閑話 山本走

 僕は、山本走。

 走ると書いてカケルと読みます。バスの運転手をしていました。


‥‥事故を起こした。


‥‥異世界転移。


‥‥手を引っぱられて



 歩きながら、みんなが、僕のせいじゃないから、気にしないでいい、と笑って言ってくれる。

 バスの乗客だけでなく、事故に巻き込んでしまった現場作業員のみなさんも。


 アあ、ソウナんだ。僕のセイジゃ無くテ、向コウのトらっクが悪かっタンだ。運が悪カッタんだ。運命ダったンだ‥‥


‥‥今でも、事故のことを思い出すと、納得する自分と、そうじゃない、よくわからない気持ちが混じって、気持ち悪くなる。

 三矢さんは、「山本君のおかげで、魔法の世界に来れて、ラッキーだったよ」って笑顔で言ってくれました。


 部屋で、リスさんにスキルの説明を受けた。説明を聞いて、心に決めたものがある。


回避が出来る魔法だ!


 出来レバ、事故ノ前ニ戻リタイ。時間ヲ戻シタイ。


 でも次からは、絶対に事故を起こさない、事故を回避してやる。僕の力で。

 そんな魔法を使って、この世界から事故を無くす!



そして、僕のスキルはこうなった。


スキル職 : 回避師

スキル  : 回避の盾


 部屋で試してみたけど、自分の50cmほど正面に透明な盾が出現した。

 色々、試してみたのだけれど、このスキルは、自分に向かってくるものが避ける効果があるようだ。


 壁に跳ね返ったボールが、盾に当たる前に横に避ける。

 自分から当たりに行く時は発動しない。でも、これで良かった。これでみんなを守れる。


モウヒトヲコロサナイデスムカラ。



 護衛である、騎士のハンスさんとのスキル訓練で、僕のスキルの有効性が実証された。

 ハンスさんが撃ち込む剣撃が、槍が、爆発の魔法が、僕の盾の前で避ける。

 問題は、後ろに回り込まれたときに発動が間に合わないこと。


スキルの使用回数がまだ少ないこと。

スキルのクールタイムが長いこと。

 これはらは、訓練を重ねていければ解決できるとお墨付きをもらった。


 全方向の盾でも出せるようになれば、ダメージを受けずに魔物を退治出来る。

 訓練終了間際には、一回り大きい盾を出せるようになった。



 部屋に戻り、今日の復習をする。

 ハンスさんは、イメージが大切だと言っていた。夕食まで練習を続けよてみよう。

 その時、部屋の電気が停電した。



「カケル殿ぉっ!!」

 手にランプを持ったハンスさんが部屋に飛び込んで来て、目がくらんだ。

「大丈夫ですっ!何があったんですか?」


「‥‥私にもわかりませんが、警戒してください」

 片手に剣を持ち、僕を護るような位置を取ってくれる。


「部屋の外に出ましょう。人の多いところの方がいい。警戒を続けて。盾を出しておいてください」

 スキルを発動し、一緒に部屋を出ようとしたとき、



ザシュッ



ハンスさんの剣が、何かを斬った。

「カケル殿っ!!この剣をっ!」

 ハンスさんは、持っていた剣を僕に渡し、腰の剣を手に取った。


コノ剣デ、ボクモタタカウノカ?

マタ、コロスノカ?


「っ!!カケル殿っ!!!」

 ハンスさんが魔法を使った。

 窓を破って、外から魔物が侵入してきていた。それも十数匹、まだ来る


「カケル殿っ!!! 走りま

 爪の長い、大きい猫が、ハンスさんの首を飛ばした。スキルの効果で、僕の目の前でその爪は避ける。



「ハンスさん?」


シンダ、マタ


「っ!!」背中を切られ

「がぁぁっ!!」痛いっ!背中を噛まれ


グチャ



下に落ちた

僕が。

床に。

足がない。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


持っている剣を振っていた

つもりだった

腕がなかった

背中を喰われている

肩をに噛みつかれた


死ぬのかな。

なんか冷静だ。


 大きい犬が、僕を咥えたまま窓から外に飛び出した。



‥‥マタ、守れな‥‥‥かった

‥‥ま‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥だ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥

「ガぁあアアあアああぁああああぁ」

 僕がいた‥‥‥みんながいる城が‥‥‥光った気がする‥‥‥






「ミンナ、ゴメンナサイ‥‥」

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