第15話 魔の刻 始

 二日酔いだ。頭痛い‥‥



 あの後結局村上さんに、絡み酒されながら、ネチネチネチネチネチネチ‥あーもう面倒くさい。

「私のスキルは『相談解決』ですから、何か女性関係で悩んでいるなら、相談に乗りますよ。ほら、飲みながら話しましょう。何があったんですか」

 酔った村上さんの絡み酒が面倒くさくって‥‥って言えるわけも無く。


 若返って男前になったんだから、2度目の人生、上手くやれよ!とも言えるわけも無く。

 サッとシャワー浴びて、朝食会場へ。



 異世界も今日で3日目か。今日も、目が覚めたら夢だった、みたいなことにはならなかった。

 会場には、リスさんとサミィ先生、護衛の数人が食事をしていた。タミィ先生はお休みかな?

 深い接触は身を滅ぼすため、軽く会釈して離れた席に座る。


 あ~、大浴場に行くの忘れた。今日の夜は、大浴場に入って足を伸ばしたいな。


 朝食後、いつもの研修会場に着いた。なんだか兵士や護衛の方々が増えたな。

 そういえばリリーさん、朝はいなかったなど考え事をしていたら、鎧姿のリスさんが登壇した。


「本日より2週間ほど、武術等の訓練を行っていきます。これは、魔物による被害を抑え、身体能力の底上げを目的とします。

 戦闘スキル持ちの勇者様方には、そちらも技術向上を目指していきます」

 なるほど。兵士や護衛騎士が多いのはそういうことか。


 勇者付きのメイドと執事の一時交代も告げられた。代わりに護衛が一人づつに付くようだ。

 もう一つ、ねねさんと、職人軍団のシンジ君、サクライさんの計3名が、謁見のため、王城へ転送されたらしい。

 村上さんが、ガーンって音が聞こえるぐらいの顔をしていた。



 午前中は、体力測定のようなものを行った。

 非戦闘スキルチームは、俺を含めて4名。村上さん、北さん、職人軍団から哀川さんだ。


 村上さんのスキル職は、法律家。税だけに絞らず、法関係の相談解決を第2の人生に選んだ。


 北さんのスキル職は、調理師。スキルは料理。家政婦としての経験をもとに、料理なら異世界でもやっていけるのではないかとのこと。


 哀川さんは、元58歳の測量士だった。外注で現場に来ていたらしい。

まぁ、こういうこともあるもんだ、と楽観的な性格らしい。

 スキル職は、レーザー測量士。スキルはレーザー照射。

 ガンダムみたいにレーザービームで敵を倒したりなどを考えていたらしいのだけど、職歴に引っ張られて、今は細いレーザーで距離を測ることしかできないらしい。

 ゆくゆくはビームサーベルで敵と交戦できるようになれればとのこと。


 なんと哀川さんも残念仲間だった。とりあえず握手を求めた。不思議そうな顔で握手に応じてくれた。

 北さん、泣かなくていいから。


 俺も自己紹介と経緯を説明して、右手のコインを左手に移動させた。

「以上です。よろしくお願いします」

 

 まだ、コイン付随や人体切断マジックはナイショにしている。

 まだ充分な検証が出来ていないし、なおかつ説明が面倒くさいからね。


 スキル披露後、3人から温かい拍手をいただき、涙目の哀川さんから、熱い抱擁をいただいた。

 村上さんも泣いてる。


 何この怪しいセミナー!?



 外の木陰で4人と、監督してくれた兵士さんとで昼食。壁の内側は普通の木が生えているので、そこでサンドイッチを食べている。


 午前中の体力測定は、驚くべき結果だった。

 これが勇者補正かというぐらい、体力、走力、投擲力など様々な分野で、地球での世界記録レベルだった。


 それでも、戦闘という部分では鍛え られた兵士さんには、全く敵わない。

 平均的な魔物でも、もっと強いらしい。


 ゴールのない距離を世界記録保持者がチーターと走った場合や、世界一のパワー自慢が巨大熊の群れと戦った場合、まぁ勝てない。

 さらにこちらは、スキルや魔法がある世界。身体強化の魔法1つでも、ステータスが倍になったりするとのこと。


 ゲームみたいに、レベルが上がったら、『力が5上がった』みたいなものは無いようなので、強くなるには地道な訓練と言われた。

 異世界無双するには、先は長いな〜。



「それにしても要塞みたいな城と、デカイ壁だな」

 外から見ると、結構立派な城と壁だった。

 壁の高さは10メートル。哀川さんが計測したので正確だ。

 マンションの3〜4階ぐらいまでの高さ。厚さもそれなりにある。


 兵士さんに聞いたら、魔木で建てられているそうだ。魔木は重くて燃えにくいらしい。魔木、オールマイティだな。

 城の方は、壁の内側とくっついていて、こっちは5階建てのマンションぐらいの高さ。


 ここは、深淵の森から数えて2番目の壁になるらしいので、このバリテンダー城が非常時の監視塔や備蓄倉庫を兼ねるらしい。

 これで防げない場合は、どうしようもないのではないのかと思ってしまう。



 午後は、剣の振り方と槍の構え方を教わり、日が出ているうちに本日の訓練は終了となった。

 自主練習のため、剣は持って帰って良いそうだ。刃は潰れている。

 

 城への帰りに、戦闘スキル組と合流。護衛の方々とマンツーマンで、スキルの使い方などを試したようだ。

 唯ちゃんが、「ヘヘっ。今度、アタシのスキル見せてあげるよっ」って、ドヤ顔をしていた。



 部屋に戻り、夕食まで何をしようかと考えて、壁にかけてもらった時計を見たら、あと少しで、夜になる時間だった。


「バルコニーで夜になる瞬間を見たあとに、大浴場に行ってみようかな」

 バルコニーに出て、タバコに火をつけ、太陽を見上げてみる。不思議だが、直視出来る太陽なので目を痛めない。

 昼間は丸かった太陽が、三日月みたいに細くなっている。なのに、明るさは変わってない。


 なんとも不思議な世界だが、サミィ先生の言っていた、そのうち慣れるしかないんだろうな。


 そうこうしているうちに、三日月、いや三日太陽が細くなり、そろそろ暗刻に切り替わろうとしていた。


そして、その瞬間。



 太陽の光も、城の光も、タバコの火も、全ての光が消え、完全な闇が訪れた。

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