第2話 異世界説明会

 天気のいい昼下がり、病院帰りのバスの中で俺は、席に座りながらスマホで今日の夕飯のレシピを検索していた。

「今日の夕飯は簡単に生姜焼きで済ませちゃおうかな?」



俺は三矢友宏、44歳。

 電機の材料屋の営業をしていたが、半年前に体調を崩し、うつ病と診断された。


 管理職に出世して5年。我夢者羅に働いた結果、突然、糸が切れたかのように朝が起きれなくなり、体が動かなくなってしまった。

 通院しながら、仕事のことは会社の仲間に任せて、家庭の、子どもたちとの時間を作ることができた。


 ほんと、この5年、色々ありすぎて、子どもたちにも寂しい思いをさせてしまったからな。

 なんとか気力も上がってきて、再来月から職場復帰の予定だ。


 これから金のかかる3人の子供たちのためにも、父ちゃんは頑張って稼がないとならない!

 休職中は傷病手当金が出ているので本当にありがたい。まあ、あと1ヶ月は人生の休憩時間を楽しめるかなと思っている。


 バスが舗装工事で片道を塞いだトンネルに差し掛かったとき、強い光と衝撃とともに目の前が真っ白になった。

 そして気がつけば、あの絨毯の部屋だったという具合だ。



「‥‥‥ということで皆様には、この世界で生活するためのスキル確認をしていただきます」


 絨毯とは別の部屋に連れて行かれた俺たちは、今回の異世界転移の経緯説明を受けた。会見では無いので、謝罪はない。

 みんなの腕には『翻訳のミサンガ』が巻かれている。


 これを身につけると、話す・聞く・書く・読むなどの言語が理解できるようになるらしい。まさに魔法の道具だ。

 そう、ここは魔法具の存在する世界ということらしい。ゲームみたいだ。



 説明会を仕切るのは、セシリア王国の宮廷魔道師の、リス・アルマティさん。

 スーツのようで制服みたいな服を着ている。宮廷魔導師のお偉いさんが着る服らしい。

 先程の魔女っ娘達は部屋の端でこちらの様子を伺っている。リスさんは、二人の上司に当たるらしい。


 リスという小動物的可愛い名前らしからぬ、キリッとした黒髪のバリバリキャリアウーマンタイプ。

 上司だったら、ハイヒールで踏みつけられたいランキング上位に君臨するであろう。

 メガネをかけてたら、競馬ジョッキーのムチを持った家庭教師の先生が似合うであろう。


 これがギャップ萌えと言うやつなのか!?おっさんには、よくわからないのだが。



 続いて紹介されたのは、先程の占い師風の女の子、ミレイさん。中学生くらいかと思っていたが、立派なレディらしい。

 そういう種族とのこと。ゲームとか小説で例えたらドワーフとかなのかなと思う。


 現在、自分たちが、すんなり異世界召喚という意味不明な事態を理解・認識したかというと、連れてこられた半数以上の人たちが、若返っていたからだ。

 俺も含めてである。44歳の頭脳で、体は20歳である。体のキレがいい。肩が凝っていない。髪の毛なんてフサフサである。加齢臭なんて言わせない年齢である。



 リスさんの説明曰く、勇者召喚とスキルの影響で、祝福を受けるタイミングである、成人の年齢に戻されるらしい。

‥‥‥これはもう神様の存在があるんだろうな。

 不思議なほど、この状況を納得してしまっている。



 この世界の住人の成人儀式は15歳とのこと。日本では現在は18歳成人だが、自分たちは20歳での成人だったため、その年齢まで肉体が若返ったらしい。


 絨毯の部屋で最初に占い師ミレイさんと話していた作業員の権田さん。

 若い兄ちゃんかと思っていたが、実年齢は58歳らしい。

 周りの仲間の作業員さんたちがみんな声を上げる権田さんを見ても、「誰こいつ?」みたいな顔をしていたのが納得できた。


 部屋への移動中に、大半が若返っていて、顔が一致しないらしく、大声で大笑いしながら自己紹介しあっていた。現場のノリは異世界でも強い!


 先程途方に暮れてたお姉さんは、家政婦の北さん。実年齢はナイショだそうだ。

 まだ目が覚めてない人かいるので、別室で付き添いをしてもらっている。

 とりあえず2人とも、息をしているので問題はないようだ。


 20歳未満の子たちは年齢はそのままらしい。

 俺の後ろで叫んでた高校生と、その友達の4人組や、交通誘導員のギャル風お姉さんは変わりないらしい。

 もし、小中学生が居たとして、転移したらどうなるんだろう?成長するのかな?

 今回の1番最年少がその高校生たち。やっぱり若いだけあって順応性が高い。

 年を取るとまず疑うところから入ってしまうんだよな。体が24歳若返っても、頭の中はおっさんです。


 一番の若返りは、この部屋まで一緒に話しながら歩いてきた村上さん。最年長の御年86歳。

 俺と同じ病院の整形外科に通っているとのこと。長年苦しめられたヒザの痛みからの解放に涙を流していた。

 66歳もの若返りには、この世界に神様がいるのであれば、相当な神力をつかったのではないだろうか?


神様、ご苦労さまです。



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