第16話 魔の刻 死

「えっ!?」



 太陽が消える暗刻と同時に、城の光、部屋の光、遠くの街の光も消え、完全な闇になった。


「何も見えない」

 タバコの火も消えている。ポケットからライターを取り出し、着火させてみるが火花さえ点かない。

 足元の床の触り具合は、さっきまでいたバルコニーで間違いない。場所を移動させられたとかではない。ただ、全ての光が失われた。


 初日は寝てしまい、昨日はスキルの検証中に夜になってたんだっけ?

 一昨日はわからないが、昨日は停電にはなっていなかった。今日が特別かなにかなのか?

 時間の感覚が無い。停電になってから、どれくらい経ったのだろう。


 部屋のドアが蹴破られた。光が見える。

「勇者殿!ご無事ですかっ!?」

 護衛の騎士さんだ。慌てて部屋に飛び込んでくれたようだ。手元には魔導具のランプを持っている。


「大丈夫です!今、そっちに向かいます」

 大声で返事をした。暗くなると声がを出したくなる。ホッとした。光1つで、こんなに安心できる物だと実感した。

 他の部屋でも、ランプが灯ったのか、外がぼんやり光っている。


「これ、何かあったんですか?」

 手探りで、バルコニー入口の外側に立て掛けた練習用の剣を持ち、部屋に入ろうとしたその時、護衛さんが倒れた。


「えっ?」

 護衛さんの首が飛んでいた。倒れた体でランプが壊れた。部屋の入口の外が、少し明るく見える。


その後は、声が出せなかった

ヤバいと思った


グルルルルッ

何かの音がした


動けない

何かが、近寄ってる


俺の手には剣

‥‥‥



人体切断マジック発動





‥‥絶対死ぬと思った。


 目が慣れたのと、外の薄明かりで、マジックボックスがぼんやり見える。

 箱が出たってことは、声のした何かが入ったはずだ。すぐにスライドさせ、おそらく犬か猫の魔物と思われるものを解体した。箱が消えた。

 

 その場にへたり込む。



 目の前で、護衛さんが死んだ。

 その時はランプで明るかったので、飛んだ首が見えた。


 足腰が立たない。剣を杖代わりに、無理やり体を立たせる。

 剣で受けていたらきっと、俺は死んでいた。さらに体が震える。


 部屋の外から、怒号と爆音が聞こえる。煙の臭いがする。


 体の震えが少し収まった。

「他の所も襲われ、戦っている」



 光の方に行きたい。部屋の外がぼんやり光ったままだ。みんなは無事なのか?人の居るところに行きたい。

 ライターを着火した。今度は火がついた。ライターの火を頼りに、耳を澄ませながら前に進む。

 


 さっきまでの戦闘音が、全く聞こえない。

「どうなった、何も、居ないか‥‥?」



‥‥‥



音がした‥‥気がした



無理だと思った


「人体切断マジック発動っ!」





 思えば出せるスキルなのだが、声を出していた。

 やったことは無かったが、自分の体を切断マジックボックスの中に入れた。


 何かがいた。見えなかったけど、確実に居た。再度、死を覚悟した。いや、もう絶望だった。

 魔力なのか分からないが、何かを感じ取った時、絶対無理だと思った。

 箱の中に隠れることが出来たのは、検証を進めていたから。想像を膨らませていたから。臆病だったから。運が良かったから。


 外から動かされれば、多分俺は解体されてしまうが、検証の中では、自分しか動かせない。だろうと思う。

 箱はある程度頑丈だった。だけど、どこまで頑丈かはわからない。

 いつまでこの中に居ることが出来るのかも分からない。

 まだ、外に何かがいるのかも分からない。


 廊下に近い辺りなので、剣を刺す穴からぼんやり光が見


ガゴッ

何かに箱を叩かれた!?



ドゴッ

ガタガタッ


 しまった。重さの検証をしてない。このまま、運ばれたり、投げ捨てられたりしたときはどうなるっ!?


‥‥


音が止んだ。


剣の穴から様子を伺う。

何かの赤く光る目があ


シュッ



俺の目に剣が刺さって来たけど、刺さらなかった



死ぬぅ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る