第5話 二つ名と奇術と荷物持ちと

「シャキーンっ!!」


 新しい装備を腕に付け、ライダーみたいなポーズを取る20歳。その装備には、ハワード商会のロゴが印字されている。


「おー。ママかっこいい」

「でしょでしょっ!フェリがピンチのときはママが駆け付けるからねっ!」

 唯がフェリに先程のバックラーを披露し、決めポーズを教わっている。唯のテンションはMAXだ!

 決めポーズを指導するフェリのテンションもMAXだ!


「それにしても、まさか無料とはなぁ〜」



 時は少し遡り、ハワード商会での出来事はこうだった。


「もしかして、唯さんって、あの『鋼鉄の乙女』なんですかっ!?」

 マリリンとのバックラーの調整中に、唯がセシリア王国の勇者で、この国でも任務をこなしていることを話すと、すぐさま上司が呼ばれ、ハワード商会とスポンサー契約を結ぶことになったからだ。


 俺もビックリしていた。唯は、二つ名を持ちだったのだ。それも、結構有名らしい。そういえば、ねねもそんなことを言っていたっけ。


「アタシも恥ずかしいんだけど、周りからそう呼ばれているのは知ってたんだよねっ」

 恥ずかしながらも、なんだか誇らしげな唯。少し違ってしまったら、拷問具になることは黙っておこう。


 契約は、マリリンが専属でバックラーの破損箇所修復や調整などのメンテナンスをしながら、装備の使用感や改善点をデータ化し、商品の改良につなげる。

 そしてハワード商会の宣伝も兼ねて、ロゴを印字したバックラーを積極的に使用してほしいという内容だった。

 こっちにデメリット無い。ハワード商会も、唯の活躍でマリリンの知名度が上がれば、バックラーだけでなく売上の向上につながるという、お互いにいい関係とのことだ。


 俺、二つ名付いてないよね?要らないよ。



「二日酔いだ、頭痛い‥‥」


 昨晩は、サミタミ家の母方の実家であるバングー家に招待され、家長である久しぶりに会ったサブリン爺さんと飲みすぎてしまった。

 

「まさか今回のデートの内容が、タミィの治療薬の調達とはなぁ」

 以前よりだいぶ顔色の良くなったタミィとも顔を合わせた。タミィは、モジモジと顔を赤らめていたが、話を聞くと普段の生活は問題ないらしい。


 ただ、スキルの呪術が回復していないらしく、その回復には火山内の鉱山で採れる鉱石『サンドライト』が薬の材料として必要とのことだった。


「前に話しておいた気がしたんだけどなー」

 俺は聞いていませんけど。横を歩く宮廷治療師のねねさんが、首をコテンっと倒してからの上目遣いで、適当な回答を返してくる。

「タミィちゃん絡みって言ったら、私とのデートがメインじゃなくなっちゃうじゃない?」

言ってないんじゃん。

 

 まぁ多少の引け目があるので、タミィが良くなるなら協力は惜しまないけど。


 今は、火山内の元竜族領地シュラス国との隣接坑道を歩いている。火山内の通路は全ての国と繋がっていて、活発期以外は、許可があれば通行出来るようになっている。

 

 活発期はなぜ通れないかって言うと、マグマが通路を埋めるんだと。

「アタシ思ったんだけど、マグマが固まっちゃたら、その後は通れなくなっちゃうんじゃないっ?」

 昨日の夕食で唯が聞いていたが、思ったら負けだぞ。


 サミィから、「マグマは固まりませんわっ」って言われて、頭の上でハテナマークが浮かんでいた。

 ゲームだと思うしかないのだよこの世界は。俺はだいぶこういうのに慣れたけどね。


 今回のパーティは、ねね率いるセシリア王国側より宮廷薬師のアーノルドさん、宮廷鉱石師のファブさんと護衛3名の6名人と、俺たち3人の計9名。シュラス国に入る人数に、国の制限があるらしい。

 フェリと唯はもう随分先を歩いている。火山内は初めてだもんな。楽しいのはわかるが後半バテるぞ。あの二人は大丈夫か、若いから。


「ここまで順調だけど、魔物とか出るんじゃなかったっけ?」

 昨日食べた屋台のファイアーバードとかは鉱山に出現する魔物とかって言っていた気がするけど、今のところ護衛さん含めて、緊張感なく歩いているので大丈夫だと思うけど。


「ここはアットランドとシュラスを結んでいる坑道ですので、魔物は出ません。鉱山に入ると、ファイアーバードやファイアーラットなどの火系統の魔物が現れますが、そこまで強い魔物では無いので心配無いですよ」

 そう話すのは、宮廷鉱石師のファブさん。メガネをかけた30歳くらいの男性で、アーノルドさんも体格がいい方だが、ファブさんはさらに一回り大きいボディビルダー並の体格だ。

 重そうなツルハシを軽々と担いでいる。鉱石の鑑定や研究を主にしているらしい。肉体派研究者だ。


「『サンドライト』は、市場では出回りませんし、大きいものでも採取してから数週間しか効力が保存ができない鉱石なので、結構特殊なんですよ。

 シュラスでしか産出しないとあって、なかなか研究も進んでいないものなので、今回同席させてもらいました。ちょっとワクワクしてますワタシも」

 

 その後もこれ講義かな?という話が、ねねが注意してくれるまで続いた。興奮すると、話の止まらないタイプの方だった。

 

 竜族とその国であるシュラスは、1番最初の魔の刻で、完全に滅んだ国なので、ほとんど何も残っていないそうだ。

 しかしその滅亡の後、国々が今のような協力体制を取るようになったそうなので、「今となっては、有益な犠牲だったと考える人が多いのも事実ですけどね」って話していた。



「さて、ここからが鉱山になります。強くはないですけど、魔物が出ます。目的地は第4地域の採石場になりますので、気を引き締めて行きましょう」

「んっ」

「アタシも新しい武器を早く試したいっ!」


 片手で軽々ツルハシを掲げ、ヤル気みなぎるファブさんが号令をかける。

 戦闘民族かなって思われるうちの娘達がそれに続く。


「何もないのがいいんだけど」



 時々、いや結構な確率で遭遇する鳥、コウモリ、ネズミ、ウサギをなぎ倒し、地図を見ながら前に進む。

 そのほとんどを倒しているのは基本的に前のやる気あるあるグループの3人。

 その後に、腕を組まれながら進む俺たちと、少し後ろを無言でこちらを睨むアーノルドさんと護衛、後方に護衛の2名。


「でごたえなくてつまらない」

「フムフムっ!飛んでる敵にはフリスビーみたいな使い方も効果があるねっ!」

「目的地は近いですからね。楽しみですね」

 戦闘民族達は、それぞれの想いがあるようだ。


「なぁ、アーノルドさんがこっちをずっと睨んでるんだけど?」


「あー、あんまり気にしなくていいよ。生まれつき目つき悪い人だから」

 

 違うよねっ!生まれつきで眉間にあんなにシワよらないよねっ!っていうか、おっぱい押し付けすぎだよねっ!ホラ、睨み方が親の敵みたいになってるんだけど!?

 ねねが天性のパーティクラッシャーなのを忘れていたわ。

 

 アーノルドさん、ねねにベタ惚れかよっ!挨拶したときも「ウッスっ」しか挨拶してくれなかったから、無口な人かなと思っていたけど、大きな勘違いだった。よく見たら護衛さんもヤレヤレ顔だわ。

 

 これ、デートじゃなくて、確信犯的に巻き込まれたかぁ。腕に絡みつくねねに、耳打ちする。

「‥‥確信犯?」

「テヘっ」

 嬉しくないテヘペロを披露された。いや、ホント疲労させられている。



「うほー、着きましたよー!!」

 ゴリラの雄叫びみたいな到着の歓喜が聞こえて、前の3人に追いつくと、そこはほんのり光る岩場だった。


「これがサンドライトです。マグマの養分を吸って光っています。魔力や他の光を当てたりすると、鉱石の光が無くなるとただの石ころになりますので、採った鉱石はこの袋に入れて運んでくださいね」

 ファブさんは、たくさんの黒い布袋を取り出した。いくつでも入る魔法の袋とは違うみたいだ。


「1つの袋には1つだけ鉱石を入れてください。それも大きめの鉱石でお願いします。複数入れると石の発光維持時間が短くなってしまうので。

 帰りは、魔物が出ても魔法は使わないで魔法系以外の物理系スキルや物理攻撃で倒してください」

 魔法系の護衛が居なかったのはこういうことか。他の魔法と相殺しちゃうのだろう。


 持ち帰れる数も限られるな。確かに需要と経費、労力、審査の手間などを考えたら、これでは市場に出回らないだろう。

 あれ?そういえば、俺のスキルは魔法に含まれないんだよな。



 以前、ミレイさんに再度スキルの性質鑑定をしてもらった。


 この世界のスキルは、攻防系、強化系、補助系、生活魔法系etc、いくつかの系統に別れていて、ほとんどの魔力を使用するスキルはいわゆるMPを消費する。

 俺のスキルは『技術』に当てはまるらしく、MPを消費しない、悲しい現実を突き付けられたことがあった。

 

 マジシャン(魔法使い)を求め、マジシャン(手品師)だったのに、それすらマジック(魔術)ではなく、マジック(奇術)だったという、魔法を使える世界での悲しい戦力外通告。


 ちなみに、唯は強化系魔法スキル、フェリは擬態系、ねねは鑑定系に分類されるらしい。

 俺はと聞いたら、「えーと、娯楽系ですかね?」とニッコリ笑顔で言葉のナイフを突き刺したミレイさん。

 詰まった返事の「えーと、」と、最後の「かね?」が聞こえなければ可愛いな笑顔のミレイさんで済んだのに。

 

 結構な魔力は体内に持ってるから気にするなと言われたが、どう出すのかな?トイレに流すのかな?


「魔力切れすることなく、無限に使い放題ってスゴイよっ!」ってフォローしてくれた唯と、「コインの移動スキルで無限往復ビンタができますね」って言うねね。

 無限に放題しないから。そんでなにそのドSスキル。

「パパはすごいパパ」って言ってくれたフェリを抱きしめ心で泣いたよ。



 人体切断マジックのはてなボックスの中に鉱石を入れた袋を詰め込めば、俺ならば重さを感じずいっぱい運べるってことか?

 まだ腕にくっついている策士を睨んで見る。


「テヘっ」


 今日2回目をいただきました。デートじゃなくて「荷物運び」だった。



『面倒くさいこと回避』の隠しスキルが最近隠れっぱなしだ。

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