第15話 魔の刻 始
二日酔いだ。頭痛い‥‥
あの後結局村上さんに、絡み酒されながら、ネチネチネチネチネチネチ‥あーもう面倒くさい。
「私のスキルは『相談解決』ですから、何か女性関係で悩んでいるなら、相談に乗りますよ。ほら、飲みながら話しましょう。何があったんですか」
酔った村上さんの絡み酒が面倒くさくって‥‥って言えるわけも無く。
若返って男前になったんだから、2度目の人生、上手くやれよ!とも言えるわけも無く。
サッとシャワー浴びて、朝食会場へ。
■
異世界も今日で3日目か。今日も、目が覚めたら夢だった、みたいなことにはならなかった。
会場には、リスさんとサミィ先生、護衛の数人が食事をしていた。タミィ先生はお休みかな?
深い接触は身を滅ぼすため、軽く会釈して離れた席に座る。
あ~、大浴場に行くの忘れた。今日の夜は、大浴場に入って足を伸ばしたいな。
朝食後、いつもの研修会場に着いた。なんだか兵士や護衛の方々が増えたな。
そういえばリリーさん、朝はいなかったなど考え事をしていたら、鎧姿のリスさんが登壇した。
「本日より2週間ほど、武術等の訓練を行っていきます。これは、魔物による被害を抑え、身体能力の底上げを目的とします。
戦闘スキル持ちの勇者様方には、そちらも技術向上を目指していきます」
なるほど。兵士や護衛騎士が多いのはそういうことか。
勇者付きのメイドと執事の一時交代も告げられた。代わりに護衛が一人づつに付くようだ。
もう一つ、ねねさんと、職人軍団のシンジ君、サクライさんの計3名が、謁見のため、王城へ転送されたらしい。
村上さんが、ガーンって音が聞こえるぐらいの顔をしていた。
■
午前中は、体力測定のようなものを行った。
非戦闘スキルチームは、俺を含めて4名。村上さん、北さん、職人軍団から哀川さんだ。
村上さんのスキル職は、法律家。税だけに絞らず、法関係の相談解決を第2の人生に選んだ。
北さんのスキル職は、調理師。スキルは料理。家政婦としての経験をもとに、料理なら異世界でもやっていけるのではないかとのこと。
哀川さんは、元58歳の測量士だった。外注で現場に来ていたらしい。
まぁ、こういうこともあるもんだ、と楽観的な性格らしい。
スキル職は、レーザー測量士。スキルはレーザー照射。
ガンダムみたいにレーザービームで敵を倒したりなどを考えていたらしいのだけど、職歴に引っ張られて、今は細いレーザーで距離を測ることしかできないらしい。
ゆくゆくはビームサーベルで敵と交戦できるようになれればとのこと。
なんと哀川さんも残念仲間だった。とりあえず握手を求めた。不思議そうな顔で握手に応じてくれた。
北さん、泣かなくていいから。
俺も自己紹介と経緯を説明して、右手のコインを左手に移動させた。
「以上です。よろしくお願いします」
まだ、コイン付随や人体切断マジックはナイショにしている。
まだ充分な検証が出来ていないし、なおかつ説明が面倒くさいからね。
スキル披露後、3人から温かい拍手をいただき、涙目の哀川さんから、熱い抱擁をいただいた。
村上さんも泣いてる。
何この怪しいセミナー!?
■
外の木陰で4人と、監督してくれた兵士さんとで昼食。壁の内側は普通の木が生えているので、そこでサンドイッチを食べている。
午前中の体力測定は、驚くべき結果だった。
これが勇者補正かというぐらい、体力、走力、投擲力など様々な分野で、地球での世界記録レベルだった。
それでも、戦闘という部分では鍛え られた兵士さんには、全く敵わない。
平均的な魔物でも、もっと強いらしい。
ゴールのない距離を世界記録保持者がチーターと走った場合や、世界一のパワー自慢が巨大熊の群れと戦った場合、まぁ勝てない。
さらにこちらは、スキルや魔法がある世界。身体強化の魔法1つでも、ステータスが倍になったりするとのこと。
ゲームみたいに、レベルが上がったら、『力が5上がった』みたいなものは無いようなので、強くなるには地道な訓練と言われた。
異世界無双するには、先は長いな〜。
□
「それにしても要塞みたいな城と、デカイ壁だな」
外から見ると、結構立派な城と壁だった。
壁の高さは10メートル。哀川さんが計測したので正確だ。
マンションの3〜4階ぐらいまでの高さ。厚さもそれなりにある。
兵士さんに聞いたら、魔木で建てられているそうだ。魔木は重くて燃えにくいらしい。魔木、オールマイティだな。
城の方は、壁の内側とくっついていて、こっちは5階建てのマンションぐらいの高さ。
ここは、深淵の森から数えて2番目の壁になるらしいので、このバリテンダー城が非常時の監視塔や備蓄倉庫を兼ねるらしい。
これで防げない場合は、どうしようもないのではないのかと思ってしまう。
□
午後は、剣の振り方と槍の構え方を教わり、日が出ているうちに本日の訓練は終了となった。
自主練習のため、剣は持って帰って良いそうだ。刃は潰れている。
城への帰りに、戦闘スキル組と合流。護衛の方々とマンツーマンで、スキルの使い方などを試したようだ。
唯ちゃんが、「ヘヘっ。今度、アタシのスキル見せてあげるよっ」って、ドヤ顔をしていた。
■
部屋に戻り、夕食まで何をしようかと考えて、壁にかけてもらった時計を見たら、あと少しで、夜になる時間だった。
「バルコニーで夜になる瞬間を見たあとに、大浴場に行ってみようかな」
バルコニーに出て、タバコに火をつけ、太陽を見上げてみる。不思議だが、直視出来る太陽なので目を痛めない。
昼間は丸かった太陽が、三日月みたいに細くなっている。なのに、明るさは変わってない。
なんとも不思議な世界だが、サミィ先生の言っていた、そのうち慣れるしかないんだろうな。
そうこうしているうちに、三日月、いや三日太陽が細くなり、そろそろ暗刻に切り替わろうとしていた。
そして、その瞬間。
太陽の光も、城の光も、タバコの火も、全ての光が消え、完全な闇が訪れた。
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