第6話 おじさんキラーの小悪魔勇者

 結局あのまま、次の日を迎えてしまった。床から片膝でベッドに突っ伏して寝てしまったせいか、体が痛い。

 異世界での初めての朝は、気だるさで始まりました。


 外に出ると、昨日のメイドさんが待っていた。ゴメンナサイ、寝坊しました。

 大広間みたいなところに案内された。エレベーターまで完備されてるとは!



 朝食会場に到着した。披露宴会場みたいな会場。朝はバイキング方式ではないようだ。

 起きたのが遅かったせいか、ほとんど人が居ない。異世界の朝はみんな早いのかな?


 朝食は、パンとハムエッグのようだ。異世界感が全くない。そのうち、マンガ肉などが食べられるだろうか?

 昨日の夕食を食べそこねたので、少し多めに頂いた。

 

「あれは、バスに乗っていた女の子だよな」

 奥の方に同じバス内組の宇都宮さんがいたので、声をかけ向かいに座った。


 宇都宮さんは、医療事務の26歳。少し若返り、今は同い年だ。

 小柄だが、出るとこは出て、引っ込むところは引っ込んでいるショートカットのかわいい系美人さん。


「おはようございます、三矢さん。昨日の夕食で見かけませんでしたけど、体調がすぐれないみたいな感じでしたか?」

 他人行儀だが、なんとも気遣いの出来る美人さんだ。まぁ他人なのでしょうがない。


「実はいつの間にか寝てしまっていて、気がついたら朝だったんですよ。宇都宮さんは朝から元気そうだね」

 まだ寝ぼけている俺に、眩しいほどの義理スマイルが眩しい。大事なので、2回繰り返しておく。若いって素晴らしい。


「私、名字長いんで、名前の『ねね』でいいですよ。私、結構朝強めみたいなんで。

 昨日の夕食のときに、若返り年齢が高い人ほど、感覚を取り戻すのに時間がかかるみたいってリスさんが言ってましたよ」

 なるほど、目覚めが悪かったのはそのせいか。


 話を聞くところ、半数くらいの人たちが、夕食に顔を出さなかったらしい。

 まあ20歳以上も若くなってたら、精神的にも肉体的にもに疲労度が高まるのだろう。


 奇跡の税理士村上さんは大丈夫だっただろうか?

「コティ‥じゃなかった。村上さんとは面識があるんですよ。あっ、私、整形の受付事務だったので。

 昨日、エレベーターのところですれ違ったんですけど、相当眠いみたいで、部屋で寝るって言ってましたから、今日は起きられないんじゃないですかね」


 ねねさんは、結構人気の受付嬢だったようだ。結構な割合で患者さんにラブレターを手渡されたり、お土産を貰ったりしたらしい。

 村上さんは、度々、コティバのチョコセットを貢いでくる『コティじい』として有名人とのこと。


 昨日は、若返った勢いからか、ねねさんを見つけるやいなや、口説いてきたらしい。

 全くいい歳して何やってるんだか。その年齢差、爺とひ孫です。恋愛にはならないですよ、コティ爺。


 本人いわく、ねねさんは生まれつき年上を惑わす隠れスキル持ちとのこと。


 食後のコーヒーをいただきながら、この建物の話を聞いてみた。

 ってかこのコーヒー美味いな。これも歴代勇者の恩恵か?


 5個目のショートケーキを口にほうばるねねさん。

 太るよって言ったら、若返ったからダイエットを気にしなくても良い自分ルールが発動してるそうだ。

 あとで俺も1つ頂いてこよう。


 昨日の話によると、この建物は、勇者専用研修施設みたいな場所らしい。

 王城とは別の場所にあるお城で、召喚された勇者に対して、基礎知識の勉強と、実務を経験させるらしい。

 実務って何だろ?魔物退治か何かか?


 昨日の夕食会には、複数の貴族様が参加していて、面倒くさいほどのもてなしを喰らったそうだ。

 うはっ!やっぱり貴族いるんだ。娯楽用に手品師を雇ってくれないかな。


 俺も隠れスキル 、『面倒くさいこと回避』でも発動したのだろうか?

 まあ手品師の俺に、そんなスキルは持ち合わせていませんが。


 接待の後は、部屋の前に男娼みたいな執事がいて大変だったらしい。

「あんなのハニートラップ以外、何者でもないじゃないですか」

 冷めた目で話すねねさん。昨日のやり取りを思い出しているのか不機嫌そうだ。

 聞くと、朝、ドアが開かないような嫌がらせも受けたらしい。


「若い子には効果があるかもしれませんけど、私も日本では、ある程度、そういう修羅場を重ねてきましたからねっ!

 バス事故の時も、パパ活相手との待ち合わせ場所に向かう途中でしたし、予習はバッチリです」

 程よい大きさの胸を張り、したり顔で話す宇都宮さん。

 しっかり系の小悪魔美人だった。


 話がだいぶ本題から離れてしまった。このあとの予定を聞いてみた。

「えっー!! この話の流れでいきなりナンパですか!? うわ~。

 フフッ、冗談ですよ。

 朝食後、昨日と同じ会議室に集まるみたいです。

 このセシリア王国を含め、この世界の大まかな説明があるみたいですよ」


 流石の小悪魔ねね、おっさんの扱いもお手のもの。

 俺の中で、ねねさんの小悪魔レベルが上がる音が鳴りっぱなしだ。



 食事を終え、ねねさんと宿泊棟の方向に歩きながらスキルについての話になった。

 ねねさんのスキルは、『鑑定治療』というものらしい。

 治療が必要な相手の、どこが悪いか確認できて、治療方法がわかるというもの。

 まだ、試したことは無いみたいだがスゴイスキルだ。


 仕事柄、実用できそうで路頭に迷う事も無さそうなスキルなので満足しているそうだ。

 俺から言わせりゃ、凄くチートスキルだ。


 俺が、魔法使いのマジシャンを望んだら、手品師のマジシャンになったことを伝えると、

「うわぁ~、完全ハズレスキルですね。でもそのうちきっといいことありますよ。今までの日頃の行いが良ければ。

 最悪、私が雇ってあげましょうか。娯楽奴隷として、みたいな感じで」

 と、ズバッとぶった斬りした後、その傷口に気休め程度の塩を塗ってくれた。


 流石に自分の娘くらいの子のヒモ生活は、死んだ妻と子どもたちに顔向け出来ん。

 丁重にお断りさせていただいた。


 魔性の女、宇都宮ねね。

 きっと、貢がせた男は星の数だけ、みたいな。


 おっと、口癖が感染った。



 部屋につくと、寝間着みたいなものと、着替えが用意されていた。

 室内にはトイレやシャワーが完備されている。


 昨日はそのまま寝てしまったので、シャワーを浴びて、用意されていた服に着替えた。


 そういえば、電気とか水道はどういう仕組みなんだろうか?

 ここは魔物がはびこる世界。送電線や水道管などが完備されてはいないだろう。

 発電所なんてあったら、魔物に襲われた時に大惨事だ。


 技術者の仕事も魔物退治の武器製作なんかが最優先だろう。

 日本でも戦時中、中小業者は戦争兵器の製造に職替えさせられたって聞いたことがあるし。


 魔石とか魔導具とかがあるのかな?

 このミサンガや、転送の絨毯もそんな感じだもんな。



 説明会で話を聞いてみることにしよう。


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