第3話 スキルと違和感

 俺たちは説明会の冒頭に、ショッキングな事実を告げられた。

 みんなバスの事故で死んでしまったらしい。


 要約すると、勇者召喚とは、数多の世界軸で死んでしまったタイミングと召喚のタイミングが合った者の精神を呼び出す儀式とのことだ。肉体はこちらで再構築される。

 呼び出された者の総称を『勇者』と呼ぶそうだ。


 この世界では何度も勇者召喚が行われているらしく、悪く言えば、他世界からの技術をその都度取り込んでいるとのこと。

 希望は、歴史の中で、自分の世界に帰っただろう勇者が存在するということ。

 しかしながら、帰る条件が判明していないらしい。

 この世界での生活援助はするので、この世界の発展に協力してもらえないかとのこと。


 向こうは事実を全て話してはいないだろうけど。

 おそらく今までの勇者召喚の経験と研究がよく成されている。


 リスさんの話し方がうまい。お願いのような、強制である。

 詐欺師に騙されたみたいな丸め込まれ方だが、今は頼れるものが何もない。このまま放り出されても、きっと何もできないまま、魔物とかにやられて死んでしまうだろう。

 もしこの世界に魔王がいて、リスさんたちが魔王の手下だったとしても、それを裏付けられる答えは与えられないだろう。


いるのかな?魔王。

 ふと、リス魔王が脳裏に浮かぶ。セクシー魔王様だ。アリよりのアリだ。


 

 日本に残してきてしまった子供たちの生活は、同居している両親が面倒を見てくれるだろうし、掛けていた生命保険が降りれば、金銭的な部分では問題はないだろう。

 ただ、妻も先立っているうちの子どもたちには、辛い思いをさせてしまっただろう。

 帰る方法があるならば、それにすがるしか方法が無いかのかと納得してしまう。


‥‥‥?


なんだろう?なんか違和感がある?



 そしてやっぱりだが、この世界には魔法が存在することが告げられた。

 そして、人を襲う魔木、魔物と呼ばれる生物がいること。

 すべての命あるものがスキルの恩恵を得て、スキルに付随した魔法を使用できるとのこと。


 リスさんが、詠唱とともに水の魔法を発現させた。無詠唱ではないらしい。。

 手のひらから生まれたバレーボールくらいの水球が宙に浮き、そのまま空中で消滅した。


 会場内の参加者から驚きと歓声が上がる。

「香っ!!見たっ!?魔法よっ、夢にまで見た魔法!!異世界スゴイッ!!錬金術とかもきっとあるのよっ!!」

 この魔法の説明には、女子高生の1人がものすごく興奮していた。


 ラノベ好きなのかな?最近は漫画やアニメでも異世界ブームだったからなー。


 質疑応答の時間は与えられず、今は、スキル確認の順番待ちとなっている。



「厄介な事案に巻き込まれましたね」


 奇跡の86歳で今は20歳、村上さんが声をかけてきた。86歳は、膝には興奮しても、魔法に興奮しない。これがまさしく王道だ。


「そうですね。どこまでが本当なのかわかりませんしね。」


 話を聞くと村上さんは税理士だったそうだ。2度目の人生として割り切って、税や顧客相談の知識経験を活用できればと考えているとのこと。


 さすが奇跡の年の功。税理士という仕事上か、頭の切り替えが早い。顧客からの信頼の厚い税理士だったのだろう。


 会場内の他の勇者さん達にも声をかけて回る。

 今回の勇者事故に巻き込まれたのは、総勢17人だった。


 バスの乗客が運転手合わせて10人。工事関係者が7人。合計17人。


 対向車線の大型トラックが猛スピードで突っ込んできて、バスと接触した。そして横転したバスが、作業中の工事関係者を巻き込んだ形らしい。

 どれだけスピード出していたんだ?大型トラックと異世界の関係は、呪いなのだろうか?


 そんなスピードで、相手のトラックの運転手は、死ななかったのかな?死んでいたら、この世界に転移されているだろうし。

‥‥まぁそういうこともあるか。


‥‥?






 高校生たちとも話してみた。仲のいい男女2:2の4人組。なんか青春だな〜。

 聞けば小さい頃からの幼馴染の高校2年生らしい。うちの長女と同い年だ。


 絨毯の部屋で最初に叫んでた男の子は森田君。活発そうなイケメン男子。サッカーとかやってそうだな。イメージだけど。

 海賊王を目指すらしい。ゴム人間かな?


 その横では、「タツヤはホントガキねっ!ここは絶対に錬金チートでしょっ!!ポーションで稼ぐのよっ!!」

と、主張の強い元気な、おそらくラノベっ娘、吉武さん。

 もしも森田くんの名前が『シンジ』だったならば、佐竹さんには、赤いロボットに乗ってもらいたい逸材だ。


 そんな二人を見守るおっとりタイプの佐竹さん。

「私は、魔法とかを使えればなって‥‥。そしたら、みんなを守ってあげられるから‥‥」

 魔法使いに憧れている様子。勝手なイメージだけど、見るからに『聖女』が似合いそう。


 ガッチリ体型の無口な轟君は、剣道の有段者らしい。『剣王』とか『剣聖』の称号が似合いそうなナイスガイ。


‥‥‥この子達が世界を救う勇者パーティなんじゃない?



 まだ順番が回ってこないので、リスさんのスキル説明の言葉を思い出す。


『現在確認されているスキル取得には、法則が存在しています。


 1つ目は、血統からの継承です。ご両親や先祖代々から受け継がれるものがあります。

 希少なスキルが継承される場合が多いです。



 2つ目は、皆様が研鑽されてこられた経験・体験・技術に基づくものです。

 お手元の資料も、過去に召喚されました勇者様の知識経験から伝わった技術によるものです』


 そう。みんなの手元には、見慣れた真っ白な紙に、フルカラーでプリントアウトされたグラフ入りの資料が配られていた。

 小説の異世界では、羊皮紙なんかがお約束なのだが、これも、あなた達の技術がこんなに役に立っているんですっていう丸め込みの一貫なのかなと感心してしまう。

 


『3つ目は、これは勇者様の特有なのですが、『想いの強さ』によって顕現されるものがあります。

 過去には、『癒やしの乙女』と呼ばれた聖女様や、空から大岩を降らせる様な強大な魔法を使用した勇者様がいらっしゃいました』



‥‥‥う~ん、メテオかな?

 でもRPGゲーム世代には、そのロマンは存分に理解できる。


 社会経験だと、20年以上勤めた会社での営業の仕事だが、

『あなたのスキルは、営業です』

 名刺で敵を切り裂く営業マン!

 土下座の頭突きで地面を割るスキル!

 喰らえ!業務用エアコンの室外機を一人で持ち運ぶパワーをっ!!


‥‥‥うん。冒険者のパーティに入れるイメージが湧かない。


 ここは魔法が使える世界。ゲーム世代としては、やはり魔法に憧れる。魔法剣とかもカッコいいな。

 子供の頃に流行ったカードゲームで、『ブラックマジシャン』がお気に入りだった。

 大人気ないけど、闇属性魔法とか使ってみたい。

 ファイアーボールとかも良いよね。


 強い想いでスキルが決まるなら、『マジシャン』になってみたいな。



兵隊さんが近づいてきた。


そろそろ俺の順番らしい。

水晶玉みたいなやつに触るのかな?

さて、どんなスキルになるのか。


 この時は、さらなる衝撃を受けることとは露知らず、期待に胸を膨らませ、スキルの鑑定に挑むおっさんであった。







「‥‥‥えっ!?」





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