第4話 火山の街 アットマイン
「ここが火山の街アットマインですわよっ!」
フェリと唯、そして宮廷魔道士のサミィと一緒に街に到着した。ここは街の入口らしい。
サミィやタミィの母方の屋敷にも直接転移出来るのだが、俺たちがほとんどこの街から出たことがないことを伝えたら、「旅行気分だけでも味あわせてあげますわっ!」ということで、街の入口への転移に変更してくれた。
ちなみに、サミタミの実家には、ねねの鑑定治療時付き添いで1回訪問している。
その時は、サミィが唯に、俺がタミィにフライング土下座を披露した。
ここまでの道のりは、サミィの転移術で来たので一瞬だった。遠くまで来たのに全く実感がない。
普通だと、馬車で20日かかる道のりを一瞬で移動できるこの世界には、1年経ってもまだなれない部分はある。
まぁそんなもんだと割り切るしかないんだけど。
ちなみに転移魔法は、一般的にも使用されている。ただ、バカ高いから使ったことはない。あれは貴族や高級商人が使うもの。
空飛ぶ車なんてあるみたいだが、そんなものは見たことがない。
ねねは準備のため、夕食の後セシリア王国に戻った。明日の朝には合流出来る予定らしい。
「火山の街っていうから薄着で来ちゃったけど、あんまり暑くないじゃんっ!?」
うん、ごめん。昨日、「洋服何着ていくのっ〜」って唯に聞かれたとき、「火山だから暑いんじゃ無いの?」って言ったの俺だ。
フェリなんて、チューブトップと短パンではしゃいでるけど。
「今は休止期ですわっ。でも、もうすぐ活動期になれば、火山も活動しだして暖かくなりますわよっ」
なんか、この世界に来た当時にそんなことを聞いたな。
1年通して気温の変化もそれほど無く過ごしやすいから、季節感はあまり感じないんだよね。
■
「これっ、おいしっ」
「うんっ!タレの味付けが絶妙っ〜」
街を散策しながら、焼き鳥の屋台が出ていたので、食べ歩きをしている。
ファイアーバードの肉だそうだ。火山の鉱山には、魔物が住み着いているらしく、食材としても重宝されているらしい。
「こういうふうに見て歩くと、やっぱり火山近くのドワーフの国だねっ。鍛冶屋が多いよっ!」
火山で採れる鉱石の加工、魔物の討伐、ドワーフの技術と鉄を扱う意地。深淵側よりこの街のほうが人口も多い。
「ちょっと中、見ていこうか?こんな機会なかなか無いしね」
俺は武器を使わないが、唯の武器と、フェリのサブウエポンは良いものがあってもいい。命に関わるからね。
「それでしたらっ、ローズムーン家御用達の工房が近くにありますので、そちらにご案内いたしますわっ」
なんとっ!それはありがたい。でもお高いんでしょ?
良いものがあればだけど、まぁローズムーン家のコネでゴリ押ししてもらおう。使えるものは親でも使え。三矢家の家訓です。
■
唯とフェリが、上を見上げてあんぐりしている。
「ここですわっ!」
おいおいっ!デカすぎるだろっ!
「ここがローズムーン家御用達の、ハワード商会ですわっ!」
なんて言えばいいのだろう。百貨店かな?工房だよね?
工房って、ドワーフの親父が、「鉄の気持ちがわからないやつは出ていけ!」みたいな掘っ立て小屋みたいなところだよね。
地下とかに工房があって、弟子とか娘とかと2人でトンテンカンだよね?
「何していますのっ?入りますわよっ!」
あんぐりしながら入店する。
「「「いらっしゃいませ!!!」」」
うぉぉぉ!総勢20名ほどの、スーツの従業員が一糸乱れぬ30度のお辞儀でお出迎えです。
絶対違う。俺の鍛冶工房を返してくれ。
ハワード商会は、新進気鋭の若手鍛冶職人を多く抱え、職人同士の技術交流、最新設備の導入、既存の枠にとらわれない発想で鍛冶界を席巻する大商会らしい。
長くなりそうなので、武器を見せてもらうことにする。
■
「ふぁーっ!多すぎて、目移りするっ!」
唯が、ゴルフ場のキャディさんのような声を上げるのも無理がない。
工房なのに、展示された販売商品が多すぎる。
もう、諦めよう。時間がかかってもいいから、色々見て回ろう。
フェリと一緒に近接用のナイフだったり、遠距離用のボウガンの説明を受けていた。
「どうせだったら試させて貰うか?」
「うん」
フェリが試射室へ向かって行ったので、観覧場所へ移動していると、別行動で武器を見ていた唯が、飾られた1つの武器を見つめていた。
「何か気になったのがあった?」
「うん、武器ではないんだけどねっ」
同じ方向に目線を向けてみると、1つの盾が飾られていた。
「多分、バックラーってやつだね」
バックラーは、小ぶりの円盾だ。刺突などを受け流すのに特化した防具だ。
ただ、形状が斬新だった。
通常のバックラーより一回り小さく、刺突を逸らす表面は半球型だが、なんというかマイナスドライバー用のビスみたいな形になっていた。
「なんだか中途半端だけど」
そんな感想だった。
防御だけなら大盾でいい。刺突の敵は限られている。攻撃するなら、鉤爪、ナイフ、剣、槍でいい。でも、
「気になってるんだね」
「そうなんだよねっ」
多分、スキル職の『警備員』と『ガードウーマン』が関係しているんだろうな。
「いいんじゃない?直感って大事なのは俺が証明してるから」
そう。俺のスキル職手品師は、手品の知識より、こんなこと出来るんじゃないかなってのが発現して、窮地を救ってきた。
唯のスキルの成長、何が化けるかわからない。
「とりあえず、制作者に聞いてみるか?」
「うんっ!」
□
制作者を呼んでもらい、意図を聞いてみた。結構若いドワーフさん。名前は、マリリンさん。女性だった。
素材は魔鉄を使っているらしい。バックラーだが、中心に切り込みを入れていることで、剣などの攻撃を受け止め、上手く挟み込めば折る事も出来る。
丸みも残しているので、その部分で避けさせる事も可能。切り込みを尖らせていることで、ショートランスに近い殴りつけによる近距離攻撃を可能にした。
「面白いと思って手間ひまかけて作ったんですが、需要がなくて、制作物として飾りっぱなしなんですけどね」
マリリンさんはそう言っているが、目が輝いている人が俺の隣にいるんですよ。
「持ってみていいですかっ!!!」
マリリンさんも引くぐらいの圧をかける唯。
「結構ずっしり来るけど、いいっ!これっ!
あのっ!ここの持ち手って十手みたいにならないですかっ?」
「十手ですか?なるほど‥‥、ではカーブを少しつけて腕にも通せるような形はどうでしょう。となると、その時の、グリップも必要ですね。あとこんなのは‥‥」
「わぁっ!いいですっ!」
なんか、決まりそうだな。後は、2人に任せて進めて良さそう。
見に来ただけだったけど、将来的にもいい買い物になりそうだし。
そんな2人を遠目に見ていると、試射を終えたフェリが走ってきた。
「パパ、フェリのうつとこみてた?」
あっ、ごめん。忘れてた。
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