第11話 17番目の男

 一体、どれくらい気を失っていたんだろうか?


 床の上に仰向けになっていた俺は、体を起こす。

 とりあえず、後頭部にタンコブは出来てなかった。フカフカの絨毯に感謝する。


 これが魔力切れってやつなのかな?

 確か、ミサンガにコインを括り付けてスキル発動させて‥‥


 左手首を見ると、魔木貨が結ばれたミサンガは無く、右手首に移動していた。


「成功したんだけど、コイン一体化は魔力をたくさん使うってことなのかな?」

 とりあえず、念のため、ベッドの上でもう一度試してみる。

 やらなきゃ気の済まない面倒くさい性格なので、俺って。


 スキルを発動させると、先程と同じく、右手首のミサンガごと光った気がする。


 そして、左手首に移動した。


「成功した。意識ある」

 では、魔力切れでは無かったのか?

2回目だから、体が慣れたとか?

 1回使ってパワーアップしたとか?


 全く、移転後すぐに、スキルの取得をさせられたのだから、早めにスキル使用の説明があってもいいんじゃないのかね?


‥‥‥


‥‥ん?


‥‥なんかわかった気がするな。


 左手首に結ばれたミサンガを外してみる。

 結び目がキツめだったけど、あっさり外すことができた。おそらく、このミサンガにかけられていた『何か』が解けたのだろう。


 今まで、色々不思議なことが起こっても、妙に納得してしまっていたのは、このミサンガにかけられた『洗脳』みたいなものだったんだな。


 ミサンガが手首から外せなかったから、『呪い』に近いものかもしれない。


 そういえば、シャワーを浴びたときも、濡れるからミサンガを取るって発想も起きなかったもんな。

 俺って、風呂にはいるときは、全て取り除いて開放されたいタイプなので。


 開放感フォーッ!!

 って今着てるこの服、前と後ろにデカデカと『17』ってゼッケンが縫い付けてある!!


「ダサっ!!」


 こんなの着て、娘ぐらいの歳の子の前で、「俺ってカッコいいオッサンだろ?」とか言ってたのっ!?



〜 回想中 〜


「俺ってカッコいい(17番の)オッサンだろ?」

(気持ち悪い笑顔と、精一杯のちょいワルオヤジポーズで、17番を見せつける俺)


「なんか、お父さんを思い出したよっ」

(引きつった、コイツ何言ってんの顔を心の中にしまい込み、反射的に「17番なのにキモッ」の言葉を飲み込んだ、出来た娘役を演じる唯ちゃん)


「俺のほうが、カッコいいはずだよ(なんせ、17番だからな)」


(そんな気遣いにも気が付かず、鼻からタバコの煙を噴出させる蒸気機関車風の17番の男)


〜 回想終わり 〜



‥‥‥

まぁ、これもアリか‥‥


 そういえば、ねねさんの番号は確か2番で、唯ちゃんは13番だった。


 ‥‥ヤバい。胸の大きな女性の番号しか覚えてない!

 家政婦の北さん、ごめんなさい。



「鑑定の順番ではないな‥‥名前順か?」

 いや、俺の後ろに、少なくとも森田君や山本君がいるから名前のあいうえお順では無いようだ。


 転移されたのが17人だから、勇者を見分けるための番号に間違いは無いはずなんだが。


「‥‥‥‥スキルの、人材としての優先順位だな、これ‥‥」

 数が多いほうが優秀スキル!アンタが大将!ってことではないだろう事を、俺は身をもって知っている。


 きっと、数が少ないほうが、優秀スキルである。

 確実に、数が多いほうが、必要ないスキルの勇者である。

 三矢友宏=手品師は、17番である。


 これは、プラス思考の俺でもだいぶ凹む。



「ぬが〜っ!!」



 叫び声を上げ、気持ちを切り替えよう!当てにされてないってことは、自由度が増したと考えよう。

 勇者よ、この銅のつるぎと50円で魔王を倒しにいけ。手渡しはしないぞ。勝手に宝箱を開けて持っていけ!みたいなことにはならないということだ。

 隠れスキル 『面倒くさいこと回避』発動だ!


 追放とかあるのかな?

「使えない勇者はこの城から追放ですわっ!」

 口調がサミィ先生になってしまった。

「おきのどくですが勇者未通夜はよわすぎてついほうされてしまいました」

 電源をオンにして、流れる悲しいBGMに何回涙を飲んだことか。

「また親父と船を降りるところからスタートかよっ!!」


おっと失敬。数十秒記憶が混乱した。般若のお面は被っちゃダメだな。


‥‥たが、呪いが解けたのって俺だけだよな?


「今のところ、他の転移者に、『あいつ、17番だぜっ』みたいな目で見られた記憶はない!」

 ただ、魔女っ娘や護衛達、メイドさんの目には見えていただろう。


 リリーさんになんか申し訳ない。もしかしたら勇者付きメイドサミットで、

「貴女の勇者様は17番みたいですわねっ!わたくし?わたくしの勇者様は1番ですわっ!昨晩も一晩中熱い寵愛を頂いておりましたの。

 まぁ、貴女は17番のお部屋に呼ばれていないようね。えっ?必死にアピールしたのに、ニヤニヤしながらお金を要求されたですってっ!?病気17なんじゃありませんこと?

 よろしいわ、いいこと?今後はわたくしの勇者様に一緒にご寵愛をいただけるようにしますから、17番は捨て置きなさい」

 みたいな言いがかりを受けていないか心配だ。あれ?この妄想の中で酷く言われてるの、17番の人だった。


『呪い』の影響で、そういった番号に関する他人の目や会話が、自分自身で気が付かなかったという可能性は、気が付かなかったことにする。



そうっ!

俺は自由な17番!

自由って『いーな』の17番だっ!




‥‥タバコでも吸お。

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