第12話 考察と勇者目手男
「は~。空って広いな〜」
部屋に備え付けられたバルコニーで、タバコをふかしながら、少量の現実逃避に身を委ねる。
「こっち側だと遠くに町並みが見えるんだな〜」
さっきの先生の説明だと、ここは4つめの壁と一体になった城って言ってたな。
横の建物が邪魔で壁は見えないが、振り返って上を見上げると、洋風な城の一部分が見えた。
さて、気合い入れて、なぜ『呪い』をかけられていたかと、今後の『呪い』は解けたけど、解けていないと見せかける演技と立ち振舞を考えよう。
まずは、なぜかけられていたかだな。
〜考察1
まずは、なぜ『呪い』をかけていたのか?
まあ、これは、突然、勝手に誘拐された俺たち勇者の反乱・反発を防ぐためだろう。後は、転移の説明含めてただ言い聞かせるには都合がいい。
このまま『洗脳』を続ければ、従順な戦力が手に入るわけだし、国内に留めておくことも出来るわけか。
愛国心みたいなものを植え付ければ、特攻部隊としても利用出来る。
ハニトラも、そういう理論だろう。きっとリリーさん達は、詳細は聞いていないんだろう。そう思いたい。
〜考察2
次に、誰が『呪い』をかけたのか?
こっちは、そんなに深掘りしなくてもいいかな。
どう考えてもセシリア王国の関係者だろうし、物凄く頭のいい人物が裏で手を引いている気がする。
今までの勇者召喚の経験と研鑽で対応マニュアルもできているだろうし。
あんまり気にしすぎると、虎の尾を踏みそうだ。
〜考察3
このあとどうするか。
基本的に今まで通りを推し進めよう。ただ、不自然ではない程度の情報を集めるくらいは必要か。
その都度、効果的な行動を心がけよう。
〜考察終わり
後は、俺が『呪い』を解除してしまったことがバレているかどうか。こっちは微妙なところ。
よく聞く創作話だと、呪いを返すと、呪った当人に戻るとかよくあるから。
人を呪わば穴二つ。そんな諺もあるぐらいだし。
ただ、俺が解呪したってピンポイントでわかっていたら、気絶している間に拘束か再洗脳されているだろうし、今もここでタバコを吸っていられないだろう。
『17番、確保っ!』みたいな未来を迎えないよう、頑張ります。
とりあえず、ミサンガは左手首で固定だな。
それと、他人のゼッケンを注視しないこと。チラ見をしよう♪そうしよう〜♪決〜まった~♪
そして、俺より(確定で)小さいであろう番号に、ショックを受けないようにしよう。
不自然さを出さないように、王国関係者との接触は出来るだけ回避しよう。
そして1番大事なのは、手品師の『コインマジック』以外のスキルを見つけることだろうな。
リスさんが話してた過去の勇者のスキル、癒やしの乙女はわからないが、メテオ使いの勇者は、『メテオのスキルだけしか使えません』ってことは無いかったはず。
スライムを1匹倒すのに『メテオ』
ゴブリンを1匹倒すのに『メテオ』
『勇者 目手尾は、迷惑者、破壊者、デストロイヤーの称号を手に入れた』
英雄譚にはならない。
もしパーティを組んで戦闘してたら、毎回毎回のメテオは他のメンバーの迷惑でしかなく、
『泥だらけの挽き肉と、粉々の魔石を売って食いつないでます。
他のパーティの獲物も巻き込んて潰してしまったことは反省してます。
森の中のクレーターは、仲間が埋めてくれました』
地ならしの聖女が苦言を呈する。
「もう目手男の穴埋め(物理的)をしたくないから、今日で追放ねっ!」
最近流行の追放ブームの先駆け的存在だ。
逆に、駆け出しの少年冒険者を連れ回して、
「このっ!地面を埋めることしか出来ない能無しがっ!ここ、ダンジョンの最下層で追放する!お前もろとも、ダンジョンを埋めていろっ!」
クソ勇者、辞めて男だった。
話が逸れたが、せめて、ぷちメテオぐらいは使えるようになっていたはずだ。
今のうちに、手品師の技を思い起こしてみるか。
■
部屋に入り、俺が披露したことがある、またはテレビなどで見たことがあるマジックを箇条書きしてみる。
○スプーン曲げ
○カードマジック
○コインすり抜け
○コインが消える
○折った千円が1万円に
○リングがつながる
○シルクハットから鳩を出す
○ステッキが花束になる
○人体切断マジック
○寝ているアシスタントが浮く
○切ったロープがつながる
○投げたものが空中で燃える
○剣を飲み込む
○ビルや建物を消す
○鍵を開けて水中から脱出
○相手の思った事がわかるやつ
○耳が大きくなる
あー。こんなことになるならば、転移前にもっと手品を勉強しておけばよかった。
神様〜、こうなるよって事前に教えておいてくれよっ!
とりあえず、この中で、この異世界で戦力になりそうなものは、
○コインが消える
○人体切断マジック
○投げたものが空中で燃える
○ビルや建物を消す
○相手の思った事がわかるやつ
この5つかな。
せめて攻撃が出来そうなマジックをピックアップしてみました。
攻撃が出来そうなマジック、っていう考え方からして、もうすでに間違っているのだが、気にしない。
次点で、
○折った千円が1万円に
○シルクハットから鳩を出す
○寝ているアシスタントが浮く
○鍵を開けて水中から脱出
こっちは補助的なもの。
錬金術士、テイマー、飛行術士、シーフ‥‥もどき。
でも、手品師よりずっといい。
待てよ。補助的と書いたが、折った千円札が開いたら1万円札になってる手品。手品だから、1万千円を用意しないといけないんだが、この世界では手品師スキルがある!額面変え大きくして、杖を花束に変える魔法使いになろう。
書いてまとめてみるのは良いことだ。
俺のスキルが『コインマジック』なので、コインを消す、コインを増やすとかはすでに出来るんじゃないのか?
とりあえず、やってみた。
とりあえず、出来なかった。
「なぜできないっ!!」
解釈拡大で、『コインと一体になったものも移動出来る』は取得した。
「消すとか増やすとか、現実的に無理なものは、すぐに取得できないとか?」
現実的に、コインと、その付随するものを移動できてるので。
言ってて、意味がわからなくなった。
「となると、『想いの強さ』なのかな?」
スキル鑑定の前に、リスさんが言ってたのは確か、『勇者特有の想いの強さで顕現される』だった。
おかけで、今、相当悩ましく、もとい、楽しんでいるのですが。
「そういえば、コインの移動の時も、ミサンガの付随の時も、『出来るか、出来ないか』なんて考えてなかったなぁ」
さっきのコインを消す、増やすのときは、心の何処かで「出来そうにない」ってのがあったのかもなぁ。
自己暗示だ。
無心だ‥‥。俺は出来る‥‥。俺は消せる‥‥。コインを消せる‥‥。コインを消していた‥‥。海外のカジノのルーレットで、コインが一瞬にして消えた‥‥。
‥‥‥消すのはもったいなくない?
雑念が入った。
増やそう。そっちの方がお得じゃないか!
再度、自己暗示のための瞑想に入る。
無心だ‥‥。俺は出来る‥‥。俺は増やせる‥‥。コインを増やせる‥‥。コインを増やしていた‥‥。コインを増やして、不労所得で暮らしていくのだ‥‥。ガハハハハァ!俺は、金持ってるぜ〜!
雑念が入った。
よく雑誌に載ってた、美女達と札束の風呂に入ってる写真が頭から消えない。
焦ってもしょうがない。
2度目の人生だもの。
楽しんで行かなきゃ損だよな!
コティ村上さんのように割り切って、ねねさんにナンパでも仕掛けるとしましょうかね!
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