序章 魔の刻
第1話 誘拐?異世界転移でした
一人づつ通された薄暗く狭い部屋で、おそらく鑑定みたいなスキルを持っているのだろう、可愛らしい占い師風の女の子から手渡された一枚の紙。
そこに書かれていた一文。
『スキル : コインマジック』
「鑑定の結果、あなたの基礎スキル職は、『手品師』になります」
「‥‥‥えっ!?」
どうしてこうなった!?
■
手触りの良い絨毯の感触が両手に伝わる。
どこだここ?
眩んだ目をこすりながら、四つん這いの体制から顔を上げる。
前の方には、こちらに槍を構えた兵士?みたいな方々が5人。みんながガタイがいい。
落ち着け。思い出せ。
俺はバスに乗っていた。スマホで夕飯のレシピを検索していた。トンネルに入り、現在地を確認しようとしていた。眩しかったのは、対向車のヘッドライトか?目がくらんで、今ここにいる。
兵士たちは、何か言葉を発しているようだが、何を言っているのかわからない。
外国人グループだろうか?拳銃は持って無さそうだ。
カバンは足元に置いていた。近くには無さそうだ。ポケットにスマホの感触がある。身の回りの持ち物は取られていないようだ。
スマホを見る余裕はあるか?下手な動きは、相手に刺激を与えてしまうかもしれない。
ここで抵抗するのは得策ではなさそうだ。多分最初に殺されてしまう。警察に状況を伝えるためにも、何か特徴が無いか周囲を見回す。
しかし一体、本当に何処だここは?
石造りの柱が存在感のある美術館みたいな建物。天井は高い。扉は、槍を構えた兵士の後ろ側。
左右の洋風の石柱脇には、剣を持ち、鎧を着た兵士らしき男たちがこちらを見ている。
夢にしてはリアルだ。小さく声を出してみる。「ぁ〜」声は出せる。太ももをつねってみた。痛みもある。
俺たちは、バスジャックにでもあって誘拐でもされたか?
‥‥もしくは、小説にあるような異世界転生!?
それは、あまりにも無理があるか。
この中に有名人がいて、大掛かりなドッキリに巻き込まれた‥‥そっちのほうが考えにくいか。
それよりは、この中の誰かが、要人か金持ちで、それに巻き込まれた可能性のほうが高い。
少し前の方で倒れているのは、ヘルメットを被った工事現場の作業員らしき方々。
そういえば、光で目がくらんだ前に、トンネルでは舗装工事をしていた。バスジャックの可能性は低いか。
その隣には、乗っていたバスの運転手さんが呆然としている。
「ひぃっ!! どこっ、ここっ??」
声に驚き振り向くと、後ろにいた少年が悲鳴を上げていた。
制服からして高校生。少年の側には、同じような制服の男女が3人倒れている。
あの子達は、確かバスに乗っていた。
高校生のおかげで誘拐犯達の注意が逸れたので、バレないようにゆっくりスマホを取り出す。
くそっ、圏外のようだ。
さらに周りをゆっくり見回す。今度は、倒れている人の確認だ。誘拐されたのは俺を含めておよそ20名。見た感じみんな相当若い。
目が覚めて、途方に暮れてる女の子もいる。バスにはお年寄りも乗っていた。若者だけ誘拐したのか?
なんのために?若さで考えたら、労働力か?
だとしたら、40を超えた俺が、なぜ一緒に連れ去られた?
わからない。しかし、ここは年長者として、どうにかしなければと考えていたとき、ゆっくりと奥のドアが開き、騎士風の男たちが入ってきた。
救助では無さそうだ。
槍を構えた兵士たちが敬礼をする。
「※※※※※※※※」
騎士風の男たちの後ろから、占い師みたいな布を被った女の子が前に出てきて、何語だかわからないけどこちらに向かって声を上げている。
1番大きい騎士の男が片手を上げながら前に出てくる。手には紐のようなものを何本も持っている。
一番前の現場作業員の若者に、その紐みたいな何か手渡した。
腕に巻けみたいなジェスチャーをする騎士。
手錠?
インシュロックみたいなやつで拘束するつもりか?
抵抗せず紐を腕に巻き付けた作業員の若い兄ちゃん。
びっくりした顔で、占い師の女の子と話をしている。
‥‥えっ?会話できてるの?
声は聞こえないけど、若者の緊張感が多少解けた表情を見て、この場で殺される可能性は少なくなったと思いたい。
大掛かりな異世界転生ドッキリの可能性がここに来て高まる。
ホッ、少し緊張が解けた。肩の力が抜ける。
「はぁ~」深いため息をして、俺はその場にへたれこんだ。
あの作業員は芸能人?お笑い芸人さんとかなのかな?
でも、俺みたいな一般人が巻き込まれることなんて無いと思う。
巻き込まれる人って普通、全部、事前に説明を受けたエキストラだよね。
あとから出演謝礼とか出るのかな?全く演技とか出来てなかったけど。
周りを見回し、隠しカメラなどを探してみる。そんな簡単に見つかるところにはないんだろうけど。
ってか、ホント巻き込むなよ!怒りが湧いてきた。
テレビ局なら、そんな不手際しないよな。チャンネル登録数目当てのyoutuberだろうか。
騎士軍団の後ろに、魔女っ娘が2人いいるのに気がつく。顔がそっくり。姉妹かな?
杖は持っても、箒は持たないのね。二人とも、慌てた様子で何やら話している。一人は相当青ざめている。演技なのかな?
兵士さんたちはプロの役者根性全開だ。表情一つ変えず、こちらに不審な動きがないか目を光らせている。
後ろの高校生たちは、みんな意識を戻したらしい。女の子が、「ねぇねぇっ!!これって異世界転移だよっ!!」ってはしゃいでる。
そうか、しまったっ!!こういう演技が必要だったかっ!!
突然の本番に弱い俺。事前の心の準備が欲しかったなぁ。
そんなこんなで数分経過したあと、作業員の兄ちゃんが、みんなに向かって声を上げた。
「みんな聞いてくれ。俺たちは違う世界に召喚されてしまったらしい!!」
マジなの‥‥‥?
ドッキリじゃないの??
‥‥‥
‥‥‥
まじか‥‥‥
ドッキリであってほしかった‥‥
後ろの女の子の、「キターッ!!」って言う声が響いていた。
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