
新たな箱を水中に落とし、水面の方向を教える。フェリは浮上しながら、落ちてくる箱と上手くすれ違えれば、蓋を開け、中の空気のを放出。息が続かないようならば、その空気の泡を吸えと言ってある。空気は水面に向かうので、それを目がけて上に泳ぐ。
100%確実な方法では無かった。最悪の場合はもう一度俺も沈んで、一緒に脱出をやり直すことも辞さなかったが、今回は運良く、たまたま上手く行っただけ。でも2人とも生きてる。
ほんと良かった。
■
明るくなったおかげで、近辺でマグマの残りカスみたいな大きな石を拾えた。これがよく燃える。おかげで服を乾かし、暖がとれた。
「さて服も乾いたし、本格的に帰り道を探すか」
「ママにただいまいう」
「そうだな。ただいまを言おう」
そういえば連絡を取り忘れていた。みんな心配しているだろう。
特に唯がちょっと心配だ。トラウマっていうのは、1年やそこらで克服出来るものじゃない。おそらく、『あの時のこと』を思い出して取り乱しているかもしれない。
帰ったら、3人でのんびりと旅行でも行きたいな。
トランプ紙とペンを取り出し、無事を伝える手紙を書く。
「1日1回だし、文字数が10文字しか書けないから、電報みたいな言葉になっちゃうんだけど‥‥‥っと、これで伝わるかな?」
信頼できる仲間だけにしか使えない、送れる人が限られるマジックだ。まぁそういうタネなんだろう。
続いて、スプーンマジックを発動。唯に渡したスプーンで作った指輪を思い出してっと、これかな?
「さて、スプーンの距離の問題は検証してないんだけど、届くかな?」
手紙を届けたのがわかるように、ポケットに入っているの『ポ』の文字に曲げてみる。
「うん、多分届いた気がするけど、『ポ』でわかるかな?唯のことだから、指輪はめてると思うんだけど」
あ、あとねねにも送っておくか。あの娘もああ見えて心配性だからな。
同じようにカードとスプーンのマジックを発動する。
「泣くなよ、って書いとくか。泣いてはないだろうけど」
さて、マジックは発動したので、2人には伝わったはずだ。
救助を待つか、自力で脱出するか。救助隊が来る可能性は低いだろうな。国の要人扱いのねねならともかく、俺たちはただの一般人だし、使い捨ての、毛の生えた程度の冒険者。
ねねがどう手を回しても、編成はされない。
フェリの見立てだと、魔物の気配もないみたいだから、そこまで危険はないだろう。
こういう場合って、風の通り道とか、光が差す方向に出口があったりするよね。しらんけど。
「さてフェリ、出口を探すか」
立ち上がり、湖から水を汲んで火を消す。マグマの石はまだ使えるのかな?持ってかえるか。
そんなことを考えながらフェリの方を見ると、一方を見つめていた。
「あの、おとこのこがいる」
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