第10話 『コインマジック』 スキルの解釈

 唯ちゃんと一服したおかげで、多少目は覚めた。唯ちゃん、泣いちゃってたけど、目は大丈夫かな?

 決して俺が泣かせたわけではないと誓いたい。

 こういうときにハンカチとかを持っている大人じゃないとダメなんだな〜。


 トイレに寄って、ハンカチは無いので手を震わせて水を切りながら会議室に戻ったら、魔女っ子妹のタミィさんがコーヒーを持ってきてくれた。

「ありがとう」って声かけたら、真っ赤な顔して走って行ってしまった。俺の顔が怖かったか!?

 あっ、これ朝の飲んだ美味いコーヒーだ。



「‥‥授業を続けますわっ」

 前半よりちょっとテンションが下がったサミィさん。

 半数が寝てたのがショックだったのかもしれないけど、年配者には結構ハードな異世界2日目なので、ぜひ多めに見てやってください。



 この世界の時間経過についての説明からだった。

 この世界の1日は、24時間で、12時間づつ、太陽が出ている明刻と、暗闇の暗刻に分かれるらしい。

 太陽の位置は一日中変わらず、徐々に暗刻になるとのこと。


 1年は、火山の活動で始まり、活動期→活発期→収束期→休止期となる。

 活発期は、マグマの流出や地下温度の上昇で気温が上がり、地底湖が蒸発し、雨が降りやすくなるんだってさ。


 しかし動かない太陽は全くピンとこない。

 とりあえず、今日は時間が合えば、夜になる瞬間を体験しておきたいかな。


 時間に関して質問して詳しく聞くと、

1分は60秒。

1時間は60分。

1日が24時間で、

1週間は8日。

曜日は、火、木、土、水、風、空、光、闇、の順番。

1年は、約400日。


 時間の流れは同じのようで良かった。

 1分は、100秒。1時間は、100分ですとか言われたときには、理解が追い付かなくなるので安心した。。

 1年はこっちのほうが長いようだ。


 話を聞いてるみんなの頭の上にハテナマークが浮かんでいるのがわかる。

 最終的には、「そのうち慣れます」と強引に締めてきた。

 サミィ先生、もう面倒くさくなってるな、これは。



「そろそろ昼食の時間なので、授業は以上です。あとは、こちらの資料を読んでおいてください」


 おおぅ‥‥先生。資料あるなら、先に配っても良かったんじゃないの?


 サミィ先生、足早に退室しました。

 タミィ先生、ペコリとお辞儀して、後を追いかけていきました。



‥‥先生、最後はテンションだだ下がりを隠すつもりも無いですね。

 まばらな拍手で授業は終了となった。



昼食は、各部屋でのお弁当だった。


 お〜。白米も、唐揚げも。もう、食事に関しては、異世界感が薄れるのはありがたい。

 食事をさっと済ませて、先程貰った資料をパラパラとめくってみる。


 よくできた資料だった。

 ‥‥‥さっきの授業、この資料があったら要らなくない?

 そんなことを言ったら、サミタミ先生に失礼か。

 まあそんなことより、現在の俺には最重要で確認すべき事項がある。


資料をさらに捲る。



おっ、あったあった。


【現在国内で流通されている通貨】


魔木貨(穴開き・小)

魔木貨

銅貨

銀貨 

金貨

白金貨

大白金貨


 上から順に、一、十、百、千、万、十万、百万かな?


 イラストと価値が知りたいが、これだけでも有用な情報だ。


「現物が見たいな。特に魔木貨が気になる」

 俺ってコインマジッカーだから。コインが無いと何もできない人間ですから。


 メイドさんを呼んで聞いてみることにした。

 勇者召喚には、支援金が支給されているらしく、結構な重みの革袋を持ってきてくれた。

 希望通り、穴開きの魔木貨を多めに両替してもらえた。

 一緒にタバコもゲット!神様に思いが伝わったか?

 聞いてみたら、勇者様がこの世界に広めたらしい。過去の勇者様々である。



 さて、革袋の中のお金を広げてみた。大白金貨以外の貨幣が合計30万円入っていた。

 お金の種類はメイドさんに聞いた限り予想通りだった。価値としては、普通のパン1つが銅貨1枚だそうだ。


 質問を繰り返す俺に対して、メイドさん、もとい、リリーさん、19歳、処女。テンションMAXだった。

 

 そうだった。リリーさん、俺を囲い込むためのハニトラ要員だったんだよね。

「色々わからないことがございますでしょうから、お部屋でお話しましょうかっ!!」


 って、食い気味に迫られてしまった。ゴメンよ、その気にさせて。


 丁重に、そして傷つけないようにやんわりと、とりあえず今日は‥‥と、お断りさせていただいた。

 決して、不能な訳では無い。リリーさん、ものすごくストライクゾーンなんだよな〜。

 だから逆に、俺のことをよく調査されてるって話。



「この真っ黒なお金が魔木貨だな。大きさの割に、結構重い」


 魔力が含まれているからだろうか?魔木の1円と10円は、見た目以上に重量感がある。


 全てのコインで一通りコインマジックを試してみる。


全てが成功した。



 こちらの世界のお金は、まだ使用したことがないが、コインと認識していれば、スキルは発動出来るってことかな?


 穴の空いた1円玉を手に取る。分厚いワッシャーのような形をしている。

 そういえば、この穴に紐を通した場合、スキルはどうなるんだろ?

 一体化していると見なして、紐も一緒に移動しないだろうか?


 コインはコインなので、拡大解釈してみるだけ。神社で売ってる5円玉のお守りもそんな感じだよね。


 日本円の5円や50円のような穴の空いたお金に、針金や紐で繋げた剣を、昔の映画で見たこともあった。

 あんな感じの武器があれば、俺もスキルで戦えるかな?


 コインの剣が、右手、左手と移動して、敵を翻弄しながらの攻撃。


‥‥しょぼそうだ。

 だったら最初っからよく切れる剣2本を両手で持てばいいって話だった。


 まあ、とりあえずやってみよう。トライアンドエラーだ。



 辺りを見渡し手頃な紐を探すが、そう簡単に‥‥ってそうか。

 このミサンガで試してみるか。


 左手に巻かれていた『翻訳のミサンガ』の結び目をほどいてみる。



‥‥‥ほどけない。ナニコレ???



 結び目がキツイとかじゃなく、解けないようになっている。


「おいおい。これって呪いの装備とかじゃないだろうな?」

 とりあえず呪いの件は保留して、ミサンガの結び目のピョンと飛び出た端っこに、魔木の1円玉を結びつけてみた。


コインマジックを発動する。


 コインを握ってないけど大丈夫かなという考えは裏腹に、成功のイメージが浮かんでくる。

 おっ!ミサンガごと光ってる気がする。


1円付きのミサンガは、右手に巻かれていた!!


成功したっ!



その瞬間に、俺の意識も失われた。

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