第17話 魔の刻 生

 どれくらい時間が経ったんだろうか。そして、この箱はいつまで保っていられるだろうか?

 俺はまだ、箱の中で仰向けの状態だ。音がしない。ただ、近くで嫌な感じはずっとしている。

 護衛を殺した魔物とは、違ったなにかだった。ヤバいヤバいヤバい。


 箱の解除はまだ無理。この何か、気配がない。なんの目的なのかもわからない。いや、少し違った。殺しに来ている。なんの目的で殺しに来ているのか分からない。


 相手は剣を、穴に刺した。魔物なのか、人間なのか。剣穴から見たときに、赤い光が見えた。眩しく感じない赤い光だった。一瞬で光が消え、剣先が迫った。

 普通の剣穴なら目に剣が刺さったはずだった。手品師スキルに感謝だ。

 

 何者だこいつは。ある程度の知能がないと、穴に剣を刺すなんて出来ない芸当だし、相当の技術研鑽がないとあの速度で剣をこの穴に一発で刺しこむことは、絶対に無理だろう。


 顔の近くの箱にある4つの穴の隙間から外を伺うが、何も見えない。

 体の箱には、手を出すことができる穴が開いているみたいだ。ただ、今手を外に出す勇気はない。


 箱の中にいても、酸欠にはならなそうだ。喉が乾いた。飲み物とかも持ってくればよかった。

 箱の内部の検証が出来るほどには落ち着いてきた。


 

 まだ時間の感覚がわからないが、今、電気が付いたようだ。各剣穴から差し込む光が愛おしい。


 しかし、これが、罠なのか、もう大丈夫なのかがわからない。


 今はまだ動けない。



 それから少し経った。すすり泣く声と、歩く音が聞こえる。

 女の子?敵の新たな罠?


 今ここにいるとしたら、唯ちゃん、北さん、食堂のメイドさん。後は、まだ居るのかわからないけど、リスさんと、サミィ先生、その護衛の女騎士達さんだけ。


 部屋に入ってきた。



「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 誰かが俺のボックスの上で泣いてる。これは、罠ではない。


「唯ちゃん」

 声をかけた。マジック解除。



「唯ちゃん」




「‥‥トモだあぁぁぁわぁぁぁぁぁ」


 覆いかぶさってきた唯ちゃんの震える体を抱きしめて、泣き止むまで背中をトントンし続けた。



「落ち着かないだろうけど、落ち着いた?」

 ヘンテコな言葉を、唯ちゃんに投げかける。

 

 唯ちゃんをベッドに座らせ、部屋の中にあいつがいないか確認した。廊下も顔を出して見回した。

 音はしない。気配もない。いないと思う。


 唯ちゃんは、手渡したコップの水を飲み干し、軽く頷いた。



 まず、俺の方から、停電が起きてからの経緯を、残酷な所は省いて伝える。

 唯ちゃんは、頷きながら聞いてくれている。


「そして、ここで、唯ちゃんに熱く抱きしめられたわけだ」


「バッ‥バカ言ってるん‥‥‥じゃないよ」

 少しだけ、からかった。状況的には不謹慎だつたかもしれないが、唯ちゃんも小さい声で「バカッ」って返してくれたので、だいぶ取り直したようだ。


「ちょっと部屋を変えようか」



 この部屋には、護衛さんの亡骸と血、魔物の肉や内臓が散乱してるので、隣の、確か空き部屋のはずのドアを蹴破って唯ちゃんの手を引きながら中に入った。


 部屋の間取りは同じだった。唯ちゃんを奥のベッドに座らせ、俺はソファーに座った。

 話を聞くのがいいのか、聞かないのがいいのか。もう、あの状況で、大体何があったかおそらくだが、理解している。


「唯ちゃん、何があった?話せる範囲でいいから」


 ポツポツと唯ちゃんが遭遇したことを話しだした。



 訓練後に、みんなと別れたあと部屋に戻って、北さんと待ち合わせて、大浴場に向かってたんだ。


 ホールに出たときに、いきなり停電になって、食堂の方で懐中電灯みたいな光がついて、北さんと一緒に、食堂の方に、光の方に走ったの。

 食堂には、ゴンさんとかみんながいて、サミィさんと護衛の人たちが集まってた。


 サミィさんが、「魔法、魔導具は使えますわっ!使える方は展開しなさいっ」って叫んで、兵士さんたちが光の石みたいの取り出して、だいぶ明るくなったんだけど、その後、窓が割れて、野犬と大きい猫がみんなを襲ったの。


 もう物凄くいっぱい。


 護衛の人と兵士さんたちが、私達を守ってくれていたんだけど、1人、1人と‥‥


唯ちゃんの言葉が詰まった。

「無理しなくていいよ」


「‥‥ううん、大丈夫」



 1人、1人と倒れていって、ヤスさんや、ゴンさんも、私をかばって、食べら‥‥‥‥ウッ、ウォぇぇぇぇ


 唯ちゃんに近寄って、タオルを渡した。

「もういいよ」



「‥‥全部‥‥話す。話させて‥‥お願い」



た、食べられちゃって、護衛の人が魔法使って、爆発が起きたんだけど、それでもまだ、いっぱいいて、

サミィさんが、「皆さん、わたくしの近くにっ!早くっ!!」

って、魔法なのかな、なにかしようとしてて、私も行こうとしたんだけど、足が動かなくって、北さんが引っ張ってくれて、そしたら、ぞじだら、



なんか黒い人が出てきて、き、北さんのくびがあぁぁぁぁぁぁぁぁ




唯ちゃんは、泣きながら、俺に手のひらを出して、

「大丈夫っ」て言ってる、気がする。





でらさんが、銃でいっぱい、いっぱい撃ってたんだけど、


哀川っちと、佐々木さんも、

3人とも、



別の黒いやつが首切って、




サミィさんが、泣きながら




「ゴメンナサイッ!」って言って、




周りの護衛の人と消えてて、


 











アタシだけになっちゃって












また黒い人が刀を振りかざして










そしたら、私のスキルが発動してて




ずっと、動けなかったの

ずっとあっち行けって言ったのに

ずっと前に居て

怖くて、

悔しくて、くやじい


あだじ、なんもでぎなくて

ずっと泣いて









電気が付いたの




黒い人も、生きてる犬や猫も居なくなってて、








みんな‥‥‥‥‥死んでて‥‥‥











北さんの首、くっつけたけど、



冷たくなってて‥‥‥








それから、あんまり覚えてないんだけど、トモ‥‥‥居るかなって‥‥‥







ぞじたら、なんか黒い箱あづで


トモ居て





うぇぇぇぇぇぇぇぇぇ







唯ちゃんに近づいて抱きしめた

俺も涙が流れてた





「頑張ったな‥‥」


「うぇぇぇぇぇぇぇぇ

いばのあだぢ、ぎたないよぉぉぉ」







「助けに行けなくて、、、ごめんな」









「うぅぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ



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