第19話 『マジックアシスタント』 別れと出会い
「森だ‥‥」
壁の外側、昨日、唯ちゃんとタバコを吸ったテラスから見える側、地平線まで荒野だったものが、見渡す限りが黒い木の森になっていた。
森の一部が城の中に侵食している。
「話に出ていた、深淵の森ってやつなのか?」
授業で見た地図の森は、世界の端っこ、確か『世界の果て』に近いところだけだったのに、一夜で全て森で埋め尽くされたのか?
深淵の森は広がるって言っていたが、この速さで広がっていたら、伐採が間に合わない。
魔物も住み着いていて、時々溢れ出すって言っていた。昨日のはそういうことなのだろうか?
「スタンピードってやつかな」
くそっ、何にせよ、武力が無いと生きにくい世界なのはわかった。
■
今、このテラスに、みんなの亡骸を運んでいる。
この世界の弔い方法がわからないのと、この異世界で、死体をそのままにした場合に、ゾンビみたいなアンデッドになってしまう可能性を考え、このテラスで火葬することにした。
「魔木は燃えにくいって、兵士さん、言ってたから、火事になることは無いよな」
遺体の運搬は、人体切断マジックのボックスに入れて運んでいる。
試してなかった重さなのだが、中に入っていても、ほとんど重さを感じずに持ち運べた。
「真ん中のボックスを押すときも、そんなに力を入れないでスライド出来たもんな」
唯ちゃんに試してもらったが、「アタシの力じゃ無理」って言っていたので、スキルの恩恵なのだろう。
なので、俺が運び役。唯ちゃんには、お墓に建てられそうな木の板みたいなものを、フェリと一緒に探してもらってる。
フェリっていうのは、あの魔物の仔猫の名前だ。
魔物の特性なのか、産まれて数時間しか経ってないはずなのに、体長が50センチを超えていた。
キミ、そんなに大きくなるほどミルク飲んでないよね!?
魔力とかが関係しているのかは不明。
名付け親は唯ちゃん。
昔、家族で見たミュージカルに出てきた、手品とダンスが得意な猫の名前の一部だそうだ。
俺の名前候補は却下された。聞いてもくれなかった。寂しい。
ちなみに性別はメスだった。
■
「こっち側も森になってるんだ‥」
唯ちゃんがフェリと一緒にテラスに顔を出した。
「‥‥こっちもってことは、壁を超えた方も?」
そういえば、今朝はバルコニーから外を見なかったな。
「うん。こっちほど全面じゃないけど、まだらに黒い木の森が広がってる」
森の中には魔物が住み着いてるって言ってたけど、新しい森だから魔物がまだ住み着いてなかったのかな?
でも寝ている間に魔物が侵入しなくて良かった。でもなぜ?
少し、俺の記憶と、唯ちゃんの話をすり合わせてみた。
あのめちゃくちゃ強い黒いやつ、あれは明かりが付いたときに消えたっていうのは、2人のとも同意見だった。
唯ちゃんはずっと目の前に居たみたいだし、俺は‥‥箱の中にいたからわからない。
黒いやつは何者か?
2人が残っていたのに、犬と猫の魔物はなぜ襲ってこなかったのか?
どうやって魔木は壁を超えたのか?
この世界は、まだまだわからないことが多すぎる。
■
遺体を一人ずつ並べていった。
村上さん、
結局、相談出来なかったです。
ねねさんに会ったら、最後まで勇敢だったって伝えますね。きっと惚れ直しますよ。
佐々木さん、
今こそ、僧侶の出番だろ。読経スキル、いつ使うんだよ。
みんなが天国に行けるよう、導いてやってくれ。お願いね。
北さん、
料理食べたかったです。
あっちでみんなに手料理振る舞って上げてください。
山本君、
山本君のおかげで、俺も唯ちゃんも激動の2周目の人生を楽しめてる。
事故は山本君のせいじゃないんだから、天国で3度目の人生を楽しんでね。
哀川さん、それと、職人軍団の皆さん、唯ちゃんは任されました。安心してお眠りください。
護衛の騎士、兵士、メイドさん、コックさん、他の皆さん、
3日間でしたけど、良くしてくれてありがとうございました。
頭をポンポンされてた。気がつけば、涙が流れてた。
歳のせいだな。みんなの涙腺の弱さがうつったんだ。
「ありがとう、大丈夫」
「うん」
「唯ちゃんも、お別れ済んだ?」
「うん」
厨房から持ってきた、油を撒く。
「ごめんなさい、こんな弔い方しか出来なくて。安らかにお眠りください」
ライターで火をつけた火種を放り投げる。
うをっ!!火がついた瞬間、物凄い高さの火柱が巻起こった!
「なにやったの!?」
唯ちゃんが慌てる。
いや、俺も慌てる。
骨も灰も一気に燃え尽き、空に舞い散り、キラキラした光とともに、みんなの顔が見えた気がした。
「‥‥なんか、みんなの顔が見えた気がした」
唯ちゃんも見えたらしい。
「もしかしたら、佐々木さんのスキルかもなー」
佐々木さん、俺たちのスキル、ちょっと希望通りではなかったけど、ここぞで希望をくれる。ハズレじゃなかったかもしれないや。
「ニャア」
■
さて、周りが森に囲まれて、サミィ先生の転移魔法絨毯もボロボロ。ここもいつ森に飲まれるかわからない。
唯ちゃんと話し合い、壁の内側の森の無いところを選んで、人が住んでる街を目指すことになった。今は、持ち物の確認中。
どれくらいの日数がかかるかわからないので、お城の備品を少し拝借させてもらった。
「当面の食料と塩、水、武器とかは持ったよ」
「アタシは着替とか。寝袋とかは無かったけど、軽めな毛布とか。あと、兵士さんが持ってた壊れてないランプとか持ったよ」
「ニャアッ」
「フェリもオッケーだってっ!」
フェリは、唯ちゃんの足元にスリスリしている。
言葉がわかるのかな?もういっぱしのアシスタント気取りだな。
その時、フェリが光出し、バニースーツならぬ、キャットスーツを着た少女に変身した!
「「えぇぇぇぇぇぇぇ!?」」
□
何故か正座させられる俺。
「なんでこんな子供にこんな格好をさせてるのっ!?」
猫娘フェリを抱きしめる唯ちゃん。
俺だって、全くわからないんですけど‥‥
やはり、少女はフェリだった。少したどたどしいのだが、会話が成り立つ。
キャットスーツとはいえ、全身ピッチリ真っ黒スーツのやつではなく、猫耳、網タイツ、バニースーツ猫のシッポ付きという、たとえハロウィンでも小学生低学年程度の女の子に着せるには犯罪臭漂う姿だったため、急遽、唯ちゃんが子供服のワンピースを見つけてきて、フェリに着させた。
話を聞くと、お腹が空いて鳴いていた所から記憶があるらしい。
魔物だからって、殺そうとしてしまった俺を止めてくれた唯ちゃんに感謝。『魔物から産まれた娘は天使でした』っていう小説でも執筆しよう。
あれ?そういえば‥‥カバンからあのときのメモを取り出す。
テレビで見たことのあるマジック箇条書きのリストだ。
‥‥‥これか。
『○寝ているアシスタントが浮く』
アシスタントの登録が出来る感じなのか?寝てないし、浮いてないけど。
そのうち、浮かせられるかもしれない。フラフープが手に入ったら練習してみよう!
しかし、とすると俺のイメージがあの格好にさせてしまったのも理由がつく。
アシスタントといえば、バニーガールは外せない!古いタイプの人間なので。‥‥すみません。
「‥‥申し訳ございませんでした」
ただただ平謝りである。
「‥‥ママ、パパをあんまりイジメちゃダメ」
「‥‥ま‥ま‥、ママっ!?」
真っ赤になる唯ちゃん。可愛いママさんだ。
しかし、0歳で喋れる我が子!このミサンガのおかげなのかもしれないけど、天才じゃないかっ!!うちの子は!!
「可愛いフェリ〜!パパは嬉しいぞ〜!もっとママに言ってやれ!」
「そこっ!調子に乗らないっ!!」
こうして、2人と1匹、改め、3人での元の世界に帰るための旅がスタートした。
〜序章 完 〜
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