第6話 ぷるぷる三竦みと少年と

「ヨイショっと。では、帰りましょうー。皆さん準備はいいですか?」



 リュックみたいな袋を、背中、お腹側、両肩に担いだファブさん。スゴイよあんたの研究者としての執念。

 デカい石というか小さい岩だからねその大きさ。

 魔力を使わない手押しの台車とか無かったのか聞いたが、乱獲が起きないようにそういう道具は持ち込めないらしい。


 俺とフェリ、唯、護衛の2人がリュックを背負い、護衛さんは手にランプを持ち、アーノルドさんとねねが小さい袋を手に持っている。

 

 あと、サンドライトを詰め込んだはてなボックスを俺が運んでいる。とりあえず最大の大きさボックスには、頭サイズ程度の岩が入った袋が6個と小さめの石が十数個入った。

 そのボックスをフェリにも持ってもらったが、重さはあるものの運ぶことは出来るらしい。俺が運ぶように全く重さがない訳ではないが、これはこれで有意義な情報だった。

 ちなみに、箱の中身が無機物の場合は、解体されない。


 膝に矢を受けて冒険者引退したら、荷物運びで食ってくかな?


 ってかアーノルドさん、いやアーノルド、もうちょっと重いの持てよっ!ファブさんほど筋骨隆々ではないけど、その体格なら俺より体力あるだろ。

 ねねは、パワーアップしているはずの勇者なことを差し置いて、戦闘系では無いのでとりあえずしょうがないと思おう。


 アーノルドは、リュックぐらい持てるよね!?

「チッ」


 言ってないけど、伝わったよね?目線で。そして、舌打ちしたよね!?でも持たず。何しに来たのアンタ!?


 こんなアーノルドの護衛をしているサムさん、ストレスでハゲないように気をつけて。



 帰りも小動物系の魔物が襲ってきたが、荷物はあれど、行きの討伐で慣れた戦闘組が難なくこなしていった。


 俺は、ハァハァ言いながら、重さはないけどデカい箱を右手で担ぎ、パワーアップしたとはいえ重い岩を背負っている。

 なぜか左手にはねねが、小さめの袋2つを持って、「疲れたー」って言いながら体重をかけてくる。

 無口だと思っていたアーノルドに「聖女。貴女の荷物はオレが持とう。あんなヒョロ男に頼ることはない。俺を頼れ」って言われていたのに。


「ハァハァ、アーノルドがああ言ってるんだから、荷物を持ってもらうか、もしくはオンブでもお姫様抱っこでもしてもらえ。そして俺に体重を預けず離れて歩けよ、ハァハァ」

「またまたー、ハァハァ言って私に発情しちゃった?どうする?揉んでおく?」


 揉まないから、揉め事を起こさないよう気を使え。アーノルドが、怒りでプルプルしてるじゃねえか!ヒョロ男の、俺の足のほうがプルプルなのに!


「私の胸のほうがプルプルだと思うよ」

 プルプル三竦みは、ねねの勝ちでいいからっ!さらに寄りかかるな!アーノルドは変な薬を調合しようとするな!



 俺がギブアップしたので、途中で休憩となった。

 仰向けで大の字だ。体力回復ポーションを飲んで少し持ち直した。護衛のフェミルさんが冷たいお茶を持ってきてくれた。生き返る。


「ごめんなさい、体力回復の魔法はサンドライトに影響が出るので今は使えなくて」

 ネルミルさんは、ねねの専任護衛をしている女性騎士だ。可愛い系でクッ殺タイプでは無い。


「いえいえ、ホント助かります。ねね様が俺にまとわりついていなければここまで疲れなかったんですけど」

 そう、背中のリュックだけならなんとかなっていたと思いたい44歳で20歳の俺。

 ねねの密着と、アーノルドの怒りの圧力が俺を弱体化させていたのだ。最近の運動不足は関係ない。


「ねね様は、本当にトモ様が大好きなので、見ていてほんわかしてしまいます」

 うん。ほんわかしてないで、ねねの護衛を俺から離れたところでマンツーマンでやってくれれば俺は助かるんだけど、と言えない俺は、優しさを履き違えている。


 唯とフェリとねねは、3人でお茶と軽食の準備をしてくれている。ファブさん達男性陣は、このあとの予定を話し合っている感じかな。


 サンドイッチと紅茶で遅めの昼食を取りながら、ファブさんが予定を切り出した。

「何故か帰りの方が魔物の数が多いようです。サンドライトの重みもあるせいで、予定より帰還が遅れています」


「フェリもかんじた」


「確かにっ!数もそうなんだけどちょっと大きめの魔物が増えた気がするよねっ!」

 そうなんだ。全然気が付かなかった。行きには現れなかったイノシシや大蛇、大蜘蛛なんかも出てきて討伐に時間がかかっているそうだ。


「火山の活動期にはまだ早いので、中型の魔物がこう現れるのは、考えにくいのですけどね。我々の今の目的は、サンドライトを持ち帰ることです。ここからは、さらに注意しながら行きましょう。」


 休憩を終え、フォーメーションの変更があった。唯を先頭のまま、1番動けるフェリを少し下げて遊撃に。俺とファブさん、その護衛のダイムラさんがその下に入り、俺は箱で戦う。

 アーノルドとねねとネルミルさんが後ろで、殿に護衛のサムさんという、1−1−3−3のシステムでの、負けられない戦いがそこにはある作戦で進むことになった。

 

 監督のアーノルドはねねが近づいてというか多分俺と離れてご満悦だ。ねねは逆に不満を訴え、ネルミルさんになだめられている。

 監督の私情がモロに絡んだ布陣だが、ベスト16以上を目指すには、申し分ないシステムだ。


「アタシ、トモと一緒に戦うの久しぶりだから、張り切っちゃうねっ!!」

 と、警備員改めバックラー師となった唯は、スキルを使わなくても強かった。敵をいなす、殴る、潰す、投げて回転させて手元に戻すなど、無双だ。

 特に、投げたバックラーを手元に戻すやつ!ブーメランじゃないのにどうやって戻すのか聞いたが、「なんとなくやったら出来た」とのこと。


 天才肌と異世界が組み合わさるとこうなるのだ。

 慣れたと思っていたけど、まだまだ慣れてなかった。今後も異世界精進していきます。


 フェリも遊撃の役割として、敵を見つけての先制攻撃はもちろん、俺たちの方に敵を誘導してくれるので、ファブさんとダイムラさんの攻撃、俺の必殺箱潰しで撃退を続けている。


「敵の数、ちょっとどころじゃなくない?」

「そうですね。ワタシもこれはちょっと異常かと」


 ファブさんとイノシシの魔物を倒しながら、そんな印象を語っていたときに、フェリからの声が聞こえた。



「パパ、こっち、ちいさいおとこのこいる」


 声を聞き、顔を見合わせる俺とファブさん。多分同じ考え。


「この時間はワタシ達以外には誰も入れないようになっているのですが」

 そうだよね。こんな魔物が随時襲ってくるところに、小さい男の子1人ってのはおかしい。擬態などをした魔物の可能性だ。


「フェリっ!待ってろ。すぐそっち行くからっ!ファブさん、ここ任せます」


「わかりました、気をつけてください」

 

 すぐさま、フェリの声のする方に向かう。

 フェリを見つけたとき、小さい空洞の穴の方を指さしていた。


「このなか、おとこのこはいった」

「変身した魔物かもしれないから、気をつけながら確認しよう」


 フェリと一緒に、その空洞の中に屈みながら入る。襲ってきてもいいように、デカい箱を構えながら前に進む。


「いた」


 穴の中は結構広い空間だった。その突き当りに白い髪、白い服の男の子がいた。背丈はフェリと同じくらい。


「おいで」


 フェリが男の子に声をかける。


 分からないが、俺には人間に見える。皮膚が赤い。火傷だろうか?水ぶくれの跡みたいなものも見える。


「君は、どこからきたのかな?お父さん、お母さんとかは?」


 見た目に油断していた。



「グァァァァァァァッ!!」



 男の子が人間では出せない叫び声を発した。

「パパっ!!」


 その時、空洞の入口が崩れ、床が抜けた。

「フェリっ!!」



 一緒に落ちていくフェリを抱き寄せ、2人と男の子は、暗い穴に落ちていった。



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