第13話 『人体切断マジック』 クセの強いチート

俺たちの戦いはこれからだっ!



 打ち切り漫画の最終回みたいな気分で、どうせ2度目の人生だ、ドーンとやってみることにする。


 そういえば、気絶していた時間も含めて、ずいぶん時間は経っているよね。何時なんだろうか?

 ドアを開けて、リリーさんを探してみたが、居ないようだ。


 そういえばリリーさん、ここでの普段の時間は何をしているんだろうか。他にも仕事があるのかな?

 聞いてみるか‥‥聞いたら聞いたで、屁理屈並べられて、部屋に招かないといけなくなりそうだな。


 うん。リリーさんは、仕事を頑張る忙しい人だ。


 さて、洗脳の解けた俺の行動は、何が正解だ?


どうする?


▶ばしょいどう


ヤス「どこにいきますか?

ボス「?


 バレないように調査を敢行する。色々見てみよう。新たなアイテムを取ったらフラグが立ち、今まで気が付かなかったことが見つかる。推理ゲームだとそんな感じだろう。ただ、行ったことのない場所に行くのはリスクが高いな。

 かかっていた呪いに、余計な行動を制限する、みたいな効果が無かったとは言い切れない。

 そうなると、食堂か会議室だな。


 まずは、食堂を目指してみる。行くぞ、ついて来いヤス!



 食堂に召喚勇者軍団は、誰も居なかった。

 夕食の準備なのだろうか。メイドさんたちが引っ切り無しに動き回っている。邪魔にならないようにしよう。ちょっと厨房を覗いてみる。


 コックさんが、魔物のイノシシの解体作業中だった。

 生魔物だったっけ。今日のメインディッシュかな?


「あの~、解体しているところを見学させてもらえませんか?」

 とりあえず、言ったもん勝ち。


「勇者様だか。邪魔にならないとこからならええべ」

 ありがたい。お礼を述べて、ちょっと離れたところから見学させてもらおう。


 コックさんは、手際良くイノシシの解体を進めている。流石はプロフェッショナル。

 きっと血抜きされているんだろうけど、血は出るんだね。

 もしも、冒険者になるのであれば、こういう知識も身に着けないとな。


 1頭目の解体が終了したようだ。あと5頭あるので、コックさんも大変だな。

 感心して見ていながら、ふと脳裏によぎった。


 人体切断マジックで解体とか出来ないのかな?



「うをっ!? 何だべっ!?」



 叫び声を上げたコックさんを見ると、解体を始めようとしたイノシシが置いてあった場所に、テレビで見たことのある『はてなマークの箱』が現れた!!



人体切断マジックの箱だっ!!


 マジかっ!!ここでスキル追加するものっ!?

 自分ではわからないが、相当変な顔をしていたのだろう。


「これアンタのスキルダベか?変な顔してないで、どかしてけろっ」


「あっ!はいっ!お邪魔して申し訳ない」

 と言っても、消し方がわからん。


 とりあえず近づいて、箱を触ってみる。イノシシ1頭に対して、箱が3分割されていた。



「多分、真ん中が動くよな‥‥」


 真ん中の箱を動かしてみる。力を入れることなく、スライドした。

 そして、箱が消えると同時に、イノシシが部位ごとに解体されていた。



怖っ!!ナニコレ!?


「おぉ!便利なスキルを持ってる勇者様で」

 今回は、いや〜知ってましたよ、ほんと。みたいな表情ができたと思う。初見だけど。2回も変な顔は見せない。これがサラリーマンの心得。ここまで来たら、検証させてもらおう。



「他の4頭も、解体しちゃいましょうか?」

 聞いたコックさんも、こりゃ手間が省けると解体を任せてくれた。


Win-Winな関係が、ここに成立!



さて、実験スタートです。


 次のイノシシに、人体切断マジックをイメージする。同じようにはてなマークが描かれた黒い箱が現れた。


「このまま箱を解除出来たらどうなるんだ?」


 とりあえず、解除をイメージ。箱が消え、箱に入る前の死んだイノシシが現れた。


 続いて、全部のイノシシに対していっぺんに人体切断マジックをイメージ。


 変化なし。そうは問屋が卸さない。


 続いて、1体に人体切断マジックを発動。箱の仕組みの検証に入ります。

 

 さて、箱の側面にある穴。剣を刺す穴だよな。1面に1箇所ずつありそうだ。

 ここに、刃渡りの長い包丁、確か柳葉包丁だったかな?を、イノシシの頭の部分の箱の4面に差し込んでみる。

 これも力を入れる事なくスット奥まで刺さる。とりあえず、抜いてから解除。


 イノシシの頭部に今の包丁キズは無さそうだ。


 他にも、剣を刺したまま解除、剣を指して真ん中の箱を動かす、真ん中の箱を棒で押す、穴に棒を刺すなど、コックさんに「何やってんだべ」と言われるまで検証を重ね、残りを解体させた。

 コックさんには、おかげで他のことがはかどったと感謝され、今日の夕食には、手伝ったお礼として、希少部位の美味しいところを出してもらう確約を手に入れた!!


Win-Win-Winではないかっ!!



部屋で、検証結果をまとめる。


①人体切断マジックを発動させるには、およそ5m以内の範囲出ないと発動にならない。箱は1つのみ。


②真ん中の箱は、直接触らないとスライドしない。手じゃなくても体の一部ならば動かせる。スライド方向は、向かって右から左の一方向。


③スライドしたあとに解除すれば、部位ごとに解体される。スライドした後でも、解除せず元の位置に戻せば、未解体となる。


④箱にある剣の穴には、刃物以外は入らない。釘なども入らなかった。剣を刺しても中のイノシシは傷がつかない。


⑤箱自体は頑丈。どんなに叩いても壊れない。(どこまでが壊れないかは未検証)


⑥10分くらいは、そのままにしても箱は消えない。(最大時間は未検証)


テンションが!!ちょっと!!

チートじゃないっ!?これっ!?


 だいぶクセが強くて、まだまだ検証が必要だけど、なんか戦いはこれからな感じがしてきたっ!


 次は、生きた魔物での実験がしたい。中から壊されない可能性に賭けたい!

 とりあえず、この興奮をどうにかせねば。落ち着こう。一服しよう。


 バルコニーに出ると、外は真っ暗だった。



「夜になる瞬間、見逃したわ」

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