第2話 バーンアウト

「アタシも聞いたよっ。でも全国的な大規模バーンアウトねぇっ?」



 テーブルで立てひじに顎を置いて俺に話しかける唯。

 唯は、半年前から先輩勇者の殿岡愛子さんに弟子入りして任務をこなしている。


 愛子さんは、魔の刻の時からねねさんの護衛任務についていた宮廷勇者だ。8年前に召喚されている。

 切符の良いアネゴって感じの人だった。「自称異世界最強勇者」。


 ねね曰く、「愛子さんが居なかったら、多分生き残って無かった」と言わせるぐらい優秀だ。

 長女だった唯にしたら、お姉ちゃんシンパシーが反応したのだろう。

 スキルもレベルタイプで、効果も似た雰囲気あるので、手本にしやすいのもあるのだろう。


 先月には、レベルが上がったらしく、「10秒動けるようになった」と言っていた。無敵の10秒だよね。チートスキル持ちが羨ましい。


 今日の調理当番は唯だったが、急な来客と、肉祭りの日なので、俺が肉を焼いている。

 ローストポークにする予定。黒オークの肉が安かったから、ちょっと奮発した。


「俺らはバーンアウト初めてだから、燃えるって言っても想像つかないけどな〜」

 肉のかたまりを転がしながら表面を焼き上げていく。


「そういえば、聖女ねね様は、どうしてこちらへいらっしゃったのでしょうか?」


 ねねは、フェリを膝に載せながら、一緒に絵本を読みんでいる。頻繁に、「ねねママ」を主張する聖女様。


 フェリにそう浸透させたいらしいが、フェリの中では、前回聖女騒動で初めて会った時に、「ねねお姉ちゃん」からスタートして、言いにくさから「ねねえちゃん」で固まってしまっている。

「ママ」は唯だけなのだそうだ。妥協して「ねねママ」を推し進めているらしいのだが、フェリは俺に似て頑固ないい子に育っている。

 あとで、シュガーパンでもデザートに作ってあげよう。


「もー!悪ノリしたのは許してよ!その口調と、聖女様はやめてー、もう!イジワル!!引退したし、今は宮廷治療師だから」


 ねねは、セシリア王国で聖女認定されてから、色々あったのは知ってるけど、宮廷治療師なんてあるんだ。

 まぁ調子に乗って、「国の鑑定治療」なんてしてしまったから自業自得だ。


 ねねのスキルは、鑑定治療というチートスキル。病気や怪我の治療方法がわかるというもの。

 本人が治療できるわけではないのだが、ヒーラーなどの回復師でも手の施しようのない病人や、未知の流行病なども治療方法がわかるという優れもの。

 敵の病気や怪我も見れるから、擬似弱点看破係としても役に立つ。


 聖女にされてしまったときは、流行病解決後、国の現状が病気や怪我などとして認識され、ねねが立て直し方法を助言したことが原因だった。


「だってあれは、見えたものをうっかり喋っちゃったからで、わたしもあんなに面倒くさいことになるとは思わなかったんだよ!」

 謁見の間で、うっかりも何もない。

 今はタミィさんの治療名目で、アットランドに滞在しているらしい。


「その宮廷治療師が、護衛も無しに出歩いていいものなのかね?」


「唯ピーが一緒だからね。結構唯ピーも有名なんだよ。模擬戦ではもう中堅の男性騎士なんかじゃ相手にならないくらい強いんだから。ファンクラブも出来てるしね」

ファンクラブなんてあるの!?


唯も「いや~っ!まだまだなんだけどねっ」とか言いながら満更でもない様子のニヤケ顔。

 そんなに頑張ってるのか。そのうち戦闘力は53万ですとかになってしまうのか。

 そんなことを気にするおじさんは銭湯力53です。


「みんな頑張ってるんだな~。鼻が高いよ。おじさんは料理を作りながら応援するぞ」


 蒸らし終わったローストポークを切り分けていく。旨味ソースを準備しよう。

 フェリがいつの間にか真下にいて、目の前でヨダレをたらしていたので、肉の端っこを食べさせてあげた。

 包丁で切っている間に手を出さなかったのは偉いぞ。


 そこそこ稼ぎ、美味い飯を食べ、適度に運動。余計なことに手を出さない。おじさんの処世術なのだ。



「タミィちゃんの〜、苦しんでいる〜、原因を〜、作ったのは〜、一体誰なのかな〜?かな〜?」


 うっ、この小悪魔は、どこかのアニメのヒロインみたいな語尾で、痛いところを。

 タミィさん、魔女っ子ツインズの妹さんは、俺のコインマジックによる解呪で、呪い返しを受けてしまった。

 それも、不可解な手順で解呪されたものだから、治療法が大変だって言うこと。

 不可解という点が納得行かないが。


 苦しむ中、泣きながら謝られて、おそらく俺に好意を持ってくれてる女の子に、「知らなかったんだからしょうがないじゃないか」とも言いにくい。タミィさんは悪くないしね。

 悪いのは、こういう自体を考えてなかった国とあの性悪エルフのセシルバンクルだろうが。


「ネネちゃん、タミィちゃんはまだ良くならないっ?アタシも原因の1つだから申し訳ないんだけどっ」

 ガックシっていう効果音がバッチリ見えるほど落ち込む唯。上がったり下がったり大変だな。

 

唯の解除時には、ある程度の権限を取り除いていたらしいのだが、よくなる希望が見つかったところに、さらに悪化した。

 これも、俺?俺のせいなの?


「わっ、わっ、唯ピーが悪いわけじゃない無いからね!ホラ、トモ!唯ピーに謝って!」

 とりあえず、唯は悪くないよ、ごめんねって謝ったけど、俺、謝る必要ある?とりあえず、謝るけどさ。


 小悪魔は、「今はトモを凹ませるターンだから、大丈夫よ」とか言ってるけど、そんなターンはありません。


「パパ、だめよ」

 フェリに言われた。



バーンアウト


 深淵の森の魔木全てが、突如として燃えだす現象。実際は、魔木が燃える訳ではなく、魔木が炎を纏って進攻してくる現象だそうだ。

 スタンピードと合わせて、人々の恐怖の対象になっている。


 通常ならば、1日で数メートル程度の進攻だが、バーンアウト時の森の進攻速度は、時速30キロ。スクーター程度の速度が出る計算だ。それも燃えながら。

 そもそも、魔木自体がとても硬く、通常なら伐採にも木工師の技術が必要なのに、その速度で迫ってくる木を切るなんてとんでもない。

 なので、バーンアウトの対処法は、


①避難をして火が消えるの(魔力が切れる)のを待つ

②水魔法で火を消しながら、一緒に迫る魔物を倒し魔木を伐採する


のどちらかになる。


 なので、この世界ではリスさんや高橋くんのような水魔法のスキルが重要視される要因になっている。


進攻距離は約100km程度。だいたい3時間くらい燃えているらしい。


 それ以外でバーンアウトを阻止できたのは、勇者タカオなどの一部の勇者だけだったらしい。

 あっ、勇者タカオは、勇者目手男のことね。メテオで全てを潰しきったらしい。流石、勇者界のデストロイヤー。


 ただ、バーンアウトは事前に把握ができる。今回の調査がそれだった。以前のバーンアウト時の魔木のサンプルを調べることで、数ヶ月以内でのの発生時期がわかるらしい。



アットランドはドワーフの国で、木を伐るよりも、それぞれが信じるものを創る、自然の摂理で死ぬなら運命だみたいな考え方の国民が多い。


 第1門の中の鉱山の街、アットマインの街のほうが人口も多いし活気がある。

 火山洞窟は、時々ドラゴン系の魔物も出るから一山当てたい冒険者にも人気の街だ。


 国の上層部でも成り行き派が多数を締め、伐採派は少数だ。今は、森の自然侵攻で第4門を越え、第3門との中間くらいまで深淵の森になってしまっている。


 伐採と魔物討伐で成り立っているこのアットサマリーの街は、この国1番の変わり者の街の街と言ってもいいのかもしれない。


 エルフの国、ストックウッドは、さらにひどく、国内がすでにほぼ森である。住民は森の中で、結界を張り生活している。

 まあそれぞれが自己理由で生きているっていうのは、俺は好きだけどね。



 まぁ後は、専門家(調査チーム)の結果を待って、専門家(討伐隊)にお任せするしかないんだけどね。


「さて、夕飯できたぞ〜、今日は肉祭りだ!」


「わ〜い!」

 ねねの抱っこを振り切って走ってくるフェリ。いっぱい買ったから肉はなくならないぞ。



「んで、(モグモグ)その、(モグモグ)宮廷治癒師が、うちになんのようで?」

 夕食を食べながら、ねねに訪問の理由を聞く。


「こらっ!食べながら話さないの。フェリがマネするでしょっ!ホラ、フェリ口にタレが付いてるよっ!」

「ママ、ふいて〜」

 ローストポークの甘ダレが口の周りにいっぱいのフェリをお世話する唯。もう、すっかりママが板についた。


「ふーん、いいなー。私もここに住んじゃおうかなー」

そんな様子を横目に見ながら、とんでもないことを言い出すねねさん。


「ああそうそう。今度、火山の治癒をしなきゃいけなくなっちゃったんだけど、みんなでアットマインまで一緒にデートしない?」


何そのデートの誘い?嫌なんですけど〜。


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