マジシャン(魔術師)スキルを望んだけど、手品師だった。〜トンデモ手品とスキル拡大解釈で異世界を乗り切る〜

@usetu

プロローグ

終わりの手品師

「パパ〜、次に行くところはどこ〜」



「う~ん、次はずっと回避していたエルフのストックウッドだな〜。行きたくないけど」



 キュートなネコ耳と尻尾を振りながら、生魔物サーベルキャットであり、俺のマジックアシスタントでもある娘のフェリが、後でみんなで食べる予定だった串焼きにかぶりつきながら後ろを振り向く。


 早いものでこの世界に来て3年。フェリも3歳となり、体も中学生くらいの獣人並まで成長した。

 最近は、簡単な漢字の読み書きが出来るようになってきた。


 食いしん坊で、おっちょこちょいなのは玉にキズ。身体能力と魔物の本能で戦闘能力はピカ一だ。流石は俺の娘!


 今のところ、「パパのと一緒に洗濯しないで」とは言われていない。思っていても言わないでくれる。思っていないと思う。思ってないよね?

 将来は東大に入学させる予定だ。



「こらっ!フェリっ!急に壁に飛び乗らないのっ!ハクが壁にめり込んでるじゃないっ、もうっ!

 ちゃんとハクの面倒を見てあげてっ!!お姉ちゃんでしょ!!


 トモも笑ってないでなんとか言ってよっ!」


「キュー!キュー!」



「ママ、これはハクのしれんなんだよ」



 ハクを壁から引き抜いて、娘のフェリにお小言をつぶやくヤンキー風ビキニアーマーは、俺たちと同じ日本からの転移勇者である唯だ。

 スキルは『ガードウーマン』。防御に特化した能力で、気持ちの真っ直ぐな俺たちの旅のムードメーカーだ。

 最近、泣き虫は鳴りを潜めている。唯いわく、「今はねっ!アタシ幸せだから大丈夫なのっ!ニヒヒっ!」だそうだ。

 嫁さんが幸せなら何も言うまい。



 フェリの弟はハク。アルビノドラゴン。今は訳あって、姿はミニミニドラゴンで、種族は『鳩』である。

 行方不明の母親を探すために、俺たちと一緒に旅をしている。

 出逢ったときは、人間の男の子の姿だったのだが、色々あって『鳩』になった。

 まあ、そこらへんは察してほしい。




 ここは、魔法とスキルがある不自由な世界。

 

 だけど、強い『想い』が生きている者全てに希望を与える世界。

 

 そして、すでに終わっている世界。



 魔木と呼ばれる森林が、魔物と呼ばれる生物が、人を脅かすファンタジーな世界。


 俺たちは、この世界を終わらせるため、日本に残した大切なものを迎えに行くために必要なパーツを探す、ワガママな旅を続けている。


 いくつもの出逢いがあり、別れがあった。『死』と隣り合わせの毎日を、日々感謝しながら生き抜いている。




「‥‥トモ、何カッコつけてるの?」

 隣でジト目で睨んでるおっぱいお姉さんは、宮廷治療師のねねだ。同じく転移勇者である。

 人を手玉に取るのが得意で、特にパパ活オジサンへの対処は最強だ。元オジサンの俺は、手のひらとおっぱいの上で転がされている。それもまぁ、俺もキライではない。

 過去には成り行きで性女、もとい聖女になったものの、成り行きで即クビになった経緯の持ち主。

 履歴書には書いちゃダメな職歴情報だ。趣味の欄にはギリで書けるかな?

 それでもしっかり者で色気漂う出来る女だ。


「なんか私の変なこと考えてるでしょ?」

 勘がいい。


「可愛いねねが妻で幸せだなぁって思ってたところだよ」

 最近更に磨きのかかったポーカーフェイスで対処する。


「ふーん、まぁいいけどねっ」

 そんなことを言いながら、俺の腕に抱きつき、おっぱいを当ててくる。

 だからねねさん、おっぱい当たってるよ。当ててるのね。いいけど。



「あーっ!またねねちゃんっ、トモに抱きついてるっ!!」

「唯もこっちくればいいじゃない。反対側空いてるわよ」

「うんっ!そっち行くよっ!エヘヘっ!」


 だからね二人とも。今は調査中だからね。両腕におっぱいは嬉しいんだけど、ちょっと離れようか?

 ここ、さっきから強い魔物出てるでしょ。

 えっ?俺の意味の分からない手品で倒してるから大丈夫って?

 あのね、俺も両手が塞がってたら、何もできないのよ。




「パパー、右がわにブラックナイトが3体ー」

 

 フェリとハクが魔物に攻撃を仕掛ける。先制攻撃だ!それでもやっぱりここの魔物は強いね。

 

 はいはい。ねねは後ろにいてね。そんなにくっつかなくてもいいからね。 

 唯も対抗しないの、1体くらい受け持ってね。ほらブーブー言わずにキビキビ歩くっ!アンタはドラゴンスレイヤーなんだから。



「パパー、1体そっち行っちゃったよー」


「いいよ〜」


 ブラックナイトがショートソードらしきを構えてこちらに駆けてくる。


 俺は、いつもの『人体切断マジック』を発動する。

 ブラックナイトが、はてなボックスに収納された。胴体にあたる真ん中の箱をスライドさせて〜、ハイ不思議!

 

 魔石が残って魔物は退治されました!皆さん、拍手〜。

 高く売れそうな魔石だね!


「ほんと、トモのスキルはわけわかんないわよね。普通の手品師はそんなことしないと思う」


「トモだからねっ!」


 唯、回答になってないよ。




 右手の花弁は現在4枚。ようやく折り返し地点に立てたわけだ。




 さて、魔法使いになりたかった俺が、手品師になってしまったけど、それはそれで、まぁ楽しんでいるよ。

 

 

 人が憧れるようなチートは持っていないけど、なんとかみんなで生き抜くために、持っている手持ちをなんとか駆使しながら、なんとか日本に帰るために頑張る、英雄伝説などの主人公には到底なれない、元おっさん達の物語。



「パパ、なんとかがおおいよ」



「なんとかだからしょうがないよね」


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